情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄

知らなきゃ判断できないじゃないか! ということで、情報流通を促進するために何ができるか考えていきましょう

国際組織犯罪防止条約を批准するのに共謀罪新設は不要~すでにある共謀罪

2006-06-04 22:45:17 | 共謀罪
改めて軽犯罪法(ここ←)の条文をじっくり見ていて,かなり広範な共謀罪がすでに日本にあることが分かった。その規定は「他人の身体に対して害を加えることを共謀した者の誰かがその共謀に係る行為の予備行為をした場合」というものだ。この条文があれば,組織犯罪について共謀段階での犯罪化をもとめる国際組織犯罪防止条約を批准することが出来るのではないだろうか。保坂議員のブログ(ここ←)を見ると,フランスは,条約を批准するに当たって,「暗殺と毒殺をするよう、誰かに何か報酬や贈り物をあげるか、あげると約束した者」を処罰する法律だけを設けたという(事後的に)。それだけで十分に批准できるというのだ。bravo!ブラボー!セビアン!トレビアン!なんてこったい!それならば,軽犯罪法の存在だけで十分批准できるはずだ。これまで共謀罪をめぐって議論したのは何だったのか…。

軽犯罪法は,第一条で「左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。」と定めたうえ,29号で「他人の身体に対して害を加えることを共謀した者の誰かがその共謀に係る行為の予備行為をした場合における共謀者」と規定している。


他方,保坂議員のブログによると,

【フランスでは国連条約(国際組織犯罪防止条約)の批准はとっくにしていて(2002年)、そのあと「合わせる」ための国内法整備は2004年に出来ています。
「犯されていない罪」に対して「コンピラシー」(共謀)だけで処罰されることになった犯罪が1種類加えられています。(2004年3月9日の法律で刑法に加えられた条項)。「暗殺と毒殺をするよう、誰かに何か報酬や贈り物をあげるか、あげると約束した者は、その犯罪が行われなくても10年の禁固刑と15万の罰金を受ける。犯罪が実行・未遂された場合はこの条項ではなくて、共犯罪として罰せられる」】

というのだ。

フランスにできて日本にできないことはない…はずですよね。それとも,フランスのような政治大国の政府にはできても,アメリカのポ●政府にはできないのでしょうか…。そんなことはないですよねぇ,日本政府は,決してアメリカのポ●政府ではないですもんね…。

法務省は直ちに批准した諸国の法制度を全て調べるべし!その情報なくして,共謀罪の新設が必要だと二度と口にしないでもらいたい!

しかも,法務省は,共謀罪に関する説明の中で,フランスについて,刑法第450-1条に,凶徒の結社罪として,「重罪等の準備のために結成された集団又はなされた謀議に参加したとき(準備のため,客観的行為がなされることを要する)。」という規定があるから,これを根拠に,国際組織犯罪防止条約を批准したとしていた(ここ←)。

保坂議員の説明が正しければ,法務省はこの点でも国民に嘘をついたことになる!

この懸念に法務省はいかに回答して頂けるのでしょうか…。


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「ああ、あのフィリピン刑事(デカ)」~でも,警察署の名前すら匿名…

2006-06-04 17:55:01 | 匿名発表問題(警察→メディア)
警察による匿名発表を認めることの弊害について何度も書いてきたが,落合洋司弁護士のブログで見つけたこの記事(ここ←)には,びっくり。外国人キャバレーに捜査情報を流して接待を受けていた複数の警官(処分は懲戒免職など)について,高知県警は,氏名を伏せたばかりか,所属する警察署名すら隠して,発表したという。警察庁の発表指針に基づいたというが,まったくあきれるほかない。とにかく,メディアの発表段階は実名とする原則を設けておかないと,都合の悪いことは何でも匿名となりかねない…。


記事うち,匿名に関する部分は次のとおり。

■■引用開始■■
県警実名、署名明かさず

 県警は2日発表した接待汚職事件の処分で、懲戒免職や停職処分などとした16人をすべて匿名とし、どこの署に所属しているのかも明らかにしなかった。

 県警は「警察官以外の関係者もおり、警察庁の発表指針を基に個別に検討した結果だ」と説明。接待を受けたとして懲戒処分にした巡査部長ら4人についても、明らかにしたのは階級と所属課、年齢のみ。事件の舞台となった窪川署の名前も伏せた。

 懲戒免職を実名で公表している県や県教委の対応と大きな隔たりがある。高知新聞には2日、「これだけの不祥事を起こしておいて、なぜ匿名なのか」と県警の姿勢を批判する声が相次いだ。

■■引用終了■■


ちなみに,事件の概要は次のとおり。

■■引用開始■■

窪川署員らの外国人キャバレー通いは、地元客の間では有名だった。頻繁に接待を受ける署員らの姿には、風俗営業の許認可権限を持つ「官」の“たかりの構図”さえ浮かぶ。14年末に高知市で発覚した同じ外国人キャバレーを舞台にした警察官汚職事件を再び繰り返した県警。自浄力を失った県警組織の病巣の根深さがあらためて露呈した。

 「ああ、あのフィリピン刑事(デカ)」―。同署刑事生活安全課員だった窪内孝志容疑者(55)の書類送検を知った地元客らはそうあだ名で呼び、「(キャバレーに)ずぶずぶに漬かっていた」と言い捨てた。

 同署員らは以前から、事件摘発の打ち上げや外部団体との懇親で、この外国人キャバレーを利用。1時間に3000―4000円前後は掛かる料金システムだが、経営者は代金を取らずに利用させることも多かったという。

 同店はフィリピン人女性らをホステスとして働かせ違法な営業実態だった。署員らはそれを黙認状態で接客を受け、次第に「付け」と称してただで飲食するなど深みにはまっていった。中でも、窪内容疑者の“たかりぶり”は突出していた。

