
今日の「お気に入り」は、佐野洋子さん(1938-2010)のエッセー「死ぬ気まんまん」から。
「 私はだらしなく、やるべきことをずるずるのばし、整理整頓が下手で、考えると頭の
中の整理整頓が私の部屋のように散らかしっ放しだということがわかった。
父がよくどなっていた。『お前は、みそとくそと一緒か!!』
はい父ちゃん、私はみそとくそが一緒です。
それから父は夕飯の時、かならず訓辞をたれた。
『命と金は惜しむな』
父は命も惜しまず早死にして、母ちゃんは大変だった。
惜しむ金もないまま死んだ父はやっぱり、かわいそうである。
私は死んだ子を持ったことがないが、よくおいしいものを食べた母親が、あの子に
食べさせたいと思って泪が出るときくが、私は(今や何でもありの世の中になって)
おいしいものを食べると、あゝ父に食べさせたいと思う。
親が早く死ぬのも悪いことばかりではない。
のびのび自由になれるのである。父が長生きしたら、今の自分があるかどうかわか
らない。私は大いなるファザコンである。死んだから、ファザコンは肥大するばかり
である。だから私は命を惜しまない。金も惜しまない。」
(佐野洋子著「死ぬ気まんまん」光文社刊)
