マイケル・ムーア監督の最新作『華氏119』を。映画としての出来映えには気になるところもあったけれど、描かれている題材はリアルで深刻。単なるトランプ批判ではない、と私は感じました。監督の真意は、多くの人が泡沫候補だと見ていたドナルド・トランプの当選をある種のメタファーとして、「最大の悲劇は気づかないうちに忍び寄ってくる」ことを訴えることだったのでは。
印象に残ったのは、エマ・ゴンザレス(フロリダ州の高校で起きた銃乱射事件の体験者で、銃規制を訴えた)や、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(中間選挙で下院議員に立候補して当選)などの活き活きとした描き方。『ボウリング・フォー・コロンバイン』でも感じたのだけど、ムーア監督はそういった若い声と力への愛情と信頼を強く持っているのだと思います。ただ、その思いと、監督自身の主張がもうひとつ上手くブレンドされていないような読後感も。いいバンドのリズムセクションのような、いつもは後ろで鳴っているユーモアが少し控えめだったなぁ、という感じです(今回のテーマはかなり深刻なものではありますが)。
ところでタイトルのもととなった日付の11月9日(トランプが大統領選の勝利宣言を行った日)だったのは偶然ですが、1938年のこの日はドイツでの「水晶の夜」(反ユダヤ主義の暴動)が、そして1989年はベルリンの壁が崩壊した日でもあるのですね。
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