小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

室生犀星 「雨の詩」

2007-07-11 23:45:07 | 
しばらく雨がちのお天気が続きそうです。
そこで、室生犀星の「雨の詩」を。

「雨は愛のやうなものだ

  … (中略) …

 雨はいつもありのままの姿と
 あれらの寂しい降りやうを
 そのまま人の心にうつしていた
 人人の優秀なたましひ等は
 悲しさうに少しつかれて
 いつまでも永い間うち沈んでゐた
 永い間雨をしみじみと眺めてゐた」
 
雨降りを眺める気持ちがよく伝わってくる詩ですが、それにしても、「人人の優秀なたましひ等」という表現がどうも気になります。
「優秀なたましひ」ってどういうこと?
しかも、「等」って?
こうしたちょっと引っかかるところがあるのが、詩の面白いところですね。

愛の詩集―室生犀星詩集

角川書店

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石原吉郎 「木のあいさつ」

2007-07-05 23:43:56 | 
先ごろ、『石原吉郎詩集』を読みました。
シベリアでの強烈な体験に根ざした厳しい詩が多く、人間性をするどく問われる感じがします。
そんな中で、「木のあいさつ」という詩が、少し作風が違うのですが、一人の人間が存在することの希望や存在したことの意味を語っているように思えました。

「 ある日 木があいさつした
  といっても
  おじぎしたのでは
  ありません
  ある日 木が立っていた
  というのが
  木のあいさつです

  (…中略…)

  ですから 木が
  とっくに死んで
  枯れてしまっても
  木は
  あいさつしている
  ことになるのです 」

何だか好きな詩です。

石原吉郎詩集 (現代詩文庫 第 1期26)

思潮社

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萩原朔太郎 「陽春」(『月に吠える』より)

2007-02-16 23:59:23 | 
この「陽春」という詩は、「春は遠くからごむ輪のくるまにのつて来る。」と、春を擬人化して、人力車にのってくる様子を描いているのですが、その車夫とお客の春の頼りなさげなところがとっても面白いです。

後半部を抜き出すと、

 「ぼんやりした景色のなかで、
  白いくるまやさんの足はいそげども、
  ゆくゆく車輪がさかさにまわり、
  しだいに梶棒が地面をはなれ出し、
  おまけにお客さまの腰がへんにふらふらとして、
  これではとてもあぶなさうなと、
  とんでもない時に春がまつしろの欠伸をする。」

ということで、春の足取りのおぼつかなさが、ユーモアたっぷりに、実にうまく出ていますね。

萩原朔太郎詩集

岩波書店

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金子光晴 「(二人がのんだコーヒ茶碗が)」

2007-02-04 23:22:16 | 
「山之口貘君に」と添え書きがされている詩です。

「二人がのんだコーヒ茶碗が
 小さな卓のうへにのせきれない。」
とはじまって、二人が、テーブルを挟んで長い時間向かい合っている様子が浮びます。

「友も、僕も、しゃべらない
 人生について、詩について、
 もうさんざん話したあとだ。」
というわけです。
もう、話す必要もなく、お互いにそれぞれの想いに耽って、「かんばしい空虚」の「幸福な時間」をすごしているというのが、とてもいい感じです。

女たちへのいたみうた―金子光晴詩集

集英社

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金子光晴 「寂しさの歌」

2006-10-07 22:21:48 | 
「どつからしみ出してくるんだ。この寂しさのやつは。」

と始まるこの詩は、終戦の3ヶ月ほど前に書かれたもので、日本という国の「寂しさ」を露わにしています。
長々と描き出される「寂しさ」は、哀しいほどに当たっています。
そして、それは、今も残り続けているものといえるでしょう。

少し前に、山崎ナオコーラが、新聞の土曜版コラム(「指先からソーダ」)で、この詩が好きで、高校生の頃(?)、将来の夢は「日本脱出」だった、ということを書いていて、うなづけました。

「美しい国、日本」なんてマヤカシはやめて、この詩を教科書にでも載せてみたらどうでしょうか?

