小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

寺田寅彦 「電車の混雑について」

2006-02-27 23:19:32 | 随筆・エッセイ
満員電車での通勤・通学は苦痛です。
混雑を生んでいるのは、実は、来た電車にすぐに乗ろうとする乗客に原因がある、というのが著者の主張です。
こんな卑近な話題でも、仮説を立てて、それを説明するだけでなく、停留所で小一時間も時計を手にしてデータを集めるという熱心さに、科学者魂を感じます。
少し待てば空いた電車に乗れるのだけれども、趣味で満員電車に乗りたければ仕方ない、というのには、ちょっと笑ってしまいます。
岩波文庫「寺田寅彦随筆集第二巻」で、12ページ。
寺田寅彦随筆集 (第2巻)

岩波書店

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内田百間 「女子の饒舌に就いて」

2006-02-25 23:56:26 | 内田百
女性が話し好きということについて、百鬼園先生が自分の被った災難を交えながら面白おかしく語っています。
饒舌は健康に有益なので女性は長生きをするけれども、女性の饒舌は男には毒であるから早死にしてしまうなど。
ちなみに、一年中で、女性のおしゃべりが一番少ない月は2月だということです。
なぜって、日数が少ないから・・・。
まあ、かく言う百鬼園先生も、文章の上では相当な饒舌のようで。(笑)
旺文社文庫『随筆新雨』で、8ページ。
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横光利一 「春は馬車に乗って」

2006-02-23 23:58:03 | 小説
結核で死期の迫る妻を看病して過ごす海岸での初冬から早春までの暮らしを描く。
短い言葉で交わされていく会話が、切なくも、ちょっとしたおかしみを含んでいて、かえって泣かせます。
静かな悲しみに満ちた中で、互いの思いがぬくもりを与えてくれます。
理知的な横光にあって、情愛あふれる作品です。
岩波文庫「日輪・春は馬車に乗って 他八篇」で、22ページ。
日輪・春は馬車に乗って 他八篇

岩波書店

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寺田寅彦 「科学者とあたま」

2006-02-21 23:13:40 | 随筆・エッセイ
「科学者はあたまが悪くなくてはいけない」ということについて語っている。
常識的にわかりきったと思われるようなことの中に、疑問点を見いだし、それを苦心して解明していく物わかりの悪さが必要だ、というわけである。
言われてみれば当然のことですが、それを実にわかりやすく説いているところが、名随筆家の文章力だと思います。
効率優先の日常にあって、ふと立ち止まらせる一篇です。
岩波文庫「寺田寅彦随筆集 第四巻」で、6ページ。
寺田寅彦随筆集 (第4巻)

岩波書店

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牧野信一 「天狗洞食客記」

2006-02-19 22:38:06 | 小説
黙り込んで尊大に見えるポーズをとってしまう癖がついてしまった「私」は、兵術指南を行っている天狗洞にやっかいになることになる。
その道場での一番の難問は、美しい女弟子のテルヨさんに心を動かしてはならない、というものであった。
毎食一合の酒を飲む修行?で演技に苦しんだり、テルヨさんのことを妄想したりする姿が笑えます。
この馬鹿馬鹿しさがたまりません。
福武文庫「バラルダ物語」(品切れ)で、32ページ。
岩波文庫「ゼーロン・淡雪 他十一篇」に収録。
ゼーロン・淡雪 他十一篇>

岩波書店

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宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」

2006-02-17 23:50:10 | 小説
本線のシグナルと軽便鉄道のシグナレス(信号機の女性形?)の恋模様という奇抜な発想のお話。
他に本線シグナル附きの電信柱や真っ黒な倉庫などの登場人物が出てきます。
「若さま」と呼ばれるシグナルの高慢に思えてしまう発言や、シグナレスの卑下しすぎた態度に、ちょっと笑ってしまうこともあります。
光の明暗のコントラスト、色彩や音声の豊かさ、そして、動きのダイナミックさなど、アニメーションを見ているようで、場面が次々と鮮やかに浮かんできます。
アニメ化にぴったりだと思うのですが、どうでしょうか。
角川文庫『セロ弾きのゴーシュ』で、28ページ。
セロ弾きのゴーシュ

角川書店

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岡本かの子 「東海道五十三次」

2006-02-15 23:59:59 | 小説
「私」は、風俗史専攻の夫とともに、東海道を時をおいて何度か訪れる。
そこでは、東海道にはまり込んだ男やその息子との出会いもある。
時代の流れで変わるものもあれば、変わらぬ人の心もあります。
風流で乙な道中の様子が、せわしく生きる身にはうらやましく感じられます。
疲れた心を休めてくれる名短篇といえるでしょう。
新潮文庫『老妓抄』で、23ページ。
老妓抄

新潮社

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国木田独歩 「忘れえぬ人々」

2006-02-13 23:49:01 | 小説
溝の口の旅宿に泊まることになった無名の青年文学者が、隣室に泊まっていたやはり無名の青年画家に、「忘れ得ぬ人々」について語る。
それは、赤の他人であって、本来、忘れてしまっても人情も義理も欠かないのに、忘れてしまうことのできない人たちであるという。
瀬戸内の船の上から見かけた島の磯を漁る人、阿蘇で馬子唄を口ずさみながら通り過ぎていった若者、四国の三津ヶ浜の琵琶僧などである。
導入部では、宿屋の主人や家族の様子を、簡単な会話を通して上手く描き出していますので、この部分も楽しみたいです。
全体に、ゆったりしたペースで気持ちよく読んでいける、ほっとする作品です。
新潮文庫『武蔵野』で、17ページ。
武蔵野

新潮社

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ローデンバック 「肖像の一生」(『霧の紡ぎ車』より)

2006-02-12 22:42:00 | 小説
ブリュージュ滞在中、ある音楽家の自宅を訪ねると、ベギン会修道女の肖像が注意を惹きつけた。
肖像は、音楽家の曾祖母であり、その生涯が語られる。
彼女は、夫に死に別れ、授かった娘も、やがて不幸な結婚の末に亡くなってしまう。
娘の結婚後、修道女となっていたが、娘の残した二人の女の子を育てるために修道院を出ることになる。
彼女は、悪辣な父親から孫娘たちを守りぬいて一生を終える。
ここに物語られた人生は苦難に満ちたものですが、それでも忍耐強く生きていくしかない、ということを思わせられます。
ちくま文庫「ローデンバック集成」で、26ページ。
ローデンバック集成

筑摩書房

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安岡章太郎 「勲章」

2006-02-10 23:59:17 | 小説
終戦後、シケモク拾いに勤しんでいた「僕」は、進駐軍のいる第一相互ビルの「整備員」(掃除係)の職にありつく。
仕事のときに、米兵たちがくれる吸いさしのタバコをもらうのを楽しみにしている。
ある時、伍長を務める男から、父の勲章と引き換えにパイプを手に入れることに成功するが、その後、PXでシガレットの配給が途切れ、パイプを手放してしまった伍長はすっかりしょげてしまう。
敗戦の虚脱感と飢餓感の中で、劣等感や屈辱感も麻痺させて(というよりも超越して)、たくましい精神で生きる姿を、ハードボイルド(?)に描いているのがいいです。
それにしても、伍長の気の毒な姿がおかしいです。
講談社文芸文庫「ガラスの靴・悪い仲間」で、19ページ。
ガラスの靴・悪い仲間

講談社

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