脚本 高久進、監督 天野利彦
1985年11月21日放送
【あらすじ】
早朝、河原で女子中学生の死体が発見された。目撃者の釣り人によれば、別の女子中学生が馬乗りになって包丁で刺していたという。桜井、叶とともに付近で張り込み中だった杉は、犯行時刻の直後に不審な様子の少女を見かけていた。桜井と杉は、少女が公衆電話に残していった生徒手帳から身許を割り出し、自宅を訪ねる。
自宅に少女の姿はなく、台所からは包丁が消えていた。母親、兄と三人暮らしのその家族は、小児喘息が原因でいじめに遭っていた少女を救うために引っ越してきたばかりだった。少女の部屋から発見されたコオロギの死骸。それは、住んでいた団地を去る際、その屋上で見つけたものだった。冬だというのに必死に鳴いているコオロギに、少女は自分の境遇を重ね合わせ、大切に飼っていたという。
少女の通う中学校で確認したところ、被害者は同じ学校に通う札付きのツッパリだと判明。少女には友達が少ないらしく、被害者との関係も不明。唯一仲の良い同級生が入院していると聞き、病院を訪れる桜井。同級生は自殺を図り、精神的ショックで喋れなくなっていた。桜井の問い掛けに心を開いた同級生は、筆談で自殺の原因を語る。それは、親友だと思っていた少女からいじめにあったからだという。
いじめの辛さを知る少女が、なぜ親友をいじめるのか?母親や兄に事情を聞いたところ、妹を哀れんだ兄が、軽い気持ちで「いじめられない方法は、自分がいじめる側に回ることだ」と言ったのが原因らしい。「彼女は、団地にいるかもしれない」桜井の勘は的中し、屋上の隅でうずくまっている少女を発見する。「もう生きてるのはイヤ!」飛び降りかねない様子の少女を見て、慎重に接する桜井。少女は「殺そうと思って呼び出したけど、殺せなかった」と語る。
その頃、監視結果を受け取った特命課は、被害者の死因が刺し傷ではなく、頚椎の損傷によるものだと知る。目撃者の釣り人を問い質したところ、あっさりと犯行を認めた。釣り人は、少女が現場に包丁を残して逃げ去ったあと、傷ついた被害者を発見。釣り人の娘も被害者らのいじめにあってため、腹いせに「喧嘩に負けたのか?いい気味だ」と声を掛けたところ、もみ合いになって思わず絞め殺してしまったのだ。
桜井の粘り強い呼びかけに、少女は被害者を殺そうとした経緯を語る。兄の言葉を真に受け、親友をいじめることで、被害者率いるツッパリグループの仲間入りを果たした少女だが、親友の自殺未遂を知って激しく後悔し「もういじめはやめたい」と申し出た。被害者らの暴行を受け、鞄に入れていたコオロギも踏みにじられたのだ。「聞こえるだろう?コオロギが鳴いている」あの日のように聞こえてくるコオロギの声に、耳を澄ます少女。叶と杉が探しだしたコオロギを、桜井は少女に差し出す。「虫だって必死に生きている。君も生きなきゃ。強く生きなきゃ」手の中で寒さに凍えるコオロギを、息を吐きかけて温める少女。泣き腫らした顔に笑顔が戻るのを、桜井は優しく見つめていた。
【感想など】
凍てつく寒さの中で、自分の生命の声を誰かに聞いてもらおうと鳴く冬のコオロギ。季節外れの虫の音を、いじめに遭う少女の声なき悲鳴に重ね合わせた一本です。「俺たちだけでも、そのか細い訴えに耳を傾けてやろうじゃないか」桜井のストレートな優しさが胸に響く一方で「なんかキャラが違う」と感じる思いも捨て切れません。
高久進脚本だからというわけではないですが、シンプルで判りやすいストーリーは、特捜と言うよりも、むしろGメン(それも後期)的な雰囲気。桜井の役どころを立花警部補(演じるは若林豪)に置き換えれば、そのままGメンの一本として通用しそうです。
