鳥屋の檻にいた豹が、抜け出してきて人々を喰いはじめる。
どうやら、この豹は、「私」を狙っているようで、必死の逃走を図るのだが…
この作品の「豹」は「私」の過去を象徴しているようです。
「そんな事を云つてはいけない」というのは、「過去の罪をほじくり出すな」ということになるのでしょう。
しらを切りつづけることは所詮無理ということで、最後は泣き笑いするしかないですね。
恐怖が笑いに反転するところがいいです。
実際、こんな夢を見てしまいそうな気がします。
岩波文庫『冥途・旅順入城式』などで。
どうやら、この豹は、「私」を狙っているようで、必死の逃走を図るのだが…
この作品の「豹」は「私」の過去を象徴しているようです。
「そんな事を云つてはいけない」というのは、「過去の罪をほじくり出すな」ということになるのでしょう。
しらを切りつづけることは所詮無理ということで、最後は泣き笑いするしかないですね。
恐怖が笑いに反転するところがいいです。
実際、こんな夢を見てしまいそうな気がします。
岩波文庫『冥途・旅順入城式』などで。
冥途・旅順入城式岩波書店このアイテムの詳細を見る |
この日、山田青年は、軍事教練のため、電車に乗って御殿場に向かいます。
寒さを警戒して、「メリヤスのシャツ一枚、毛糸のジャケツ二枚、毛糸のチョッキ、背広のチョッキ、教練服の冬服、冬の制服、おまけにレインコート合計八枚。下は、サルマタにモモヒキに、教練ズボンに制服ズボン、靴下三枚」とものすごい重ね着です。
身動きもままならなさそうですね。
さて、御殿場で電車を降りてから、子供たちが「何だかごっこ」を夢中になってやっているのを見て、「傍から見ると馬鹿馬鹿しいが、大人の感激することだってこれと同じことだと思える。大人のやるすべてのこと、みな何だかごっこだ、という思いがこのごろ自分の胸を深く占めつつある。」と記します。
これは、現代の世界にもあてはまりそうです。
夜は、民家に泊めてもらうのですが、二階に泊まった連中が床をどんどん鳴らし、一階との間でひと騒動になるという、戦時中とは思えない、学生たちの子供っぽさが意外でした。
続く22日、23日の日記にも、学生たちの間で、あきれ顔の山田青年の姿が思い浮かぶようです。
「なるほど、自分みたいな青年ばかりだったら、日本は消滅してしまうにちがいない。しかしそんなことなら消えてしまった方がいい。」(11/24)
そういえば、この日記の副題は、「滅失への青春」でした。
寒さを警戒して、「メリヤスのシャツ一枚、毛糸のジャケツ二枚、毛糸のチョッキ、背広のチョッキ、教練服の冬服、冬の制服、おまけにレインコート合計八枚。下は、サルマタにモモヒキに、教練ズボンに制服ズボン、靴下三枚」とものすごい重ね着です。
身動きもままならなさそうですね。
さて、御殿場で電車を降りてから、子供たちが「何だかごっこ」を夢中になってやっているのを見て、「傍から見ると馬鹿馬鹿しいが、大人の感激することだってこれと同じことだと思える。大人のやるすべてのこと、みな何だかごっこだ、という思いがこのごろ自分の胸を深く占めつつある。」と記します。
これは、現代の世界にもあてはまりそうです。
夜は、民家に泊めてもらうのですが、二階に泊まった連中が床をどんどん鳴らし、一階との間でひと騒動になるという、戦時中とは思えない、学生たちの子供っぽさが意外でした。
続く22日、23日の日記にも、学生たちの間で、あきれ顔の山田青年の姿が思い浮かぶようです。
「なるほど、自分みたいな青年ばかりだったら、日本は消滅してしまうにちがいない。しかしそんなことなら消えてしまった方がいい。」(11/24)
そういえば、この日記の副題は、「滅失への青春」でした。
戦中派虫けら日記―滅失への青春筑摩書房このアイテムの詳細を見る |
食べ物へのこだわりのある百先生、窮乏生活の中、停留所の前にある水菓子屋の果物を横目に通りすぎるばかりであったが、ある時、お金が入って林檎を買うことに。
ここで、百先生は、林檎の味と値段の関係がとっても気になり、様々な値段の林檎を買い集めて食べ比べてみたくなってしまいます。
林檎を買い進めていく様を見て怪訝そうな店員に、それぞれの値段を林檎に書き込みたいと言うと、血相を変えて、敵意をむき出しにされます。
