今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)の著書「完本 文語文」から。
「私は新入社員に手紙の書き方をカードにして与えたことがある。会社の商用の手紙、同返事はB6判のカードにすれば二十枚で尽きる。社員がそれに従って書いて半年もすれば、退屈して字句の二、三に工夫を加えるようになる。才能があるものである。才能がないものは紋切型で終る。紋切型はつまらないが晦渋難解なことはない」
「せっかく手本があるのに、一日かかって書き悩んでいる新入社員がある。手本通りに書きたくない、屈辱だという。各人に個性がある、模倣するなと教わって育ったものの優等生である。モデルに従って自家薬籠中のものにして、それからぬけ出てはじめて個性(に近いもの)だと言っても優等生だから耳を傾けない。彼も犠牲者であろうが私も犠牲者である。早晩この教育はくつがえるだろう。」
「十読は一写に如(し)かない。」
(山本夏彦著「完本 文語文」文藝春秋社刊 所収)
「私は新入社員に手紙の書き方をカードにして与えたことがある。会社の商用の手紙、同返事はB6判のカードにすれば二十枚で尽きる。社員がそれに従って書いて半年もすれば、退屈して字句の二、三に工夫を加えるようになる。才能があるものである。才能がないものは紋切型で終る。紋切型はつまらないが晦渋難解なことはない」
「せっかく手本があるのに、一日かかって書き悩んでいる新入社員がある。手本通りに書きたくない、屈辱だという。各人に個性がある、模倣するなと教わって育ったものの優等生である。モデルに従って自家薬籠中のものにして、それからぬけ出てはじめて個性(に近いもの)だと言っても優等生だから耳を傾けない。彼も犠牲者であろうが私も犠牲者である。早晩この教育はくつがえるだろう。」
「十読は一写に如(し)かない。」
(山本夏彦著「完本 文語文」文藝春秋社刊 所収)