「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2019・03・09

2019-03-09 06:25:00 | Weblog







  今日の「お気に入り」。


   「 ヒトラーの全盛時代は十年である、おごる平家だって二十年である。栄枯は一炊(いっすい)の夢だと

    書いたら一睡の夢だろう、字引ぐらい引け、またそのまま印刷に付す編集部も編集部だという手紙を

    もらったので驚いたことがある。

     『邯鄲の夢の枕』また『盧生の夢』の故事はまだ生きているつもりで書いたのは必ずしも私の落度

    ではない。謡曲に『邯鄲』がある。黄表紙に『金金先生栄花夢』がある。盧生という若者が栄華の都

    邯鄲の旅籠(はたご)で粥(かゆ)を待つうちついうとうと眠ると、富貴をきわめたり零落したりする一

    生の夢を見た。目ざめればもとの盧生である。粥はまだ炊きあがっていなかった。

     夕(ゆう)べは一睡もしなかったという言葉はむろんあるが、栄華は一炊の夢でなければならない。 」

          ( 山本夏彦著 「『豆朝日新聞』始末」 文春文庫 所収 )




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