まあ、いかにも同業者のスパイのような行動で、怪しい客と思われても仕方がないところもありますが・・・
腹の虫が納まらない百先生は、ご丁寧にも、店の主人に抗議の手紙を書いて送ったというのですから、相当の怒りです。
こんなコワイ先生ですが、その後、電車の乗り降りの度に、いつ迄も気づまりな思いをした、というところが、ちょぴり可愛いですね。
旺文社文庫『鶴』で、3ページ。
ちくま文庫『内田百集成12 爆撃調査団』に収録されています。
ここで、百先生は、林檎の味と値段の関係がとっても気になり、様々な値段の林檎を買い集めて食べ比べてみたくなってしまいます。
林檎を買い進めていく様を見て怪訝そうな店員に、それぞれの値段を林檎に書き込みたいと言うと、血相を変えて、敵意をむき出しにされます。
まあ、いかにも同業者のスパイのような行動で、怪しい客と思われても仕方がないところもありますが・・・
腹の虫が納まらない百先生は、ご丁寧にも、店の主人に抗議の手紙を書いて送ったというのですから、相当の怒りです。
こんなコワイ先生ですが、その後、電車の乗り降りの度に、いつ迄も気づまりな思いをした、というところが、ちょぴり可愛いですね。
旺文社文庫『鶴』で、3ページ。
ちくま文庫『内田百集成12 爆撃調査団』に収録されています。
爆撃調査団―内田百〓集成〈12〉筑摩書房このアイテムの詳細を見る |
しばらくぶりの更新で、こんな暗い作品というのも何ですが・・・
主人公の圭一郎は、故郷に妻子を残し、千登世と駆け落ちして、東京に出てきています。
冒頭、風邪で熱を出して勤め先の業界新聞社を休んでいる圭一郎が、主人からの呼び出しの電報で、やむなく出社する場面で始まります。
その際の二人の様子からして、ちょっと大げさです。
千登世:「ほんたうに苦労させるわね。すまない…」
(蒼白い瓜実顔を圭一郎の胸に押し当ててしゃくりあげながら)
圭一郎:「泣いちや駄目。これ位の苦労が何んです!」
また、いつも停留所まで送り迎えしているほどの熱々ぶりです。
辛いことは重なるもので、出社してみると、妹から、父や妻子の様子を知らせる手紙が来ていて、圭一郎の心を苛みます。
そして、妻の過去が圭一郎にとって深い傷になっていることが語られるのですが、そのことへの執着があまりにも強いことに、大抵の読者は引いてしまうのではないでしょうか。
最後は、圭一郎の罪悪感と生活の苦労から来る千登世の衰えぶりを描いて、今後の生活への不安を感じさせるものとなっています。
この不安は、第二作で代表作でもある「崖の下」へつながっていくわけです。
嘉村磯多の作品は、師の葛西善蔵に感じられるユーモアや、近松秋江の徹底したダメ男ぶりのおかしさといったものがなく、倫理的(というのも妙ですが)、観念的な感じがします。
講談社文芸文庫『業苦・崖の下』などで読めます。
主人公の圭一郎は、故郷に妻子を残し、千登世と駆け落ちして、東京に出てきています。
冒頭、風邪で熱を出して勤め先の業界新聞社を休んでいる圭一郎が、主人からの呼び出しの電報で、やむなく出社する場面で始まります。
その際の二人の様子からして、ちょっと大げさです。
千登世:「ほんたうに苦労させるわね。すまない…」
(蒼白い瓜実顔を圭一郎の胸に押し当ててしゃくりあげながら)
圭一郎:「泣いちや駄目。これ位の苦労が何んです!」
また、いつも停留所まで送り迎えしているほどの熱々ぶりです。
辛いことは重なるもので、出社してみると、妹から、父や妻子の様子を知らせる手紙が来ていて、圭一郎の心を苛みます。
そして、妻の過去が圭一郎にとって深い傷になっていることが語られるのですが、そのことへの執着があまりにも強いことに、大抵の読者は引いてしまうのではないでしょうか。
最後は、圭一郎の罪悪感と生活の苦労から来る千登世の衰えぶりを描いて、今後の生活への不安を感じさせるものとなっています。
この不安は、第二作で代表作でもある「崖の下」へつながっていくわけです。
嘉村磯多の作品は、師の葛西善蔵に感じられるユーモアや、近松秋江の徹底したダメ男ぶりのおかしさといったものがなく、倫理的(というのも妙ですが)、観念的な感じがします。
講談社文芸文庫『業苦・崖の下』などで読めます。
業苦・崖の下講談社このアイテムの詳細を見る |