岩波文庫、集英社文庫などで。

金子光晴詩集

岩波書店

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田村隆一 「保谷」(『言葉のない世界』より)

2006-09-13 23:59:59 | 
突然に秋がやってきて、この詩を思い出しました。

「保谷はいま
 秋のなかにある ぼくはいま
 悲惨のなかにある」
とはじまり、(中略)

「ちいさな部屋にちいさな灯をともして
 ぼくは悲惨をめざして労働するのだ
 根深い心の悲惨が大地に根をおろし
 淋しい裏庭の
 あのケヤキの巨木に育つまで」
と結ばれます。

孤独と、一見、絶望を思わせますが、全体を読むと、それを原動力にして、世界を作り上げていこうとする、ある種の強さを感じることもできます。
(まったく勝手な読み方かも知れませんが・・・)

ともかく、武蔵野の秋にぴったりの詩だと思います。

講談社文芸文庫「腐敗性物質」に収録。

田村隆一「腐敗性物質」(講談社文芸文庫)

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萩原朔太郎 「およぐひと」(『月に吠える』より)

2006-07-29 23:39:37 | 
今日は、真夏日になったので、涼しげな詩を。

 およぐひとのからだはななめにのびる、
 二本の手はながくそろへてひきのばされる、
 およぐひとの心臓(こころ)はくらげのやうにすきとほる、
 およぐひとの瞳(め)はつりがねのひびきをききつつ、
 およぐひとのたましひは水のうへの月をみる。

この詩をはじめて読んだのは、たぶん、小学生のときの国語の時間だったと思いますが、ずっと印象に残っています。
泳ぐ人の美しいフォームと、水の中の静かで透明な世界が、目に浮かんでくるようです。

角川文庫のリバイバル復刊『詩集 月に吠える』で読みましたが、岩波文庫の『萩原朔太郎詩集』には入っていませんでしたので、『月に吠える』が全編収録されている本などでお読み下さい。
詩集 月に吠える

日本図書センター

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萩原朔太郎 「五月の貴公子」(『月に吠える』より)

2006-05-22 23:59:35 | 
「若くさの上をあるいてゐるとき、
 わたしは五月の貴公子である。」
五月の爽やかな陽気の中、気持ちよい草の上を歩いていけば、靴は白い足跡を残すかもしれない。
様々な憂愁も消えてなくなってくれれば…。
つかの間、そんな想像をさせる、この季節にふさわしい詩です。
岩波文庫などで。
萩原朔太郎詩集

岩波書店

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萩原朔太郎 「雲雀料理」冒頭の文章 (『月に吠える』より)

2006-05-12 23:59:40 | 
詩集『月に吠える』の「雲雀料理」のパート冒頭に、次のような文章が、枠囲いをされて書かれています。
 「五月の朝の新緑と薫風は私の生活を貴族にする。
  したたる空色の窓の下で、私の愛する女と共に純
  銀のふおうくを動かしたい。私の生活にもいつか
  は一度、あの空に光る、雲雀料理の愛の皿を盗ん
  で喰べたい。」
こんなハイカラ(!)な言葉がぴたりと来るのが、本来の五月の陽気のはずなのですが、今週は梅雨のような天気となってしまっています。
それにしても、「雲雀料理」って、どんなものか気になります・・・
岩波文庫『萩原朔太郎詩集』などで。
萩原朔太郎詩集

岩波書店

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西脇順三郎 「天気」(詩集『Ambarvalia』より)

2006-05-01 23:59:33 | 
『Ambarvalia』の最初のパートである「ギリシア的抒情詩」の冒頭に掲げられた、「天気」と題するこの詩は、たった3行からなる次のようなものです。

 (覆された宝石)のやうな朝
 何人か戸口にて誰かとさゝやく
 それは神の生誕の日。

ここには、感情の吐露も、思想の表出もありません。
ただただ、鮮やかなイメージの創出に圧倒されるばかりです。
何事にもとらわれない、詩のための詩、という感じがします。

講談社文芸文庫『Ambarvalia・旅人かへらず』は在庫がないようですので、他の本でお読み下さい。
Ambarvalia

日本図書センター

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