小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

安岡章太郎 「宿題」

2006-08-30 23:56:48 | 小説
夏休みも残り一日。
子供の頃、終わり近くになって、あわてて宿題の残りを片づけたものでした。
この「宿題」という小説は、そんな記憶から生まれた悪夢のような小説です。

弘前から東京の小学校へ転校してきた、小学五年生の「僕」は、夏休みもあと八日というとき、銭湯で同級生から、「宿題やったか?」と聞かれて、はじめて宿題帖をひらきますが、結局、最終日の夜まで書き込まれることはありません。
ところが、一晩でそれを仕上げる大胆な手がありました。
何とか無事に(?)乗り切ったと思われたのですが、もって生まれた性分の導くところは、大転落への道でした。
状況が悪化していくのを感じながらも、どうすることもできずに坂を転げ落ちてゆく小学生の姿が、可笑しさを生み出す一方で、また恐怖感をも引き起こします。

今夜は久しぶりに宿題の夢にうなされるかも知れません。

講談社文芸文庫『ガラスの靴・悪い仲間』で、38ページ。

ガラスの靴・悪い仲間

講談社

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岡本かの子 「金魚撩乱」

2006-08-29 23:59:45 | 小説
崖下で金魚屋に育った青年(復一)が崖上の邸宅に住む令嬢(真佐子)に抱く入り組んだ愛情を描きます。
真佐子を手に入れることができなかった復一は、自分の理想の美を追い求めて、金魚の新種の開発に没頭するのですが・・・
復一のねじれた感情と飄々とした真佐子の態度との対照が面白く、独特の表現も楽しめます。
子供時代に真佐子に振りまかれて口の中に貼りついた桜の花びらの記憶が蘇えるシーンや、大雨の後の見回り時に意識を回復した後の描写などが印象に残ります。

ちくま日本文学全集「岡本かの子」(品切れ)で、76ページ。

また、中沢新一「アースダイバー」の第6章「間奏曲 坂と崖下」でも、この小説について触れられていますので、ご参考まで。

岡本かの子

筑摩書房

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アースダイバー

講談社

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夏目漱石 「文展と芸術」

2006-08-27 23:59:04 | 評論・批評
漱石が1912年の文展(文部省美術展覧会)を見た際の批評です。
はじめに、「芸術は自己の表現に始まって、自己の表現に終わるものである。」として、芸術一般について述べています。
続いて、実際に文展で見た個々の作品の批評をしているのですが、ずいぶん辛辣なところもあって、漱石の率直な意見が書かれています。
また、以前に他の展覧会で見た作品への言及もあり、漱石が美術に対して大いに関心を抱いていたことがわかります。
「それから」の中でも、青木繁の絵に触れていましたね。
本館読書室で取り上げた「日本近代美術史論」にも、漱石の文章が引用されています。

この批評を読むには、文展出品作の絵画がどのようなものか知ることが必要と思います。以前(1980年)、講談社文庫ATで、「夏目漱石・美術批評」というのが出ていて、本作に加えて、出品作の図版や会場の見取り図などが収められていて、便利だったのですが…

日本近代美術史論

筑摩書房

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金曜日

2006-08-25 23:56:06 | 写真
今週も、お仕事お疲れさまでした。
よい週末を。


BESSA-R2M・HELIAR CLASSIC 50mm/F2・Velvia100F
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数学

2006-08-24 23:45:25 | 写真

BESSA-R2M・COLOR-SKOPAR 35mm/F2.5 PII・Velvia100F

数式や定理について「美しい」と言われることがあります。
学生時代に物理をやっていたので、ある程度は、その美しさというものを何となくは感じるのですが、ホントのところは、よくわかりません。

昨日の新聞に、ポアンカレ予想の解決の鍵を示した業績でフィールズ賞を授与されることになっていた数学者のペレルマン氏が、賞を辞退して雲隠れしてしまった、という記事が載っていました。
キノコ狩りが趣味というところが、ちょっと面白いです。

3年くらい前に、文庫化された「数学をつくった人びと」(I~III・ハヤカワ文庫)には、著名な数学者30人ほどの業績やエピソードがコンパクトに書かれていて、一口に数学者と言っても、実に人様々で面白かったです。

