吉祥寺と周辺の街散歩

吉祥寺を中心に、中央線沿線の街のお気に入りの喫茶店、公園に咲く花、美術館、散歩レポートなどを紹介しています。

野川源流(日立中央研究所庭園)と村上春樹的世界探訪

2005年11月23日 | 野川

日立中央研究所庭園内の大池

 ねえ、誰かが言ったよ。
 ゆっくり歩け、そしてたっぷり水を飲めってね。
 「1973年のピンボール」/村上春樹


 ネット友達のNASCIさんのお誘いで、11/20の日曜日、NASCIさんが主宰するコミュニティ"村上春樹的世界"が企画した"「世界の終り」のお散歩~君なら南のたまりに飛び込むか?"に参加させていただいて、この日一般開放された国分寺の日立中央研究所の庭園から小金井の野川公園に至る散歩を楽しみました。
 国分寺駅南口(右上)に集合したメンバーは17名、夢読みとなり日の光を見ることができなくなった僕は、黒いガラスの入った眼鏡をかけました。

 日立中央研究所の庭園は、春の桜の開花と秋の紅葉の時期にそれぞれ一日だけ公開されています。所内は予想以上に広くて、東京ドームの約5倍もの敷地があり、約27,000本の樹木があるそうです。
 周囲約800mの白鳥が泳ぐ池は、構内の湧き水が流れ込んだもので、あふれた水が四方を囲む高い壁を潜り抜け、野川の源流の一つとなっています。
 門が閉ざされた時、この世界の終りから逃れ外の世界に至るには、南のたまり(左上)に飛び込むしか術(すべ)がないのです。

  秋の花が野原を彩り、木々の葉は鮮やかに紅葉し、その中央に波紋ひとつない鏡のような水面のたまりがあった。たまりの向うには白い石灰岩の崖がそそり立ち、そこに覆いかぶさるように煉瓦の壁が黒くそびえていた。たまりの息づかいをのぞけば、あたりはひっそりとして、木の葉さえみじろぎひとつしなかった。
 「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」/村上春樹


 国分寺駅の立川寄り、JRと西武線が分かれる部分の三角地帯に家が建っていました。若くて結婚したばかりだった僕と彼女は、玄関の戸を開けると目の前を電車が走り、裏側の窓を開けるとそれはそれでまた別の電車が目の前を走っている家賃の安いその家に2年住んでいました。

 冬が終わると、春がやってきた。春は素敵な季節だった。春がやってくると、僕も彼女も猫もほっとした。四月には鉄道のストライキが何日かあった。ストライキがあると、僕たちは本当に幸せだった。電車はただの一本も線路の上を走らなかった。僕と彼女は猫を抱いて線路に降り、ひなたぼっこをした。まるで湖の底に座っているみたいに静かだった。
 「チーズ・ケーキのような形をした僕の貧乏」/村上春樹


 ランチは国分寺駅南口から小金井方向に5分ほどの「ほんやら洞」でカレーを食べました。食べた後で唇がひりひりしたけど、おいしかった。「ほんやら洞」は、70年代のカリスマ歌手で、現在も活動している中山ラビさんの店で、1974年、25才で作家デビュー前だった春樹さんは、この店のすぐ近くのビルの地下にジャズ喫茶「ピーターキャット」を開店しています。

 ジャズという音楽にあるときふと魅せられて、それ以来、人生の大半をこの音楽とともに暮らしてきた。僕にとって音楽というのはいつもとても大事なものだったけれど、その中でもジャズはとくべつな位置を占めているといってもいい。ある時期にはそれを仕事にまでしていたくらいだ。
 「ポートレイト・イン・ジャズ」/村上春樹


 "ハケの道"を歩き、途中の貫井神社にお参りをして野川の河川敷に到達、ワインを飲んで一休み。美食家の鴨はクラッカーなど見向きもしなかった。
 "ハケ"とは、国分寺崖線(がいせん)の通称で、この崖線(がいせん)は、昔の多摩川が武蔵野台地を侵食してできた、世田谷の等々力渓谷まで約25km続く河岸段丘です。貫井神社の裏や、そこここからの湧き水は、武蔵野台地に降った雨が関東ローム層を通過し、その下の武蔵野礫層に貯められ、地下水となって国分寺崖線に沿って噴出したものです。

