今日の「 お気に入り 」は 、沢村貞子さん ( 1908 - 1996 ) のエッセイ
「 わたしの献立日記 」( 中公文庫 ) から 「 寒暖計 」と題した小文の一節 。
備忘のため 、抜き書き 。
引用はじめ 。
「 うちの台所の寒暖計は 、細い柱からはみ出すほど大きい 。
使い慣れた小型のものを五年ほど前に取りかえたのは ――
老眼のためである 。献立日記二十二冊目 ( 五十七年 ) から
は 、日附 、お天気のほかに温度もつけるようになった 。毎
朝八時 、ゴミ袋を外へ出すとき 、たしかめることにしている 。 」
( ´_ゝ`)
「 ぬか漬けの味のよしあしは 、ぬか床の中の酵母菌と酸菌の
戦争の結果だという 。朝晩 、よくよくかきまぜて酸素を充
分ふくませれば 、酵母菌の勢がまして 、よい味になるし 、
何日も放っておけば 、酸菌が威張り出して 、鼻をつくよう
な酸っぱい匂いがする 。台所仕事ばかりしている奥さんを 、
『 ぬかみそ臭い女房 』などというけれど ―― どちらかと
言えば 、不精な奥さんということになるのではないかしら 。 」
( ´_ゝ`)
「 その年の陽気によるけれど 、ぬか漬けを楽しめるのは大体 、
三月から十月いっぱい 。十一月の声をきけば ―― ぬか床に
残っている古づけや昆布 、大豆など余分なものをすっかりと
り出し 、天塩でニセンチほどの厚い塩蓋をして 、ゆっくり冬
眠してもらう 。食卓には 、いれかわりに 、たっぷりの昆布と
柚子 、少量の唐辛子に適量の塩 ―― 重しをきかして漬けこん
だ白菜づけ ―― これも 、なかなか美味しい 。
それにしても 、近頃の野菜の悲しいほどのまずさは 、どうい
うことかしら 。どんなご馳走のあとでも 、お茶漬けを一口食
べたい私は ・・・ 何とかして 、すこしでも味をよく漬けよう 、
と 、毎日 、この大きい寒暖計を眺めている 。 」
( ´_ゝ`)
「 献立ひとくちメモ
漬物のコツ
『 ぬか味噌の中では酵母菌と酸菌の戦争である 。酵母菌を
たすけてやれば 、いやな匂いは消える筈 』三十数年前 、
大学生の投書を新聞で読んで以来 、わが家では朝かきまわす
度にビオフェルミンの錠剤を 、夏は十粒 、春秋五粒ほどまぜ
ている 。そのせいか 、いつもおいしい 。漬け込んだ野菜の
水分でぬか床がゆるくなりすぎたときは 、乾いた布巾をピッ
タリ貼りつけて水分を吸いとることも大切 。 」
引用おわり 。
野菜本来のおいしさは 、丹精込めて庭に作った畑 ( 家庭菜園 ) で
穫れたお野菜を 、知己からいただいて食べる 、その瞬間 感じる
ところ 。スーパーで買うものとは あきらかに違う 。
家でぬか漬けを作らなくなって久しい 。二十年前は 、家人が 、
ぬか漬けや白菜づけを 、毎日 、食卓に上せていてくれたなあ 。