小品日録

ふと目にした光景(写真)や短篇などの「小品」を気の向くままに。

内田百 「柵の外」

2006-05-31 23:58:26 | 内田百
先日(5/16)は、漱石の博士号辞退の手紙を取り上げましたが、今度は、弟子の百鬼園先生の芸術院会員辞退について述べた随筆です。
芸術院会員に選ばれたら、お断りしようと待ちかまえていた(?)百先生が、いよいよその念願を果たす時が来ました。
辞退の理由は、
「なぜと云へば、いやだから。
 なぜいやか、と云へば気が進まないから。
 なぜ気が進まないかと云へば、いやだから。」
との循環論理です。
本音は、題名に表れているように、英語の教科書に出ていたという、柵の外に出た豚の気持ちというわけでした。
漱石の生真面目な頑固さに対して、百先生は、ユーモアたっぷりにとぼけています。
旺文社文庫『夜明けの稲妻』で9ページ。
ちくま文庫「内田百集成 15」に収録されています。
蜻蛉玉―内田百〓集成〈15〉

筑摩書房

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稲垣足穂 「一千一秒物語」

2006-05-29 23:43:08 | 小説
月や星と格闘するショートショート集。
人間を超越する存在であるはずの天体に喧嘩をふっかけているような話が、ある種の痛快さを与えてくれます。
一つ一つの話がとても短いのがいいですね。
こういうのもアリなんだなぁと、その独自性に感心します。
新潮文庫で、54ページ。
一千一秒物語

新潮社

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内田百 「蜥蜴」

2006-05-27 23:59:59 | 内田百
「私」は、女を連れて、見世物を見るために、真っ直ぐに続く道を進んで行く。
その見世物は、熊と牛を闘わせるというものである。
「私」は、見るのが厭になってしまうのだが、女の方はどんどん楽しくなっていく様子である。
「私」の気持ちを見透かしているようでもあり、次第に熱くなっていく女の手の感触が恐ろしいです。
「あなたはまだ本当のことを知らないのでせう」
『冥途』に収録されていて、岩波文庫・ちくま文庫などで読めます。
後の作品「風かをる」(『夜明けの稲妻』所収。ちくま文庫『百集成13』に収録。)では、懐かしい夢のような光景として描かれています。
夢の記憶が、『冥途』系の作品にどのように変化するのか、二つを読み比べてみるのも面白いと思います。
冥途・旅順入城式

岩波書店

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たらちおの記―内田百〓@6BE1@集成〈13〉

筑摩書房

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斎藤美奈子 「冠婚葬祭のひみつ」

2006-05-24 23:59:02 | 読書
題名を見て、気鋭の文芸評論家である斎藤美奈子が、冠婚葬祭の「ひ・み・つ」をどう暴いてくれるのだろうかと、読まずにいられませんでした。
期待に違わず、面白いです。
この本を読んで結婚式(披露宴)に出たら思わずニヤリとしてしまったり、お葬式では、値段が気になってしまったりすることでしょう。
ということで、本館読書室>、久々の更新です。
冠婚葬祭のひみつ

岩波書店

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萩原朔太郎 「五月の貴公子」(『月に吠える』より)

2006-05-22 23:59:35 | 
「若くさの上をあるいてゐるとき、
 わたしは五月の貴公子である。」
五月の爽やかな陽気の中、気持ちよい草の上を歩いていけば、靴は白い足跡を残すかもしれない。
様々な憂愁も消えてなくなってくれれば…。
つかの間、そんな想像をさせる、この季節にふさわしい詩です。
岩波文庫などで。
萩原朔太郎詩集

岩波書店

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内田百 「琥珀」

2006-05-19 23:59:05 | 内田百
琥珀は松脂が地中で何万年かを経て石になったものである、と学校で聞いた内田少年は、こっそり穴を掘って、そこに松脂を埋め、ドキドキしながら琥珀ができるのを待ちます。
待ちきれずに夜中にその場所に出かけ、足の裏に柔らかな感触を受けてはっとするところがいいです。
琥珀ができるわけもなく、ちり紙に包んで捨ててしまう、という結末には、子供の気まぐれさがよく出ていますね。
こんな文章を読むと、少年時代を懐かしく感じます。
旺文社文庫『百鬼園随筆』で、2ページ。
ちくま文庫『内田百集成12 爆撃調査団』に収録されています。
爆撃調査団―内田百〓集成〈12〉

