小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

内田百 「時は変改す」

2007-10-14 23:50:05 | 内田百
今日は鉄道記念日。

汽車好きで知られる百鬼園先生に、鉄道80周年(1952年)の行事で、東京駅の名誉駅長の依頼がやってきました。(名誉駅長をするのは、鉄道記念日の次の日の10/15)
鉄道のこととなれば、気難しい百鬼園先生もさすがに乗り気になります。
ただし、型どおりの名誉駅長では納まりません。

まず、職員に聴かせる訓辞が、国鉄総裁に対する皮肉が込められた、ユーモアあふれるもので、秀逸です。

もう一つの秘密作戦というのは、当日の最重要任務が特急「はと」の発車の合図をすることであったのですが、この特急「はと」に飛び乗って行ってしまおうというのです。
百鬼園先生はこの特急が大好きで、それが走っていくのを黙って見ているのは、耐えられない、というのがその理由です。

ここまで思い通りに行動できるなんて、すごすぎます。
痛快ですね。

旺文社文庫『無伴奏・禁客寺』で、26ページ。
ちくま文庫『百集成(2) 立腹帖』に収録されています。
また、その時の威厳ただよう駅長姿は、同文庫の『百集成(24) 百鬼園写真帖』で目にすることができます。

立腹帖―内田百〓集成〈2〉 (ちくま文庫)
内田 百〓
筑摩書房

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内田百?集成24 百鬼園写真帖 (ちくま文庫)
内田 百?
筑摩書房

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内田百 「掻痒記」

2007-06-18 23:59:59 | 内田百
大学卒業後、妻子も抱えながら、遊食生活を送る百鬼園先生が、頭にできものが出来て痒みに悩まされます。
悶々とした気持ちが、身体症状と相俟って、百鬼園先生が苛立つ様子がひりひりと伝わってきます。
ところが、歴代の女中さんや出入りの運送屋さんの話題、家が近すぎると遅刻するという法則など、話があちこちに散らかるのが百マジック。
せっぱ詰まった状況のはずが、まったりした流れになったりする不思議さがあります。
そんな中で、床屋さんにかかるのが大問題となっていて、百先生の苦労ぶりが、真剣?かつユーモラスに描かれています。
きっぱりと坊主頭になれる百先生に、師の漱石先生もちょっと感心?している様子です。

旺文社文庫『無絃琴』で、17ページ。
ちくま文庫『百集成7 百鬼園先生言行録』で読めます。

百鬼園先生言行録―内田百けん集成〈7〉 ちくま文庫

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内田百 「記念撮影」

2007-03-29 23:59:04 | 内田百
大学で教えていた百先生が、卒業する学生たちに請われて、写真館で記念撮影をすることに。
百先生を真ん中に、学生たちが並んで、写真屋が撮影するのを待っていると、写真屋のせかせかした動きが、だんだん可笑しくて堪らなくなってきます。
じっとこらえていた先生ですが、若い学生たちは、笑いが今にも破裂しそうになっている様子。
写真屋がレンズの蓋を取ろうとすると、ついに吹き出す者がいて、一同爆笑。
写真屋さんは、さも情けないという表情をしています。
何度やり直しても、笑いが止まらず、写真屋がムキになるほど、可笑しさも増大してしまいます。
何とか撮影した写真では、みんな曖昧な表情をしていました。

最後に、「当時の連中はみんな大きくなつて、方方の役所や会社で尤もらしい顔をしてゐるから、今みんなを集めてレンズの前に列ばしても、もう笑はないだらう」と、若かりし時代を懐かしく思う気持ちが述べられています。

旺文社文庫『随筆新雨』で、3ページ。
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内田百 「摺りばん」

2007-02-24 23:59:44 | 内田百
最近、金属価格の高騰に目を付けて、半鐘の盗難が相次いでいるとのことです。
というわけで、百のこの随筆を思い出しました。

ラジオで火事のニュースが実況されているのを聞いて、至近の火事であるのに、半鐘が「摺りばん」ではなく、「三ツばん」だったのでちぐはぐな感じがした、というのが話の導入部です。
半鐘を鳴らすと野次馬が集まって消火活動の邪魔になるので打たないことしたということも書いてあるのですが、本当なんでしょうか?
鐘の打ち方の話から、いつの間にか、蒸気ポンプを牽く馬をとっかかりに、馬対自動車論争の話になり、最後はなぜか、髭の話になってしまいます。
髭にまつわるエピソードのみで、その人物の人柄が想像されるようです。

話を散らかすのも百マジックですね。

旺文社文庫『馬は丸顔』で12ページ。
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内田百 「泥坊三昧」

2007-01-27 23:52:04 | 内田百
百鬼園先生、泥坊に三代続けて入られたという借家に引っ越してきました。
そこで考えた対策が、「泥坊入口」、「泥坊さんこちらへ」、「泥坊通路」、「泥坊休憩所」などの立て札を作って、泥坊の気力をそごうというものです。
しかし、これは、家族が相手にしてくれず、立ち消えに・・・。

それから、話は、落語の中の泥坊噺に脱線したりします。

そして、泥坊に気に入られた借家での生活で、とうとう「事件」が起こります。
この「事件」で、百鬼園先生、ばつの悪い思いをすることに・・・ (苦笑)