そして、ポアンカレで思い出すのが、漱石の「明暗」(第二回)です。
「偶然?ポアンカレーの所謂複雑の極致?何だか解らない」
そのポアンカレの残した課題を、百年かかって解いてきたというのですから、遠大な話ですね。

数学をつくった人びと 3

早川書房

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盆踊り

2006-08-23 23:58:39 | 写真

BESSA-R2M・HELIAR CLASSIC 50mm/F2・Velvia100F

先週末の夕方、公園で盆踊りの準備がされているのを見かけました。
それで思い出したのは、町田康の「告白」で、熊太郎が盆踊りでいろいろと空回りするシーンです。
この小説はなかなかの傑作でした。

告白

中央公論新社

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気になるカタチ

2006-08-21 23:54:17 | 写真
カメラを持って出かけたら、気になるカタチが現れました。
これは、市内のスポーツ施設の外壁です。
何だかレンズのテストでもしているような写真ですが・・・


BESSA-R2M・HELIAR CLASSIC 50mm/F2・Velvia100F
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坂口安吾 「堕落論」

2006-08-19 23:59:59 | 評論・批評
安吾は、終戦の翌年に書かれたこの文章で、人間は元来墜ちていくものであるところ、政治的に作られた価値観によって抑えられていたが、それから自由になることが必要だと、「生きよ墜ちよ、その正当な手順の他に、真に人間を救い得る便利な近道が有りうるだろうか。」と書いています。
しかし、墜ち続けることはとても苦しいことですから、人間は、そういう分かりやすい枠を求めてしまうわけなんですね。
作られた枠に従えば、ある意味で楽かも知れませんが、その術中にはまって後悔しないためには、自らよく考えていくことが必要ですね。
ところで、「堕落論」の中にも、靖国神社のことに触れられているのですが、世論調査で、首相の参拝に賛成する人が半分以上だったというのは、驚きでした。
(実際には、私の周囲の人に聞いてみると、そんなことはなさそうなのですが…)
ちくま文庫『坂口安吾全集14』で、12ページ。
堕落論

角川書店

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内田百 「爆撃調査団」

2006-08-17 23:55:26 | 内田百
終戦の年の秋、先の空襲で焼け出されて二畳の堀立小屋に住む百先生に、進駐軍からお呼び出しがかかります。
行く前の期待(「大きな自動車」・茶菓など)と、実際の調査の様子のギャップが、ちょっぴり可笑しく、また、皮肉を込めて書かれています。
しかし、「百鬼園戦後日記」の10/31と11/1の項を読めば、実際には、事前にどのような調査かはわかってるはずなので、このようなユーモアを含んだ内容に料理できるところが、百の才能ですね。
正面切った批判がなされているわけではありませんが、読む者は、どのような爆撃によって市民を恐怖に陥れることができるかということを追求するアメリカ(占領軍)の姿勢に、憤りを感じるはずです。
こういった文章でも、当時は発表することができなかったのか、終戦から9年後に書かれています。

旺文社文庫『無伴奏・禁客寺』で、6ページ。
ちくま文庫『内田百集成12』に収録されています。
爆撃調査団―内田百〓集成〈12〉

筑摩書房

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峠の釜めし-東京は大停電-

2006-08-16 19:37:16 | 写真
群馬方面(霧積温泉・尻焼温泉)に二泊三日で旅行に出かけていましたが、本日帰ってまいりました。
涼しさに慣れた体には、下界の暑さは厳しいです。

さて、初日(8/14)のお昼には、横川駅そばの「おぎのや」で暢気に釜めしを食べていたのですが、お店のTVから流れているニュースで、東京の大停電のことを知りました。
画面を見ると、駅の中は真っ暗だし、信号も消えているのでビックリです。
電気のない生活なんて考えられないですね。

旅行の方は、事前の天気予報が幸いにもはずれて、ほとんど雨に降られることもなく、温泉やハイキングを楽しんできました。
その内容は、「本館」に追々掲載いたします。
ブログの方も、また更新していきますので、よろしくお願いします。

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