小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

樋口一葉 「大つごもり」

2005-12-31 19:56:03 | 小説
厳しい奉公先で真面目に働いていたお峯は、親同然の叔父が高利貸しから借りた借金の返済のために2円を大晦日までに工面しなければらなくなる。
しかし、奉公先の御新造は、承知したはずのお金を出してくれず、やむなくお峯は硯の引き出しから2円を抜き取ってしまう。
一葉は、苦しい境遇におかれた人々を実にリアルに描きます。
金持ち一家の嫌われ者である放蕩息子の心意気が救いとなっています。
岩波文庫「大つごもり・十三夜 他5篇」で、18ページ。
大つごもり・十三夜 他5篇

岩波書店

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志賀直哉 「剃刀」

2005-12-30 23:57:11 | 小説
書き入れ時に、床屋の主が風邪で寝込んでいたところ、剃刀を研いでくれとの依頼が来る。
無理をして研ぎにかかるが、うまくいかず、店まで出てきて作業をしていると、客がやってきて、髭を剃ることになってしまう。
疲れ切って剃り続けていると・・・。
どうしようもない程、心と体が磨り減ってしまうと、こんな風に追いつめられてしまうこともありそうだと、恐ろしく想像されます。
新潮文庫「清兵衛と瓢箪・網走まで」で、11ページ。
これとは全く異なりますが、尾辻克彦「肌ざわり」(河出文庫)は、床屋に髭を剃られる恐怖を客の側からユーモアたっぷりに描いています。
清兵衛と瓢箪・網走まで

新潮社

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肌ざわり

河出書房新社

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久生十蘭 「南部の鼻曲り」

2005-12-29 15:16:23 | 小説
日系二世のアメリカ人である、華奢な外見を持ちながら気の強い男についての物語。
戦前のアラスカの鮭罐工場で一緒に働いた日本人が語るのを、作者が聞くという形式をとっている。
主人公の強情ぶりがとても面白いです。
ラストのエピソードもきまってます。
現代教養文庫「久生十蘭傑作選IV 昆虫図」(品切れ)で、22ページ。
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尾崎一雄 「芳兵衛」

2005-12-27 23:59:29 | 小説
貧乏な作家の、天然な妻との生活を描いた連作「猫」、「暢気眼鏡」、「芳兵衛」、「擬態」の一つ。
夫の友人宅での無遠慮な振る舞いや、「お箸はやっぱり二本でなきゃ駄目ね」という発言など、実におかしい。
作者がモデルと思われる夫も、相当に困った人でありますが、そういう人でさえ困らせてしまうというところが愉快です。
新潮文庫「暢気眼鏡」(1994年復刊、品切れ)で、11ページ。
講談社文芸文庫「美しい墓地からの眺め」には、連作のうち「猫」以外が収録されています。
美しい墓地からの眺め

講談社

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横光利一 「新感覚論」

2005-12-26 23:54:27 | 評論・批評
「純粋小説論」の方は取り組みやすいのですが、この「新感覚論」は、どうにも理解するのが難しいです。
文学における感覚について考察した文章で、悟性と感性、主観と客観、個性原理と世界観念などの観点から述べられています。
文学の本質に関わる問題を追求しようとしているように思われます。
チャレンジ精神のある方は、ぜひ読み解いてください。
講談社文芸文庫「愛の挨拶・馬車・純粋小説論」(品切れ)で、12ページ。
「純粋小説論」の方は、岩波文庫「日本近代文学評論選 昭和篇」に収録。
日本近代文学評論選 昭和篇

岩波書店

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コメント (2)
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カフカ 「橋」

2005-12-25 23:57:00 | 小説
橋が主人公になって語ります。
思わず、自分が橋になったような気になって、その姿を想像してしまいます。
夢にも出てきそうです。
岩波文庫「カフカ短篇集」で、2ページ。
カフカ短篇集

岩波書店

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萩原朔太郎 「竹とその哀傷」(『月に吠える』より)

2005-12-24 23:52:29 | 
「地面の底の病気の顔」、「草の茎」、「竹」、「竹」、「すえたる菊」、「亀」、「笛」、「冬」、「天上縊死」、「卵」の十の短詩からなる。
イメージの展開とリズム感が優れています。
暗く沈んだ調子の中に、竹の勇ましい姿も差し挟まれ、地下から天上への運動とマッチして、寂寥感の中にも救いが生まれてくるような気がします。
この季節に読むのがふさわしそうです。
角川文庫「詩集 月に吠える」(1989年復刊)は、全詩収録で、田中恭吉と恩地孝四郎の挿画や附録も付いていて、充実しています。
岩波文庫「萩原朔太郎詩集」では、「竹とその哀傷」は全詩収録されているものの、その他は抄録です。
萩原朔太郎詩集

岩波書店

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金井美恵子 「プラトン的恋愛」

2005-12-23 23:53:38 | 小説
小説家である「わたし」が作品を発表するごとに、その小説は自分が書いたものであると主張する手紙が届く。
新しい小説「プラトン的恋愛」を執筆するために温泉に滞在していると、例の手紙の書き手と思われる女性に出会い、昼食をともにする。
帰京後、その女性から、手紙に添えて「プラトン的恋愛」の原稿が送られていた。
小説は書かれてしまえば、誰が書いたものであるかに関係なく存在するものであるし、作者自身にとっても、どうすることもできないものとなってしまう、ということなのでしょうか。
「作者の死」という言葉が浮かびます。
講談社文芸文庫「愛の生活・森のメリュジーヌ」で、12ページ。
愛の生活 森のメリュジーヌ

講談社

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ホフマンスタール 「チャンドス卿の手紙」

2005-12-22 23:57:13 | 小説
17世紀、若くして文学的成功を収めた公子が、文学から離れることを友人に宛てて書いた手紙という形を借りて、言葉で表現することの困難性を認識させる作品。
手紙の書き手は、一見とるに足らないような物に感動を覚えるが、それは言語化できるものではない、という。
それでも、この事態を伝えていくのは、やはり言語による表現によるしかないという、ねじれた関係性が、現代の文学の宿命であり、また、そこに面白さがあるということなのでしょう。
講談社文芸文庫「チャンドス卿の手紙・アンドレアス」(これも品切れ)で、20ページ。
チャンドス卿の手紙・アンドレアス

講談社

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寺田寅彦 「物売りの声」

2005-12-21 23:38:54 | 随筆・エッセイ
昭和10年に書かれた随筆ですが、アーカイブスを作るべきだというくらい、既に物売りの声は減り始めていたようです。
豆腐屋、納豆屋くらいはわかるのですが、「辻占売り」、「千金丹売り」、「枇杷湯葉売り」等になると、売ってる物自体がよくわかりません・・・
著者が科学者であるためか、物売りの声が間や音調を含めてきちんと記述されていて、その場で売り声を聞いているようで面白いです。
岩波文庫「寺田寅彦随筆集 第5巻」で、8ページ。
寺田寅彦随筆集〈第5巻〉

岩波書店

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