小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

武田博幸 『古典つまみ読み 古文の中の自由人たち』 (平凡社新書)

2020-05-06 21:29:49 | 読書
これは、昨年読んだ本ですが、面白かったので、紹介させていただきます。
予備校の講師を長年務めた著者が、大人向けに、古文に登場する「自由人」たちを、紹介しています。
ここに云う「自由人」は、広い意味を持っているように思われます。
取り上げられた古文は14作で、誰でも書名を知っているものから、それほど読まれていないであろうものまで、様々です。
まず、それぞれの作品についての概説と、取り上げた節の内容についての解説があって、最後に脚注付きの原文が掲げられていて、読みやすくなっています。
一番心に沁みたのは、『更級日記』の、姉妹と猫との触れ合いの場面です。
一方で、『芭蕉翁頭陀物語』の一節で、支考のたくらみがバレても飄々としている様子も面白かったです。
また、出家者たちの生き方も興味深く読みました。
古文の中に自由人たちを探してみるのはいかがでしょうか?


 
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鴨長明 『方丈記』

2020-05-05 19:04:19 | 読書
例年とはだいぶ異なるゴールデンウィークとなってしまいました。

今年のお正月に、書店で方丈記の文庫本を目にして久しぶりに読んでみようと思い、購入しました。
岩波文庫で、脚注、補注付きで、現代語訳はついてないものの、元の文がリズミカルで、短いものですから、意外とスムーズに読めました。最古の写本(大福光寺本)の印影も付されていて、往時の雰囲気も味わえます。
広く知られている「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゝ"まりたるためしなし。」との冒頭に代表されるように、無常観(感)に満ちています。
大火、辻風(竜巻)、福原遷都(人災?)、飢饉(その上疫病も)、震災など、都を襲った数々の災害に、無常を痛感し、後年には、都を離れた里山に、一丈四方の小屋を建てて住むというわけです。
しかし、悟りきっているわけではなく、いろいろな思いが交錯して、それが滲み出ているところが、かえって人間くさくてよいと思います。
都を離れて清々しているようでありながら、都の情報はしっかりフォローしていたりします。
いまも災厄の時代ですが、人間は昔から様々な困難に晒されてきていながらも、人の営みは続いていることを再認識しました。
後で購入した角川ソフィア文庫のビギナーズ・クラシックスの方は、意訳的な現代語訳がメインとなっていて、現代人に合った親切(ある意味で過剰な?)解説が付いているので、これも併せて読むと、様々な見方ができて一層興味深いです。







 
 
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中原圭介 『格差大国アメリカを追う 日本のゆくえ』

2015-07-18 17:22:16 | 読書
 本書では、格差拡大の一途をたどるアメリカの現状、とりわけ中間層の没落からはじめて、ギリシャやローマ、唐が、中間層の没落にともなって崩壊する歴史に触れ、日本のゆくえについて考える。
 株主資本主義の行きすぎにより、中間層が貧困予備層や貧困層に落ちてしまうことが生じ、さらにインフレ政策が実質賃金を下げて、格差をますます拡大させるアメリカの現状が紹介される。大企業の課税のがれや政治力による食品規制基準の緩和などについても触れられている。
 著者は、日本について、「失われた20年」は、けっして「失われた」ものではなく、企業が雇用を守った結果である、としている。しかし、その日本企業の価値観も壊れ始めてると憂慮する。

 経済・社会のあり方について考えてみるための一冊です。

格差大国アメリカを追う日本のゆくえ
クリエーター情報なし
朝日新聞出版
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斎藤美奈子 『名作うしろ読み』

2013-11-30 23:34:46 | 読書

 もう「読書の秋」は過ぎてしまいましたが、外は寒く、夜は長いこの季節、本を読むのは楽しみです。

 この『名作うしろ読み』は、古今東西の「名作」といわれる作品のラストの一文を紹介した読書ガイド(?)なのです。
 小説のラストを明かしてしまったらつまらないじゃないか、と思われるかもしれませんが、まあ、何しろ「名作」ですから、話の筋はなんとなく知っているでしょうし、著者が「お尻がわかったくらいで興味が半減する本など最初からたいした価値はないのである。」というとおりですので、ご安心してお読みください。


もちろん、ラストの文だけではなく、著者の鋭い短評もついてますので、興味深く読めます。
章建ては、「青春の群像」、「女子の選択」、「男子の生き方」、「不思議な物語」、「子どもの時間」、「風土の研究」「家族の行方」となっていて、ジャンル分けも面白いです。
こりゃ名作じゃなくて、「迷作」だと思ったり、やはり名作なんだなあと確認できたり。
再読したくなる作品もあれば、手にとる機会がなかったものを読むきっかけにもなりそうです。

紹介されているのは132冊、これ一冊で読んだ気になれる?