 武蔵小金井のカフェ「broom&bloom」でチーズ・スフレを食べて小休憩。それから近くのお屋敷の庭を見学させてもらいました。ハケの湧き水を貯めた池には鯉やら金魚が泳いでいました。ハケの道沿いには、春樹さんのエッセイ「日本マンション・ラブホテルの名前大賞が決まりました」に登場するマンション「ボヌールはけのみち」が建っていました。

 小金井には「ボヌールはけのみち」というマンションがあるという報告もきています。いったいボヌールって何だ? はけのみちって何だ?
 「村上朝日堂はいかにして鍛えられたか」/村上春樹


 お屋敷を出てハケの道沿いに歩き、美術の森の脇を通って武蔵の公園のくじら山を経て、本日の散歩の最後の目的地の野川公園に着いたときには夕闇が迫っていました(右は別の日に撮った野川公園)。
 今は国際基督教大学(ICU)のキャンパスになっている丘には、かつては屋外エスカレーターがついたゴルフ場があり、僕と双子の姉妹は近くのアパートに住んでいました。

 僕はテニス・シューズをはき、トレーナー・シャツを首に巻いてアパートを出ると、ゴルフ場の金網を乗り越えた。なだらかな起伏を越え、12番ホールを越え、休憩用のあずまやを越え、林を抜け、僕は歩いた。西の端に広がった林のすきまから芝生に夕陽がこぼれていた。
 そして小川にかかった小さな木の橋をわたり、丘を上ったところで双子をみつけた。双子は丘の反対側につけられた露天のエスカレーターの中段あたりに並んで座り、バックギャモンで遊んでいた。
 「1973年のピンボール」/村上春樹


 本日の散歩は、西武多摩川線の新小金井駅まで歩いて解散となりました。この後吉祥寺の「ハモニカ・キッチン」で行われた二次会「あしか祭り」には、用事があって参加できず残念でした。

 皆と別れ、夢読みの資格を失い、影をも失った僕は自分が宇宙の辺土に一人で残されたように感じられました。

 僕はもうどこにも行けず、どこにも戻れなかった。そこは世界の終りで、世界の終りはどこにも通じていないのだ。そこで世界は終息し、静かにとどまっているのだ。
 「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」/村上春樹


(参考)
 ・NASCIさんのサイト「サロン・ド・カフカ」
 ・日立中央研究所庭園HP
 ・カフェ「broom&bloom」HP
 ・武蔵野公園HP
 ・野川公園HP
 ・美術の森 中村研一記念美術館(NASCIさんのHP)
 ・国際基督教大学(ICU)HP
 ・1973年のジャズ喫茶(メインサイト)

(地図情報)
 ・ほんやら洞
 ・三角地帯と中央研究所庭園の大池
 ・国際基督教大学(ICU)


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国分寺の名曲喫茶「でんえん」で回顧、懐古

2005年11月12日 | 国分寺

 高円寺の「ネルケン」、阿佐ヶ谷の「ヴィオロン」、荻窪の「ミニヨン」などとともに中央線沿線にある名曲喫茶の老舗と言える店です。
 昭和32年に開店した当時は漫画家のたまり場で、「ゴルゴ13」のさいとうたかをや、「フーテン」や「漫画家残酷物語」の永島慎二などが常連だったとのことです。国分寺駅北口から歩いて2、3分の距離ですが、目立たないので意外と見つけにくいかもしれません。

 たぶん改装など今までしたことがないんだろうなと想像される店の外観や内装です。
 手前と奥とで合計30席ほどある店内に座って、スピーカーから流れるピアノ曲などを聴いていると、過去の思い出が走馬灯のように駆け巡ったりする人が、きっといるのではないだろうか。
 ブレンドコーヒーが450円、営業は12時から20時まで、木曜日と第1水曜日が定休日です。

