2010年代 、家庭の事情やら天災やら何やらで 、
読書どころではなかった時期が 、続いた 。
その十年余りの間に 、世間で発表された小説 、随
筆などを 、多少心の余裕を取り戻し 、時間の余裕
もできた 今日この頃 、読んでいる 。
直木賞や本屋大賞などの受賞作や候補作の中から選
んで読むだけでも 結構の数あるし 、読み応えのある
ものも沢山ある 。
今日の「 お気に入り 」 は 、最近読んだそうした本の
中から書き留めた 文章 。
引用はじめ 。
「 床屋で髪を切るのは何年ぶりだろう 。高校を卒業
してからは 、流行(はや)りのヘアスタイルにしたく
て 、美容院でカットするようになった 。なにしろ ( 自慢じゃないが 77 のこの歳迄
行きつけだった床屋のオヤジは 、いつも僕の髪を自 美容院で髪を切って貰ったこと
分と同じ七三分けにしようとするのだ 。 」 がない 。 )
「 石鹸の匂いに振り返る 。店主が四角い陶器に茶せ
んに似たブラシを突っこんで泡だてていた 。
そうなのだ 。床屋は髭も剃ってくれる 。近所の床
屋に通っていた頃の僕は 、髭なんてろくに生えてい
なかったから 、いつも料金の安い調髪のみのコース
を選んでいた 。他人に髭を剃ってもらうのは 、たぶ
ん初めてだと思う 。 」
「 床屋の円柱看板の三つの色は 、赤が動脈 、青が静
脈 、白は包帯を表している 。僕にそれを教えてくれ
たのは 、かつて通っていた床屋のオヤジだ 。昔のヨ
ーロッパでは 、床屋は体の悪い血を抜き取る治療を ( "瀉血"という言葉を思い出す 。 )
行う外科医でもあったから 、その目印なのさ 。オヤ
ジは自分が昔は外科医だったかのように威張ってそう
言っていた 。
沿道に置かれたこの店の円柱看板には電源がなく 、
赤と青の血管に流れている血は凝固したまま動かな
い 。 」
( 荻原浩著 「 海の見える理髪店 」集英社文庫 所収 )
引用おわり 。
今回読んだ小説は 、若年性アルツハイマー病をテーマに 、
2004年に発表され 、山本周五郎賞を受賞した「 明日の
記憶 」でお名前を知っている作家が 、2016年に書かれ
た短編(?)小説「 海の見える理髪店 」 。同じ電子書籍に収録
されている作品は 、以下の六篇 。
「 海の見える理髪店 」「 いつか来た道 」「 遠くから来た
手紙 」「 空は今日もスカイ 」「 時のない時計 」「 成人式 」
この六作のなかでは「 海の見える理髪店 」が筆者にとっ
ては一番面白かった 。直木賞受賞作 。
。 。(⌒∇⌒)! 。 。
( ついでながらの
筆者註 :「 荻原 浩(おぎわら ひろし 、1956年6月30日 - )
は 、日本の小説家・推理作家 。埼玉県大宮市( 現・
さいたま市 )出身 。埼玉県立大宮高等学校 、成城大
学経済学部卒業 。 」
以上ウィキ情報 。 )