筑摩書房

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夏目漱石 「博士号辞退の手紙」(明治44年)

2006-05-16 23:59:51 | 書簡
博士号を授与するという文部省に対して、漱石は、
「小生は今日までただの夏目なにがしとして世を渡って参りましたし、これから先もやはりただの夏目なにがしで暮らしたい希望を持っております。」(2/21付け書簡)
と断っていて、権威を嫌う漱石のエピソードとして有名です。
そもそも、実力のある人は、ハクづけなど必要ないですね。
それなのに、文部省はしつこく、辞退を認めなかったので、さらに、4/13付け書簡では、
「学位令の解釈上、学位は辞退し得べしとの判断を下すべき余地あるにもかかわらず、毫も小生の意思を眼中に置く事なく、一図に辞退し得えずと定められたる文部大臣に対し、小生は不快の念を抱くものなる事を茲に言明致します。」
と強硬に抗議して、頑固さを発揮しています。
やっぱり大物は徹底してスゴイ。
岩波文庫『漱石書簡集』で。
漱石書簡集

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新倉万造×中田燦 「大人の写真。子供の写真。」

2006-05-14 23:20:12 | 写真
プロの写真家と6歳の女の子が同じ場所に出かけて撮った写真を対比して載せた文庫版の写真集です。
大人と子供が、いかに違うものを見ているのか、ということを改めて感じます。
「大人」(プロ)の写真は、もちろん、バッチリ決まったカッコイイものです。
これに対して、子供(燦ちゃん)の写真は、自分の興味の向くまま素直に撮ったもので、何かを表現しようとか、ムズカシイことは考えていない(と思う)のですが、時々、「コレいいな」と思わせるものがあります。(弟や幼稚園?の友達、旅先で出会った男の子の写真など。)
カメラに飽きて、他の事に夢中になってしまうなんていうのも、健全でいいですね。(笑)
それぞれの写真に付けられている、燦ちゃんのお父さん(実はコピーライター)の絶妙の一言コメントが、この本をいっそう楽しいものにしています。
木世(えい・漢字合成)文庫から。
大人の写真。子供の写真。

〓@53B2@出版社

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萩原朔太郎 「雲雀料理」冒頭の文章 (『月に吠える』より)

2006-05-12 23:59:40 | 
詩集『月に吠える』の「雲雀料理」のパート冒頭に、次のような文章が、枠囲いをされて書かれています。
 「五月の朝の新緑と薫風は私の生活を貴族にする。
  したたる空色の窓の下で、私の愛する女と共に純
  銀のふおうくを動かしたい。私の生活にもいつか
  は一度、あの空に光る、雲雀料理の愛の皿を盗ん
  で喰べたい。」
こんなハイカラ(!)な言葉がぴたりと来るのが、本来の五月の陽気のはずなのですが、今週は梅雨のような天気となってしまっています。
それにしても、「雲雀料理」って、どんなものか気になります・・・
岩波文庫『萩原朔太郎詩集』などで。
萩原朔太郎詩集

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石川啄木 「A LETTER FROM PRISON」

2006-05-10 23:31:22 | 評論・批評
大逆事件で処刑された幸徳秋水が獄中で書いた手紙を、啄木が担当弁護人を通じて秘かに閲読して書き写し、それに註を付したものです。
死に直面しながらも冷静な幸徳秋水の文章と、啄木の洞察の鋭さに感心します。
共謀罪法案などというものが作られようとしている現状がコワイです。
岩波文庫『時代閉塞の現状 食うべき詩 他十編』に収録されていますが、現在は品切中。
時代閉塞の現状,食うべき詩 他10編

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