今日の「お気に入り」。
「……私はかねがね北国の人間が口が重いというのは偏見だと思っている。
あれは外部の、自分たちよりなめらかに口が回る人種の前でいっとき口が
重くなるだけのことで、内輪同士ではそんなことはない。
子どものころ、私は村の集会所あたりで無駄話にふけっている青年たち
の話をよく聞いたものだが、彼らがやりとりする会話のおもしろさは絶妙
だったという記憶がある。弾の打ち合いのように、間髪をいれず応酬され
る言葉のひとつひとつにウィットがあり、そのたびに爆笑が起きた。村の
出来事、人物評、女性の話など、どれもこれもおもしろかった。私たち子
どももおもしろがって笑っていたら、突然に怒られて追い立てられたのは、
野の若者たちの雑談の成り行きの自然で、話が少し下がかって来たから
だったろう。」
(藤沢周平)
「……私はかねがね北国の人間が口が重いというのは偏見だと思っている。
あれは外部の、自分たちよりなめらかに口が回る人種の前でいっとき口が
重くなるだけのことで、内輪同士ではそんなことはない。
子どものころ、私は村の集会所あたりで無駄話にふけっている青年たち
の話をよく聞いたものだが、彼らがやりとりする会話のおもしろさは絶妙
だったという記憶がある。弾の打ち合いのように、間髪をいれず応酬され
る言葉のひとつひとつにウィットがあり、そのたびに爆笑が起きた。村の
出来事、人物評、女性の話など、どれもこれもおもしろかった。私たち子
どももおもしろがって笑っていたら、突然に怒られて追い立てられたのは、
野の若者たちの雑談の成り行きの自然で、話が少し下がかって来たから
だったろう。」
(藤沢周平)