今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。
「かいつまんで言う、手短に言う、ほとんど最短距離で言うことに熱中して何のトクがあるかというとあるのです。読者はずいぶんこみいった話が、こんなにすらすら分るのだからと一種の快感をおぼえます。ひそかに自分の頭はいいと思っていたが、案の定よかったと安心します。分ったのではない、分らせたのだからそれは書いたほうの手がらで読んだほうの手がらではないのですが、そう言うとカドがたちますから言いません。読者の頭がよくなるにまかせます。これを花を持たせると言います。花を持たせて二十なん年になります。
コラムの極はついにひとことで言うことで、そんなことが出来るかというと出来るのです。ためしに言ってみましょう。
『春秋に義戦なし』
『春秋に義戦なし』
念のために繰返しましたが口で言ってひとこと、字で書いて十字に足りません。これだけで分るひとには分ります。なぜ分るかというと分ろうと思って待ちかまえているからで、待ちかまえていない人には千万言を費しても分りません。故に費しません。費す人もありますがそれは別派です。」
(山本夏彦著「生きている人と死んだ人」文春文庫所収)
「かいつまんで言う、手短に言う、ほとんど最短距離で言うことに熱中して何のトクがあるかというとあるのです。読者はずいぶんこみいった話が、こんなにすらすら分るのだからと一種の快感をおぼえます。ひそかに自分の頭はいいと思っていたが、案の定よかったと安心します。分ったのではない、分らせたのだからそれは書いたほうの手がらで読んだほうの手がらではないのですが、そう言うとカドがたちますから言いません。読者の頭がよくなるにまかせます。これを花を持たせると言います。花を持たせて二十なん年になります。
コラムの極はついにひとことで言うことで、そんなことが出来るかというと出来るのです。ためしに言ってみましょう。
『春秋に義戦なし』
『春秋に義戦なし』
念のために繰返しましたが口で言ってひとこと、字で書いて十字に足りません。これだけで分るひとには分ります。なぜ分るかというと分ろうと思って待ちかまえているからで、待ちかまえていない人には千万言を費しても分りません。故に費しません。費す人もありますがそれは別派です。」
(山本夏彦著「生きている人と死んだ人」文春文庫所収)
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