巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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街の救急医師

2017-04-11 19:41:48 | 
雨に濡れる桜の樹々、すぐに舞い散る運命
僕は決して深追いはしない
四季がゆっくりと順番に巡り
また春が訪れるのをじっくり待とう

まだ来年も僕がこの世にいるかなんて
そんな無粋なことは聞かないでくれたまえ

君が好きだと言った本作りは
誰にでもできることではない
もちろん僕には難しいことで
いつの日か君に原稿を託そう

今日街ですれ違う人々は
何故かモノトーンが多いから
僕は思い切って濃淡染め上げた
「紅」を散りばめることに決めた

この大いなる世界、混み合う街中
風を切って歩くには、二人はまだ若すぎ
肩を寄せて歩くには、二人はもう近すぎた

だから、僕は限りない慈悲の精神で
この世界の憂いを可能な限り取り除く

そう、何を隠そう僕は医師
この世界を病から救うことが宿命
子供の頃から薄っぺらい正義感で
地球を救うという夢を抱き続けた

そんな僕を嘲笑うかのように
大地は揺らぎ
潮は満ち溢れ
空は色を失った
僕の微力な医療技術では何の役にも立たない
でも、誰がなんと言おうとも僕は医師
自分自身にそう言い聞かせて
街中を埋め尽くす土砂やがれきを懸命に掻き出す

この懸命な作業が地球を救うのなら
僕は進んでこの役割を引き受けよう
終わりの見えないこの世の終わりに
未来に続く一筋の道を見たい

この世のすべてが壊れ果てても
生を維持する意志のある勇者達を
この世に住まわせてほしい
僕は医師だが、そのときはもう不要だろう

生にしがみつかない僕達二人は
この世界の終末を見届けて
皆にサヨナラを告げることだろう
始まりと終わりは同義だと知りながら

遠くから仲間が呼ぶ声がする
すべてを失った人々を僕達は鼓舞し
この街が元通りになる日を
心の片隅で念じている

僕の両手にはサージカルグローブでなく軍手
右手でメスならぬスコップを担いで
街の救急医師は今日も働く
世界が終わりを告げるまで
この救急活動は続くのだ

君の行く道を僕も行き、肩を並べたい
遮らないで二人で共に歩こうじゃないか

僕の筆力

2017-04-11 02:29:19 | 
僕はただのペン握る人だから
リアルな何かを変える力はない
僕がかつて共感を得た一連の出来事は
ひと時の夢と整理してしまおう

かつては文字が万能で文壇に憧れた
今は生きとし生けるものは皆
作家になることができるから
こんな僕が作家を名乗るように
俗世間は作家たる者を信じない

僕は曖昧な態度で悩む君を困らせる
悩みを解くどころか解決策は遠のくばかり
それは単に僕がこの時代の作家だから
今の時代、作家など何の力も持たない

僕には支配欲などまるでなくて
君とうまくやっていきたいだけ
僕の中に入り込む君の感情を排して
君の中に僕のほうから入り込むよ

無感情は悪感情よりもマシだから
僕は今のままの僕であり続けたい
他の誰も傷付けない僕のままで
そうすれば君の悩みが和らぐはず

君が好きだといった木製の工芸品
それは手押しぐるまの形をした
君らしいごくシンプルなデザイン
僕は旅先で買った薄い記憶を辿る

何も望まないから、無が有に見えた
僕は君に、君は僕に何を期待したのだろう
友達以上の関係である僕達に
次のステップなどある筈がない

僕は何も壊したくないから触らない
僕は何も忘れたくないから思い出す
僕は何も残したくないから片付ける
僕は何も変えたくないから目を瞑る

僕が僕であり続ける限り、僕は作家でいたい
力はなくとも、自分自身を保てる程度に
何故なら、それを望む人がいるから
低い成功確率を信じてくれる人がいるから

僕は僕の筆力を信じたい

一瞬の閃光を感じられる感性を失いたくない
僕が君にとって必要なくらい大事なこと
君が僕にとって必要なくらい大事なこと

僕達を繋ぐ文字という名の不思議な縁
僕は文字を綴る人、君は本を編む人