巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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すり抜けた光の尾

2021-09-05 14:49:59 | 



「すり抜けた光の尾」

立木の緑葉が両瞼を閉じた
しなる幹、うとうと枝振り
頬をくすぐる微かな光の粒
視線の主を探すも空の彼方
夜空さえまぶしさに彩られ
揺れながら、彷徨いながら
輝く漆黒の海に木精は漂う

星々が目に映らぬ速度で
碧の夜空をゆるりと回り
その位置を大きく変えて
もはや目に見えない境に
身を置いたはずの太陽が
巡り巡りて我らのもとへ

そしてひぐらしが鳴く頃
うっすらと、うっとりと
降り注ぎはじめる陽光は
舞い踊るようなリズムで
幾千通りの旋律を奏でる

皆の者、目覚め、目覚めよ

訪れる朝、そして光
手のひらの上でたたずむ朝日
数え切れぬ光の粒を握り潰し
すり抜けた筋が尾を伸ばして
無限かつ永遠の時の海を泳ぐ

木精は大樹の陰に身を隠して
不都合な情景から目を逸らし
暖かな陽だまりに身を埋める
そして、
誰もがこの暁に遭遇して抱く既視感
何度も巡りくる朝
年輪に深く刻むも
忘れ去りし幼少期
木精は、
失われた記憶を新たに紡ぎ
わかりはじめた未来を拓く

そんな風にして生きてきた
そんな風に生きていきたい

光の粒が舞う
光の筋が差す
光の尾が伸びる
光と影が揺れる
光の色を描こうと
光線が指し示す先へ
からだを差し出し
時を追い越せぬものかと
愚かな思案をして
木精は
彼方の太陽を眩しく見上げる

手をかざし
すり抜けた光の尾
私は
視線の先に
遥かなる永遠を見たのだ

「遠くへ」

2021-06-06 15:44:40 | 
「遠くへ」

朝霧よりも密度の濃い
分厚い水膜の向こうへ
手を伸ばせば、なぜに
届かざる地平線に届く

群れをつくる白波よ
輝く白浜に歯向かえ
沖を行き交う帆船に
目をやれば、なぜに
見えざる異国を思う

炎天下の陸に登れば
街を闊歩する獅子の
ひざ下までしっとり
垂れるそのたてがみ

なびきながら
もつれながら
彼方に揺れる
志士達の魂よ

おい、地球の民よ
騙し合っている
探り合っている
真っ白な嘘を
塗り替えてみないか

おい、地球の民よ
痛みきっている
弱りきっている
大地のどよめきに
耳を澄ませるがよい

子分達に裏切られた怒り、憤り

雲の群れはごうごうと流れる
己の罪を大空に放ち希釈して
振り返らず、立ち止まらず
我が身を省みぬ地球の民よ

地球を救済し、開発せよ
鳥達が飛び立つ宿り木を
見守る者などいやしない

海がうねる
陸がゆれる
空がはねる
地がはてる

世の果てに投じた石ころよ
水面をはねて飛んでいけ
時代をかえて駆けていけ
どこまでも、どこまでも

時代

2021-05-23 08:43:54 | 
「時代」

煮え切らないアイデアと
冷え切ったホットティー
窓外の鴉と視線が合った
不意に遮断された緊張感
絵筆を止めた私の心の隙に
かの中世詩人が耳元で囁く
「言葉なんて無粋だ」と

登場人物はみな凡人
描くのはそんな物語
数えきれない働き蜂が
無限にも思える有限の中で
巣から半径10キロ圏内を
行っては帰り
行っては帰り
行ってはまた帰り
また行ってはまた帰り

その生態系が損なわれた今
蜂は
過去を懐かしみ
現実を受け止め
未来を憂い尊び
でも、本当は常識という概念が
変えようのない秩序が、法則が
すこし崩れたことを喜んでいる

年老いた哲学者は涙する
自らの唱え続けた学説が
このカタストロフィの中
ついに証明されたことを

この時代、
ある者は咲き誇り、またある者は果てる
桜の季節はとっくのとうに終わりを告げ
自然の緑が深まり、狂おしい夏に向かう
そして、
花という花が咲き、幾万の蕾が芽吹く
人びとの命もいままた脈打ちはじめる

泣き出しそうな灰白色の空のもと
読みかけの中世詩人の書を閉じて
生きとしけるものの息吹に触れて
凡人どもの心のヒダを感じ取って
絵筆を走らせ時代なるものを描く

蜂は変異してゆく生態系の中で
思いのままに舞い、そして散る

未来切符

2021-05-16 18:52:23 | 
「未来切符」

移りゆく季節の狭間
妙ちくりんな表情の空
薄紫に転じた夕映えと西へ向かう飛行船
屋根裏から取り出した古いカンヴァスに
少し鮮やかに色をつければ
飛び切りの夏空が現れた

そして今、
もう若くない灰色がかった雲海は
何かを追うように
何かに追われるように
西へ、西へと疾走する

今日の終わりを待たずして
明日へ繰り出す若人たちよ
ようやく手に入れた今宵の寝床
さあ、もう眠るがよい
今日と明日の違いなど
お前たちにわかるはずがない

黒一色で塗りたくった夜に
白金スプレーを吹き付けた
まばゆいまでに果てしない
夜空よ、
彼らの寝息を優しく包んで
臆病な無謀者のちっぽけな心に
ほんの少し勇気を吹き込んでくれ

そして、
いつか暁色が黒を塗り替えて
ヒヨドリが舞う空、その奥行き

目覚めよ、そして気づくだろう
枕元にある未来行きのチケット
白帆をあげて
船はもう銀河で待っている

旅人よ、
風とともに走れ、走れ

水の匂い

2021-05-03 13:49:10 | 
水の匂い

ゆらゆらゆら
形のないカタチ
澱みのない流れは遥か遠く
天を塗りつぶすのは
色のない色、水色
無色透明な液体に
色をつけたのは誰
ならば私は匂いをつけましょう
彼の地ですすった一口の水
匂いのない匂いを
胸いっぱい吸い込んで
癒やされた心の生傷
水色の心、水色の私
ゆらゆらゆら
形のないワタシ
汚れのない心は遥か遠く
戻れやしない
ゆらゆらゆら
水が匂う