小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

岡本かの子 「花は勁し」

2005-12-20 23:53:31 | 小説
新興活花の師匠である38歳の女性の凛とした強さを描き出しています。
その陰には、病弱な年下の画家に寄せる秘かに思いもあったりします。
主人公の心の動きは勿論ですが、水槽の金魚や茨の棘を指で押す場面などの細部の描写にも注目して下さい。
小説としてはヘンなところもありますが、不思議な魅力のある作品です。
ちくま文庫「岡本かの子全集第3巻」(品切れ)で、31ページ。
青空文庫で電子データが読めます。
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尾崎一雄 「虫のいろいろ」

2005-12-19 23:18:23 | 小説
蜘蛛を閉じこめて我慢比べをしたり、蝿を額の皺に挟んで捕まえたりと、様々な虫についてのエピソードがユーモアを込めて思いつくまま綴られる。
その合間には死や人間の儚さについての考察も織り込まれる。
話があちこちと飛んで整然としていないのも一つの味かもしれません。
蝿を捕まえて家族を笑わせた後、自分の年齢に思い至り、不機嫌になって、「もういい、あっちへ行け」と言うラストがいいです。
岩波文庫「暢気眼鏡・虫のいろいろ 他十三編」(版元品切れ、まだある書店も?)で、17ページ。
講談社文芸文庫「美しい墓地からの眺め」にも収録。
美しい墓地からの眺め

講談社

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ジョセフ・コンラッド 「青春」

2005-12-18 18:52:24 | 小説
元船乗りたちが囲むテーブルで、一人の男が語る航海の物語。
二十歳の時、二等運転士となり、船尾に「斃れて後已む」と書かれた老船に乗って、イギリスから初めての東洋へ向け、数々の困難に遭いながら航海を続ける。
船火事と闘い、船の最期を見届けるまでの場面がいいです。
「ああ!青春だね!」
船長もいい味出してます。
岩波文庫「青春 他一篇」(1990年復刊、品切れ)で、50ページ。
webで検索してみたら、電子書籍があるようです。
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宇野浩二 「一と踊」

2005-12-16 23:58:48 | 小説
東京から遠く離れた田舎町に、お雛様のように向かい合う、おとぎ話のような関係にある芸者に会いに行く、作家の「私」。
その芸者に会うのが難しい状況になり、物足りない日々を宿で過ごしていたが、ある朝、山道を散歩中に一休みしていると、柴刈りに来たらしい二人の老婆が、「私」の存在には気が付かず、「ひとつをどって行かうかね、」と踊りをして、何事もなかったように去っていく。
これを目撃した「私」は大きな感動を受ける。
実に、ほんわかとしたいいお話です。読者も感動します。
新潮文庫「子を貸し屋」(1994年復刊、品切れ)で、24ページ。
これが手軽に読めないのは残念です。古本を探して下さい。

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梶井基次郎 「筧の話」

2005-12-15 23:05:22 | 小説
山中の散歩道にある筧の水音に不思議な魅惑を感じるという。
それは、暗鬱な周囲の中でひらめく閃光のようでもあり、理想の光と深い絶望とが二重写しになっている。
高校時代に読んだ梶井基次郎の文庫本(たぶん旺文社文庫)に入っていた作品中で、なぜか印象に残っている一つです。
ちくま文庫「梶井基次郎全集」で、4ページ。
梶井基次郎全集 全1巻

筑摩書房

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コメント (2)
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北村透谷 「人生に相渉るとは何の謂ぞ」

2005-12-14 23:47:10 | 評論・批評
山路愛山の功利的文学論への反駁として書かれた。
喩えが面白く、文章にも勢いがあって、説得力十分です。
「何ぞ人世に相渉らざるべからずと言わん。空の空の空を撃って、星にまで達することを期すべし、…」なんてカッコイイ。
岩波文庫「北村透谷選集」が品切れになっているのは残念。
同文庫の「日本近代文学評論選 明治・大正篇」に収録されています。(13ページ)
日本近代文学評論選 (明治・大正篇)

岩波書店

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久保田万太郎 「末枯(うらがれ)」

2005-12-13 23:44:15 | 小説
寄席芸人と、それをとりまく人々の世界を、下町を舞台に、季節感豊かに描いた大正6年の作品。
「義理」、「イクヂ」、「強情」、「人情」という言葉がどんどん出てきます。
前半はちょっとその世界に入りにくかったのですが、「べったら市が来た。-」で始まる後半は、よい味を出しています。
レトロな気分が味わえます。
岩波文庫「末枯・続末枯・露芝」に収録(品切れ)。(56ページ)
なお、本作は、中村明「名文」(ちくま学芸文庫)に取り上げられています。
名文

筑摩書房

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太宰治 「女生徒」

2005-12-12 23:58:13 | 小説
女学生が朝目覚めてから夜眠るまでの一日を、心の声で綴った名短篇。
文体も内容もカワイイです。
太宰のこういう作品も好きです。
新潮文庫「走れメロス」で、55ページ。
走れメロス

新潮社

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織田作之助 「ニコ狆先生」

2005-12-11 23:55:57 | 小説
狆にそっくりな顔をした忍術の先生に弟子入りし、「煙遁の術」修行のために苦手な煙草を吸って、それに馴れてニコチン中毒になったと思ったら煙草の配給が減らされるといったようなナンセンスなお話で、オチは駄洒落だったりします。
こんな作品を昭和20年1月に発表していたというのだから、すごいです。
「ちくま日本文学全集054 織田作之助」(品切れ)で、16ページ。
織田作之助

筑摩書房

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尾崎翠 「歩行」

2005-12-10 23:53:38 | 小説
家に滞在した心理学者が忘れられず、屋根裏部屋に住んで物思いに耽る「私」。
祖母は孫娘の物思いの原因を知らず、歩いて運動させるために、お萩を届ける使いに出す。
あたたかくゆるやかに流れていくような物語に、ホッとします。
「ちくま日本文学全集020 尾崎翠」で22ページ。(品切れ)
ちくま文庫「尾崎翠集成」で読めます。
代表作「第七官界彷徨」の独特な世界は必読です。
尾崎翠集成〈上〉

筑摩書房

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