いじめによる少年少女の自殺が社会問題と化してきたのは、この頃からだったのでしょうか、これまで特捜がいじめ問題をメインテーマとしたのは記憶にありません。「いじめっていうのはね、昔からあったんだよ。しかし、今ほど陰湿じゃなかったね。お互いに、いじめたり、いじめられたりしながら、心の交流があった。そして、成長していった」「受験戦争などへの子供の不安感が苛立ちになる。その鬱積した感情をぶつけるものがない。だからつい、弱いものにぶつけてしまうのかねぇ」橘や神代の台詞として、(おそらくは脚本家の)いじめに対する意見が吐露されていますが、さほど深みは感じられません。
この手のドラマの成否は子役の演技に大きく左右されるものれますが、今回の少女役はなかなか良かったのではないかと思います。まったくの棒読みでもなく、かといって妙に演技達者でもなく、中学生らしさが出ていて好感がもてました(あと、口が利けなくなった同級生もよかった)。
なお、冒頭では、前回のラストで新加入した杉刑事にスポットが当たっていますが、別件で張り込み中とはいえ(一人ならともかく、桜井や叶もいるのに)、手が血まみれの不審な少女を見かけながら放置しておくのは、刑事としていかがなものか?新人刑事ならではのミスとしてガツンと叱責されるのかと思いきや、それを知った桜井は「なぜ早く言わん」だけであっさりとスルー。「それでいいのか桜井?」と言いたくなります。
杉の登場とあわせて、今回から幹子の後任として江崎愛子婦警が登場。オープニングはどうなることかと思っていたら、杉と二人で1カットという中途半端な扱いでした。若い二人がこれからの特捜でどんな存在感を発揮していくのか、期待半分、不安半分で見守っていきたいと思います。
1985年11月21日放送
【あらすじ】
早朝、河原で女子中学生の死体が発見された。目撃者の釣り人によれば、別の女子中学生が馬乗りになって包丁で刺していたという。桜井、叶とともに付近で張り込み中だった杉は、犯行時刻の直後に不審な様子の少女を見かけていた。桜井と杉は、少女が公衆電話に残していった生徒手帳から身許を割り出し、自宅を訪ねる。
自宅に少女の姿はなく、台所からは包丁が消えていた。母親、兄と三人暮らしのその家族は、小児喘息が原因でいじめに遭っていた少女を救うために引っ越してきたばかりだった。少女の部屋から発見されたコオロギの死骸。それは、住んでいた団地を去る際、その屋上で見つけたものだった。冬だというのに必死に鳴いているコオロギに、少女は自分の境遇を重ね合わせ、大切に飼っていたという。
少女の通う中学校で確認したところ、被害者は同じ学校に通う札付きのツッパリだと判明。少女には友達が少ないらしく、被害者との関係も不明。唯一仲の良い同級生が入院していると聞き、病院を訪れる桜井。同級生は自殺を図り、精神的ショックで喋れなくなっていた。桜井の問い掛けに心を開いた同級生は、筆談で自殺の原因を語る。それは、親友だと思っていた少女からいじめにあったからだという。
いじめの辛さを知る少女が、なぜ親友をいじめるのか?母親や兄に事情を聞いたところ、妹を哀れんだ兄が、軽い気持ちで「いじめられない方法は、自分がいじめる側に回ることだ」と言ったのが原因らしい。「彼女は、団地にいるかもしれない」桜井の勘は的中し、屋上の隅でうずくまっている少女を発見する。「もう生きてるのはイヤ!」飛び降りかねない様子の少女を見て、慎重に接する桜井。少女は「殺そうと思って呼び出したけど、殺せなかった」と語る。
その頃、監視結果を受け取った特命課は、被害者の死因が刺し傷ではなく、頚椎の損傷によるものだと知る。目撃者の釣り人を問い質したところ、あっさりと犯行を認めた。釣り人は、少女が現場に包丁を残して逃げ去ったあと、傷ついた被害者を発見。釣り人の娘も被害者らのいじめにあってため、腹いせに「喧嘩に負けたのか?いい気味だ」と声を掛けたところ、もみ合いになって思わず絞め殺してしまったのだ。