(参考)
 ・「でんえん」(NASCIさんのHP)
 ・地図情報: でんえん
 ・高円寺「ネルケン」(当ブログ)
 ・荻窪「ミニヨン」(当ブログ)

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富士通コンコード・ジャズ・フェスティバル in 国立

2005年11月09日 | 国立

 11月5日に国立楽器のホールで行われたベニー・グリーン(p)とラッセル・マローン(g)によるデュオ・コンサートを聴きました。
 二人とも1963年の生まれで、アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ出身の人気ピアニストと、人気歌手ダイアナ・クラールの伴奏グループで活躍したギタリストの競演だけあって、すばらしいコンサートでした。
 演奏されたのは、チャーリー・パーカーやウェス・モンゴメリーの手になるジャズ・ナンバーや、「やさしく歌って」などのポピュラー曲で、テクニック面も申し分なかったけど(特にラッセル・マローンのテクはすごかった)、それ以上に二人のジャズ・スピリットに富んだ演奏にわくわくさせられ、心から楽しめました。おそらく会場で聴いた多くの人たちが僕と同じように感じたと思います。 

(参考)
 ・ 富士通コンコード・ジャズ・フェスティバル2005
 ・ 国立楽器 HP
 ・地図情報: 国立楽器 

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阿佐谷ジャズストリート: 阿佐谷の街がジャズに揺れた2日間

2005年11月01日 | 阿佐ヶ谷

山下洋輔(p)+米田裕也(as)による神明宮でのデュオ

 10月28日(金)と29日(土)の2日間、第11回阿佐谷ジャズ・ストリートが開催され、駅周辺の12ヶ所のパブリック会場(有料)と、無料の11ヶ所のストリート会場で、ジャズのライブコンサートが行われました(右は南口駅前広場での下田卓カンザスシティバンド)。
 僕は2日間の共通パスポート(4500円)で、4つのパブリック会場を回りました。 金曜日の夕には、このイベントでのハイライトと言える、神明宮の神楽殿での山下洋輔(p)さんと若手サックス奏者の米田裕也さんによるデュオコンサートを聴きました。阿佐谷には毎回出場している山下さんは、"砂山"、"クルディッシュダンス"などのオリジナル曲とスタンダードナンバーを交えての演奏でしたが、さすがにかつてのフリーで過激な演奏ではないものの迫力あるピアノタッチで、境内の満員の聴衆を酔わせてくれました。
 このあと、山下さん同様、ベテランの高橋知己(as)さんらによるジャムセッションを看護専門学校講堂で聴きました。こちらはスタンダード中心の落ち着いたなごめるコンサートでした。

 29日は、午後から南口の中杉通り沿いにある細田工務店のホールで行われた小田陽子(Vo)+uno (ギターとピアノのデュオ)によるラテンフレーヴァー濃厚な多国籍ミュージックと、新東京会館での野間瞳(Vo)+紙上理(しがみただし)(b)カルテット(左)を聴きました。前夜聴いたサックスの高橋さんも加わったカルテットのバックで、"Love for sale"などのスタンダードナンバーを歌った野間さんの本格派ヴォーカリストとしての実力はたいしたものだと思いました。

 2日間とも小さな会場では途中からは入れないくらいの盛況ぶりでしたが、昨年は約500人が演奏し、2日間で2万人以上が集まったそうで、"ジャズの街"を標榜している吉祥寺もがんばらないと、阿佐谷にお株を取られてしまうのではないかな(右は北口駅前ビル入り口でのジャムセッション)。

(参考) 
 ・ 阿佐谷ジャズストリート 公式サイト
 ・ 山下洋輔公式サイト
 ・ カンザスシティバンド公式サイト
 ・ 高橋知己公式サイト
 ・ uno 公式サイト
 ・ 小田陽子公式サイト
 ・ 野間瞳公式サイト
 
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