旺文社文庫『有頂天』で、約11ページ。
ちくま文庫『百集成7 百鬼園先生言行録』に収録。

百鬼園先生言行録―内田百けん集成〈7〉 ちくま文庫

筑摩書房

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内田百 「門松の風」

2007-01-01 23:49:52 | 内田百
あけましておめでとうございます。
本年も、どうぞよろしくお願いします。

皆さんは、どんなお正月をお過ごしでしょうか?
私の方は、初詣に行ったり、年賀状を読んだり、雑煮を食べたり、といった定番どおりです。

さて、百鬼園随筆のどれかに、お雑煮の話が出ていたなあと思って、探し出したのがこの作品です。
元日は味噌汁、二日はぜんざい、三日に初めて普通の澄し汁というのが、内田家のしきたりとのこと。
御飯は大晦日以来食べてない、というのは、ちょっと驚きです。

そして、百先生のお正月の過ごし方なんですが、年末の金策?で奔走した後で、智慧をゆるめての寝正月になっています。
短くても11時間、長ければ13時間半という本格的なものです。
そんな風に眠っていると、しばしば、外の物音に驚かされて、そろそろ、智慧を働かさなければ、という気持ちになってくるそうです。

寝正月もまたよし、ですね。

旺文社文庫『船の夢』で、2ページ。


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内田百 「ゆふべの雲」

2006-12-18 23:52:11 | 内田百
床屋を出ると、急に日が暮れて、赤く大きな月が真っ黒な切れ雲に入り、あたりは真っ暗になってしまった。
何だか狐に騙されたようで、遠回りしてようやく家にたどり着くと、甘木さんが、「ウフッ」と笑う妖しげな大女を連れてきて待っています。
どうみてもただの人間ではありません。
そして、先生相手に、おかしな遊びをはじめるのですが・・・

百の「恐怖系」の作品に属するものですが、夢の続きを見ているようで、ちょっと艶めかしさも感じられる作品です。

「木くらげ」を「かじつて見ようか知ら、ごりごりと」というところが、やはりコワいです。(キャー!)

旺文社文庫『實説艸平記』で、6ページ。
講談社文芸文庫「戦後短篇小説再発見〈10〉表現の冒険」、
ちくま文庫「百集成<4> サラサーテの盤」等に収録。
戦後短篇小説再発見〈10〉表現の冒険

講談社

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内田百 「豹」

2006-11-25 23:59:48 | 内田百
鳥屋の檻にいた豹が、抜け出してきて人々を喰いはじめる。
どうやら、この豹は、「私」を狙っているようで、必死の逃走を図るのだが…

この作品の「豹」は「私」の過去を象徴しているようです。
「そんな事を云つてはいけない」というのは、「過去の罪をほじくり出すな」ということになるのでしょう。
しらを切りつづけることは所詮無理ということで、最後は泣き笑いするしかないですね。
恐怖が笑いに反転するところがいいです。

実際、こんな夢を見てしまいそうな気がします。

岩波文庫『冥途・旅順入城式』などで。

冥途・旅順入城式

岩波書店

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内田百 「林檎」

2006-11-15 23:51:43 | 内田百
食べ物へのこだわりのある百先生、窮乏生活の中、停留所の前にある水菓子屋の果物を横目に通りすぎるばかりであったが、ある時、お金が入って林檎を買うことに。

ここで、百先生は、林檎の味と値段の関係がとっても気になり、様々な値段の林檎を買い集めて食べ比べてみたくなってしまいます。
林檎を買い進めていく様を見て怪訝そうな店員に、それぞれの値段を林檎に書き込みたいと言うと、血相を変えて、敵意をむき出しにされます。
まあ、いかにも同業者のスパイのような行動で、怪しい客と思われても仕方がないところもありますが・・・

腹の虫が納まらない百先生は、ご丁寧にも、店の主人に抗議の手紙を書いて送ったというのですから、相当の怒りです。
こんなコワイ先生ですが、その後、電車の乗り降りの度に、いつ迄も気づまりな思いをした、というところが、ちょぴり可愛いですね。

旺文社文庫『鶴』で、3ページ。
ちくま文庫『内田百集成12 爆撃調査団』に収録されています。

爆撃調査団―内田百〓集成〈12〉

筑摩書房

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内田百 「素人写真」

2006-09-28 23:56:12 | 内田百
人事異動などで宴会の多い時期です。
たまにカメラを持ってきて写真を撮るように頼まれることがあるのですが、どうも苦手です。(写されるのも)

百先生は大の写真嫌いで、この文章では、宴会で写真を撮られることの不愉快さを語っています。まことに、ごもっともな意見です。
しかしながら、こんなに頑なに拒否されると、逆に、どうしても撮りたくなってしまうのも人情かも知れません。

「百鬼園写真帖」を見てみると、やはり不機嫌そうな表情のものが多いです。
でも、そういうところがいいですね。
数少ない笑顔の写真もいっそう引き立ちます。

旺文社文庫『鬼苑横談』で、2ページ。
ちくま文庫『集成12 爆撃調査団』に収録。

「内田百集12 爆撃調査団」

ちくま文庫

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「内田百集成24 百鬼園写真帖」

ちくま文庫

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