小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

太宰治 「富嶽百景」

2006-01-30 23:02:14 | 小説
「私」は、思いをあらたにする覚悟で、御坂峠の茶屋にやってくる。
富士の俗っぽさに対する反感を持ちつつも、その雄大さへの畏敬の念が時に顔をのぞかせる。
茶屋の娘や地元の文学青年、見合い相手など、新たな人々との出会いによって、少しずつ希望が見えてくるところが、好ましい一篇となっています。
照れとユーモアを見せながら、歯切れのよい文体で書かれた文章も、とてもいいです。
「富士には、月見草がよく似合う。」
新潮文庫『走れメロス』で、29ページ。
走れメロス

新潮社

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室生犀星 「昨日いらつしつて下さい」

2006-01-28 22:56:08 | 
「きのふ いらつしつてください。
 きのふの今ごろいらつしつてください。」
と始まり、
「威張れるものなら威張つて立つてください。」
と終わる詩で、ご存知の方も多いことと思います。
この詩を読むと、何か取り返しのつかないことをしてしまったような、喪失感を感じます。
それでいて、キッパリとした女性からの言葉として、気持ちよく受け入れることができるようなところがあります。
叱責されながらも、叱ってくれることが嬉しいような、こそばゆい感じがしないでしょうか?
角川文庫「愛の詩集 室生犀星詩集」に収録。
愛の詩集―室生犀星詩集

角川書店

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井伏鱒二 「へんろう宿」

2006-01-27 22:20:03 | 小説
土佐の遍路岬で最終バスに乗り遅れた「私」は、質素な「へんろう宿」に泊まることになる。
疲れて眠り込んでいた「私」が、夜中に目を覚ますと、宿の働き手である女性の一人が、宿泊客に、自分たちがここで働いている経緯を話しているのが聞こえてくる。
ここにいる女性たちは、皆、宿泊客の捨て子だということであった。
そうした「重い」事実に拘わらず、そのことを、本人も聞き手も、自然に受け止め、人生の一日一日を重ねて生きていくというところが、感動的です。
読むと生きる元気が湧いてきます。
新潮文庫『山椒魚』で、8ページ。
山椒魚

新潮社

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牧野信一 「ゼーロン」

2006-01-25 23:44:00 | 小説
友人の彫刻家が、吟遊詩人である作者をモデルにして作った「マキノ氏像」を処分すべく、愛馬ゼーロンを借り受け、引き取り先をめざして出発する。
しかし、ゼーロンは、駄馬になってしまっており、村には不義理をしていることなどもあって、道中は苦難を極める。
ロシナンテに譬えられるゼーロンとの悪戦苦闘や半鐘をめぐる妄想?が面白いです。
全体的には、デカダン的な感じがします。
セーロンとの交流を描いた短編には、他に「夜見の巻 『吾が昆虫採集記』の一節」がありますので、こちらも併読してみて下さい。
『バラルダ物語』(福武文庫、品切れ)で、24ページ。
現在は、岩波文庫『ゼーロン・淡雪 他十一篇』で読めます。
ゼーロン・淡雪 他十一篇

岩波書店

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バルザック 「ニュシンゲン銀行-偽装倒産物語」

2006-01-23 22:59:01 | 小説
成り上がりの銀行家であるニュシンゲン男爵は、自分の会社の支払いをわざと滞らせ、債権者らをパニックに陥れて、その債権を高リスクな有価証券と引き換えに低価で買い取るという手法により、財産を形成する。
お金をめぐる人間ドラマの面白さは、さすがバルザックです。
いつの時代、どこの国にも、だます人とだまされる人がいるんですねえ。
お金はコワイ・・・
バルザック「人間喜劇」セレクション「金融小説名篇集」で、約100ページ。
(長めですが、今日は特別…)
金融小説名篇集

藤原書店

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志賀直哉 「山鳩」

2006-01-22 22:49:40 | 小説
作者の山荘に訪ねて来た友人が、バスを待つ20分ほどの間に、猟銃を持って出かけ、獲物を手にして帰ってくる。
作者は、それらの鳥を食べても何も思わなかったが、後で、普段見かけていた二羽の山鳩が一匹で飛んでいるのを見て気が咎める。
次の猟期には、近くで猟をしないよう友人に言うが、その友人は平気である。
自分の気持ちが一種のわがままであることを分かっていて、それをユーモアをこめて書いているようです。
「恐ろしい男」である友人が、憎めない人間として描かれています。
新潮文庫「灰色の月・万歴赤絵」で、約2ページ。
灰色の月・万暦赤絵

新潮社

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古井由吉 「雪の下の蟹」

2006-01-21 23:50:57 | 小説
大学教員となり、金沢で下宿する「私」が、記録的な豪雪の中で経験する、自分と人々の、いくばくか変調を来たした精神状態を描いています。
鬱屈した心が以前に見た、海底を這い回る蟹の姿の幻想が、象徴的に再び現れます。
初期の短編ですが、既に、古井由吉の特質がよく出ていると思います。
講談社文芸文庫「雪の下の蟹・男たちの円居」(品切れ)で、41ページ。
雪の下の蟹;男たちの円居

講談社

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金井美恵子 「豚」

2006-01-20 23:57:46 | 小説
町で家畜を買うことがブームだったころ、「あたし」の家では豚を飼うことになった・・・
豚をめぐる家族の様子を、小学生(?)の「あたし」が語るというような形をとっていますが、子供の無邪気を装った残酷さが出ていて、そのクールさが著者らしいです。
特に最後の方は、思わずニヤリとします。
講談社文芸文庫「ピクニック、その他の短編」で、14ページ。
ピクニック、その他の短篇

講談社

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マルセル・エメ 「われらが人生の犬たち」

2006-01-18 23:59:59 | 小説
おばあちゃんが孫たちに聞かせる代々の飼い犬のお話。
ちょっとずる賢い犬、人間並みに優れているのに悪ふざけが過ぎて命を落とした犬、グータラ犬など、それぞれの犬と人間との、楽しくもあり哀しくもあるエピソードが、次々と語られます。
犬に対する愛情が伝わってきますが、別れの場面では淡々として潔いところもあって、そのメリハリに好感を覚えます。
クールな作品が並ぶ中で、楽しく読める一篇です。
中公文庫「マルセル・エメ傑作短編集」で、20ページ。
マルセル・エメ傑作短編集

中央公論新社

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寺田寅彦 「天災と国防」

2006-01-17 23:57:12 | 随筆・エッセイ
「天災は忘れられたる頃来る」とのフレーズが有名ですが、「非常時」の時代に書かれたこの随筆で述べられているのは、国防ばかりでなく、自然災害に対する備えに国家として取り組むべきである、ということです。
戦争は人間の力で避けられなくもないが、天災は統計的現象として確実に起きるからというのが、その理由です。
文明の度が進むほど被害が大きくなることや、「教科書学問」による弊害など、適切な指摘に肯けます。
岩波文庫「寺田寅彦随筆集第5巻」で、10ページ。
寺田寅彦随筆集 (第5巻)

岩波書店

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