 同容疑者は15年6月に長岡郡本山町の本山署に異動後も管内を抜け出し、キャバレー通いを続けた。「帰国したホステスを追いかけてフィリピンに行った」と聞かされた同僚もいるほどだ。

 県警は窪川署員らのキャバレー通いを14年に匿名の投書で把握しながら、当時は署長が口頭で注意しただけで、問題の悪質さを突き詰めなかった。

 14年末に高知署員の外国人キャバレーでの汚職事件が発覚後、県警は警察官に職務倫理についての作文を提出させるなど、各署ごとに不祥事防止対策を取ったという。しかし、同容疑者は漫然と通い続けていた。

 村田達哉警務部長は2日の記者会見で「二度と起きないよう取り組んできたが、本当に特異な者がまだいた」と強調した。その一方で、「それ以上に、幹部が止められなかったことが大きな問題だ」と県警組織の構造的問題にも言及した。

 現場警察官の中には「『だらしない個人の犯罪』として済ませられる問題ではない」「若い課員を引き連れていった課長の責任はもっと重いはずだ」と、今回の処分にさえ不満の声がある。

 不祥事を繰り返す県警の病巣はどこにあるのか。幹部と現場の警察官が一体になって考え、あしき体質に向き合わなければならない。

■■引用終了■■



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メディア集中排除原則の必要性~竹中懇談会批判

2006-06-04 14:01:08 | クロスオーナーシップ問題
竹中の私的懇談会である「通信・放送の在り方に関する懇談会」の報告書が6月1日,ほぼまとまったと報道された。竹中の影響力の低下はあちらこちらで聞かれており,この懇談会の報告も特に注目する必要がないのかも知れない。しかし,メディア集中排除原則の見直しについて触れられた点については,どうしても,一言触れておきたい。

そもそもメディア集中排除原則は,言論の多様性を維持するために,メディアの市場独占・寡占を通常の産業よりも厳しく規制するべきだという考え方である。

そのような規制をする根拠は,メディアが寡占化した場合,言論の多様性が失われ,均一化した報道がなされ,民主主義の健全な発展がなされなくなるということである。

日本では,放送業界について,この集中排除原則はあるが(総務省HP←参照),新聞などにはそのような規制はない。したがって,新聞と放送メディアが系列化されること(クロスオーナーシップ)を防ぐことができず,それが日本のマスメディアの最も大きな問題となっている。

新聞が政府批判をしようとしても,系列のテレビ局が政府によって放送法,電波法による管理を受けているため,あまり厳しいことを言えない。ここ最近,衛星放送の割り当てや,デジタル放送の開始時期・政府支援の問題など,ここ最近,テレビ局には,政府にたてつけない事情があった。

※例えば,地デジについて,平成17年後総務省予算は次のとおり(単位:億円)。

(ウ) 放送のデジタル化の推進 255.7( 247.3)
   1)  地上デジタル放送の公共アプリケーションパイロット事業の実施
     ・公共分野における利用を想定したモデル的なシステムを構築し、その機能・効用を実証することにより地上デジタル放送の利活用を促進 17.7(新規)
   2)  デジタル放送の普及促進等
     ・地上デジタル放送等の円滑な普及に向けた情報提供活動の推進、受信相談体制整備、放送のデジタル化に対応した高度放送システムの研究開発を実施するとともに新世代地域ケーブルテレビ施設の整備を支援  35.8( 45.1)
   3)  地上放送のデジタル化に伴うアナログ周波数変更対策
     ・地上テレビジョン放送のデジタル化に向けて必要となるアナログ周波数変更対策を集中的に実施 202.2( 202.2)

 いわば,系列にとってドル箱であるテレビ局の首根っこを押さえられたまま,新聞などは報道活動をしなければならないのであり,それが健全なあり方だとはとうてい思えない。

 現に民主主義が成熟している各国においては,新聞と放送のクロスオーナーシップが制限されているのが通常である。

 ところが,竹中懇談会の報告書案(ここ←)では,

【放送事業でも、50年以上前に制定された放送法に基づき、アナログ時代に
確立された規制体系や過度の行政指導等により、事業者が自由な事業展開を行
いにくい環境となった結果、欧米のメディア・コングロマリットと伍して戦え
るような国際競争力のあるメディアが育っていない。
このように、競争や自由な事業展開が不十分であった結果、事業者のポテン
シャルが十分に発揮されてこなかったと言える。このままでは、日本の事業者
が、米国のネット企業やハリウッドに代表される“デジタル・IPを活用した
映像ビジネスの展開”に対抗することは困難であろう。】

などと,言論の多様性の必要性などにはまったく触れないまま,単に,巨大メディア・コングロマリットの外見だけに芽を奪われ,それを志向する結論となっている。

米国でさえ,クロスオアーナーシップ規制はあり,緩和しようという流れはあるものの,最高裁が歯止めをかけた(詳しくはここ←)。

そもそも,日本のメディアに国際競争力がないのは,言語である「日本語」に国際競争力がないからであり,それは集中排除原則を解除しても解決されない。

私見だが,放送業によって,莫大なカネを儲けようというのが間違いであり,報道関係業界は,そこそこに儲かればよく,そこそこに儲かる中で,事業展開しようという者だけが算入すれば十分である。現状でさえ,視聴率競争などの弊害が叫ばれているのである…。

とはいえ,クロスオアーナーシップは,田中角栄がメディアを操る手段として生みだし(田中良紹著「メディア裏支配」参照),すでに業界はその体制で動いているため,これを打破するのは容易ではない。

せめて,現状の集中排除規制を維持しながら,クロスオアーナーシップ規制の実現を夢見たいのです。


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