TRASHBOX

日々の思い、記憶のゴミ箱に行く前に。

エグザイルス/ロバート・ハリス

2010年06月12日 | 読書とか
エグザイルス
ロバート・ハリス
講談社

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副題の「すべての旅は自分へとつながっている」――この格言めいてはいるけれど、もうひとつピンとこない物言いが、著書全体のトーンなのかもしれない。著者の波瀾万丈ぶりはハンパないのだが、文章として定着したときの精度にどこかあまさを感じてしまった。

それでも本物の体験の凄さは、至るところにあふれている。なぜかケンカして女に惚れてドラッグきめて、といったワイルド系の話よりも、人の心に潜む弱さや狂気に関する記述のほうが光っている気がするのが興味深い。たとえばオーストラリア大陸のど真ん中をキャンプしながら旅しているときの、連れの仲間の言葉。

『月を見ないほうがいいよ。こういうところであんまり月を長く見ていると、おかしくなってくる。なるべく星を見ていたほうがいいぜ』

そう、それほど詳しいわけではないが、あそこはコアラとカンガルーとオージーたちの陽気な国、というだけの場所ではない。生まれながらの廃墟のような土地のど真ん中にいると、どこか心がずれはじめる、みたいな面もあるのだと思う。


まあ前半部分は、ワイルドなヒッピーがそそくさと書いた日記のような趣なのだが、後半でチャーミングで感性豊かで、そしてどこかナイーブな弟のロニーが精神を病みはじめたあたりからの描写は切実で、同時に物語としての膨らみをみせてくる。

『(一時は立ち直りつつあったロニーが再びドラッグにはまっていくのを見て)僕がどんなに頑張って彼をこちらの世界へ引っ張ってこようと、彼がどんなに頑張って僕についてこようと、彼は僕の側の世界にも、自分が立っている世界にも、鋭い現実感のようなもを感じられなかったのではないだろうか』

そして著者自身、プライマル・スクリーム(バンドのほうじゃなく、心理学社アーサー・ヤノブの提唱した説。たとえばこの辺など)療法を受けて自らを再構築していくさまは感動的でもあった。もしかしたら、ある意味稚拙に思える文体は、著者の心の叫びを素直に伝えるためには必要なことだったのかもしれない。

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