桜井の粘り強い呼びかけに、少女は被害者を殺そうとした経緯を語る。兄の言葉を真に受け、親友をいじめることで、被害者率いるツッパリグループの仲間入りを果たした少女だが、親友の自殺未遂を知って激しく後悔し「もういじめはやめたい」と申し出た。被害者らの暴行を受け、鞄に入れていたコオロギも踏みにじられたのだ。「聞こえるだろう?コオロギが鳴いている」あの日のように聞こえてくるコオロギの声に、耳を澄ます少女。叶と杉が探しだしたコオロギを、桜井は少女に差し出す。「虫だって必死に生きている。君も生きなきゃ。強く生きなきゃ」手の中で寒さに凍えるコオロギを、息を吐きかけて温める少女。泣き腫らした顔に笑顔が戻るのを、桜井は優しく見つめていた。
【感想など】
凍てつく寒さの中で、自分の生命の声を誰かに聞いてもらおうと鳴く冬のコオロギ。季節外れの虫の音を、いじめに遭う少女の声なき悲鳴に重ね合わせた一本です。「俺たちだけでも、そのか細い訴えに耳を傾けてやろうじゃないか」桜井のストレートな優しさが胸に響く一方で「なんかキャラが違う」と感じる思いも捨て切れません。
高久進脚本だからというわけではないですが、シンプルで判りやすいストーリーは、特捜と言うよりも、むしろGメン(それも後期)的な雰囲気。桜井の役どころを立花警部補(演じるは若林豪)に置き換えれば、そのままGメンの一本として通用しそうです。
いじめによる少年少女の自殺が社会問題と化してきたのは、この頃からだったのでしょうか、これまで特捜がいじめ問題をメインテーマとしたのは記憶にありません。「いじめっていうのはね、昔からあったんだよ。しかし、今ほど陰湿じゃなかったね。お互いに、いじめたり、いじめられたりしながら、心の交流があった。そして、成長していった」「受験戦争などへの子供の不安感が苛立ちになる。その鬱積した感情をぶつけるものがない。だからつい、弱いものにぶつけてしまうのかねぇ」橘や神代の台詞として、(おそらくは脚本家の)いじめに対する意見が吐露されていますが、さほど深みは感じられません。
この手のドラマの成否は子役の演技に大きく左右されるものれますが、今回の少女役はなかなか良かったのではないかと思います。まったくの棒読みでもなく、かといって妙に演技達者でもなく、中学生らしさが出ていて好感がもてました(あと、口が利けなくなった同級生もよかった)。
なお、冒頭では、前回のラストで新加入した杉刑事にスポットが当たっていますが、別件で張り込み中とはいえ(一人ならともかく、桜井や叶もいるのに)、手が血まみれの不審な少女を見かけながら放置しておくのは、刑事としていかがなものか?新人刑事ならではのミスとしてガツンと叱責されるのかと思いきや、それを知った桜井は「なぜ早く言わん」だけであっさりとスルー。「それでいいのか桜井?」と言いたくなります。
杉の登場とあわせて、今回から幹子の後任として江崎愛子婦警が登場。オープニングはどうなることかと思っていたら、杉と二人で1カットという中途半端な扱いでした。若い二人がこれからの特捜でどんな存在感を発揮していくのか、期待半分、不安半分で見守っていきたいと思います。
そういえば、「俺もいじめられていた」と桜井が少女に告白する作品があったように思いますが、どの作品でしょうか・・・?
特オタさん。
確かに、普通に(悪い意味でなく)いい話だったと思います。変にテーマを詰め込みすぎない、シンプルな構成がよかったのではないでしょうか。
コロンボさん。
なるほど、この一本がコロンボさんの人生を決定付けてしまったわけですね。
かつては橘の息子役も演じた神谷政浩氏(「大鉄人17」では主役を演じてましたね)は、ゲストで出るたびに印象が変わってしまいます。子役の宿命というものでしょうか。
ジロウさん。
ご指摘のシーンはまさにこの作品です。実のところ、見ていて「嘘くせぇ」と思ってしまい(良く言えば、少女のための「優しい嘘」なのでしょうが)、粗筋では省略してしまっていました。しかし、改めて考えてみると「エリート一家の三男坊」という境遇からすれば、子供の頃はいじめられっ子というのも、意外に信憑性があるかもしれませんね。