名作うしろ読み
クリエーター情報なし
中央公論新社

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高橋源一郎 『銀河鉄道の彼方に』

2013-08-04 23:56:59 | 読書
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を借りたこの小説には、哀しさが流れています。
読み進むにつれ、宇宙に流れるはるかな時間の中で、人間の小さくはかない存在を思い知られます。
次々と消えていくものや人や言葉や記憶。
そして、加速する時の流れ。
それでも、人は前に進んで行くという強さを持っている、という希望は残っています。
ポスト3.11の小説ということを感じずにはいられませんでした。

同じ文章の繰り返しや、引用の多さ、前作の『さよなら、クリストファー・ロビン』との類似部分がある点を不満に思う方はいるかも知れませんが、この小説はこういう形である必然性があったのだと思います。

小説は答えがないから面白いです。

銀河鉄道の彼方に
クリエーター情報なし
集英社

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なぎら健壱 『町の忘れもの』 (ちくま新書)

2012-11-17 22:49:42 | 読書
この本では、時代の流れの中で、いつの間にか忘れ去られ、消え去ってしまった、あるいは消えつつあるものが、「町の忘れもの」として、写真とともに綴られています。

60年代の地方生まれの自分にとっても、「あぁ、こういうのあったなあ」(ハエ取り紙、伝言板、行商のおばちゃんなど)というのもあれば、「こんなものまで消えようとしているのか」(戸袋、岡持、勝手口など)というのもあります。

東京などでは、ちょっと見ないうちに町の風景が変わってしまったり、変化を見過ごしてしまっていたりすることがあって、こわいくらいですね。

ここで取り上げられた「忘れもの」たちを見ていると、利便性の進化と、その一方で失ったゆるやかさについて考えてしまいます。

なぎらさんは、ホントに町歩きが(そして人間の暮らしが)好きなんですね。
いつか「忘れ物」になってしまうかも知れないものを身落とさないように、ゆっくり町を歩いてみたいです。

町の忘れもの (ちくま新書)
クリエーター情報なし
筑摩書房
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高橋源一郎 『さよなら クリストファー・ロビン』

2012-09-22 23:59:10 | 読書

この小説の中には、世界の寂しさと、それにもかかわらず、少しばかりの希望とがあります。
登場人物?は、お話の中の架空のものたち。
彼らは何のために現れ、また、消えていくのか?
人にとって、「お話」とはこんなにも大きなものだったのか、ということを思います。

これからも、私は、お話(小説でも、映画でも、漫画でも、アニメでも、絵本でも)を読み、この世界を生きていくことでしょう。

さよならクリストファー・ロビン
クリエーター情報なし
新潮社
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長山靖生 『戦後SF事件史』

2012-04-03 21:11:17 | 読書
戦後から21世紀ゼロ世代までの日本のSF業界周辺の歴史を一覧した本です。
ここでいうSFは、SF小説に限らず、漫画やアニメ、映画やテレビ、演劇、果ては現代美術と、広範囲に及んでいます。

SF業界において、ファンの影響力が大きかったというのをはじめて知りました。
コミケもけっこう歴史があるんですね。

安部公房が、50年代に、大手企業経営者に「コンピュータがなければ会社が一日もやっていけなくなる」と言って冷笑されたり、小松左京が、90年代に、原発の安全対策が70年代よりも後退し、形式的なものになっていると危惧していた、などの話も印象的でした。

これまで「SF」と特に意識してなかったのですが、子供のころからSFは身近にあったんだな、ということを感じました。
多くの方が、この本のどこかの部分で自分の歴史とつながるのではないかと思います。

いま、SFはなかなか多難な時期にあるのかもしれませんが、想像力は新しいものを生み出してくれるはず。

そういえば、先の芥川賞を受賞した円城塔さんは東北大でSF研に所属していたんですね。

戦後SF事件史---日本的想像力の70年 (河出ブックス)
クリエーター情報なし
河出書房新社
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芥川賞二作

2012-02-26 21:28:09 | 読書
今更ながら、芥川賞2作の感想を。

田中さんの『共喰い』は、会見での言動が話題になりましたが、作品自体は、話の内容に好き嫌いはあるでしょうが、正統派の小説で、読みやすく感じました。
特に、「川辺」という場の力が、一貫して物語を強く動かしていたように思います。
ちょっと中上健次を思い浮かべましたが、選考委員の中にも触れている方がいましたね。

円城さんの『道化師の蝶』は、最初の方はなかなかとっつきにくかったものの、章が進むにつれて、その世界に入っていけるようになりました。
捕まえようとしても、するりと抜けて裏返ってしまうような、とらえどころのない世界です。
これを硬い文体ではなく、くだけた文体でやってみると、もっと可能性が広がって面白いと思います。


共喰い
クリエーター情報なし
集英社


道化師の蝶
クリエーター情報なし
講談社

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瀬谷ルミ子 『職業は武装解除』

2011-11-12 20:38:16 | 読書
この本の著者の瀬谷さんは、紛争終了後、兵士たちからの武器回収をし、職業訓練を行って社会復帰をさせるという仕事をしています。
仕事場は、アフガニスタン、ソマリア、スーダン、シエラレオネ、ルワンダなどの紛争地帯です。
この仕事へと向かったきっかけは、高校三年の時に新聞で目にした、ルワンダの大虐殺で難民キャンプに逃れ、病気で死にかけている母親とその子供の写真だったとのこと。
なぜ多くの世界の人がこの報道を見ながら、何もしないのかと・・・
そんな瀬谷さんのポリシーは「やらない言い訳をしない」。

その行動力には圧倒されるばかりです。
単に理想を追っていくのではなく、相手の立場を考え、冷静に現実を分析して、壊れた社会を立て直していくところにプロ意識を感じました。
こんなすごい日本人女性がいたんですね。

(なお、この本の収益の一部は瀬谷さんが事務局長を務める日本紛争予防センター(JCCP)の現地支援に寄付されるそうです。)

職業は武装解除
クリエーター情報なし
朝日新聞出版
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