巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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自由の束縛

2018-11-08 02:53:33 | 
「自由の束縛」

幼い頃から胸に秘めた変身願望。
随分と成長した無表情の三十路は時折りアルカイックスマイル。
少し気恥しい紅色の思いは肌をくすぐる清風の通り道を行く。
周囲の視線や思惑を振り払い、黒の舞台に軽やかに足を運ぶ。
冷たい秋雨の憂鬱は無限に透明の未来が洗い流してくれるはず。

遥か遠い空の彼方で誰かが引きちぎった白雲
そのピースを繋ぎ合わせるままに至った現実
今は互いに背と背を向け合い、行先は逆方向
柔らかな秋風が包み込もうとする恋路を逆走

赤、青、黄。強さも弱さも油絵具のように溶け合う。
真実の自分を知る者は思いのままカンヴァスに描く。
誰もが望まぬ道であってもきっとそれが正解だろう。

惑わない、躓かない、間違わない
思いのほか早く訪れた人生の分岐点

流されない 惰性ではないから
赦されない 情が邪魔するから
やり切れない 裏切り者の烙印
待ち切れない いま始まる人生

ずぶ濡れの大観衆の透き通る声が夜空に響き渡る。
月光は恋人達のお似合いのシルエットを映し出す。
笑顔が溢れる結末の夜は皆でハイタッチを決めた。
こんな舞台が用意されるから、決断は一層鈍った。
黄金色に照る月を無理やりセピア色に塗り込めた。
夢は自力で掴み取る、何度も自分に言い聞かせた。

大粒の涙を隠すように大地に豪雨が襲う。
憶測は憶測を呼び、赤の群れが揺れ動く。
自由意思を貫く事は非情としか映らない。
結論は我のみぞ知る、我が心にひた隠す。
悩まない、迷わない、語らない。それでよし。

ありあまる想い 孤高の存在
我に決断を迫る神をときに恨む。

もう時は動いた。
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冬がその姿を現すとき

2018-11-04 20:50:16 | 
「冬がその姿を現すとき」

蒼色の大空が太陽を包む
日常という名の不感症は
お決まりの行動パターン
それが生きてるってこと

空に溶け込むノッポ煙突
我が町の見守りシンボル
巨大なキリンの破壊行為
人々は指を加えて無抵抗

寒空にコホン!と咳払い
昨日の通り雨にやり返し
もうすぐ冬のはじまりだ
樹々の後ろ姿が寒々しい

ほんの少し季節に抗って
この町の春を探してみた
時々刻々と過ぎゆく毎日
普遍の価値を見出したい

秋が過ぎ、また冬が来る
夏が来れば、春が終わる
廻る、廻るよ、順序よく
人々は踊り、踊らされて
自動的に四季を通過する

天空が群青に暗転する頃
ぐーっと伸ばした掌一杯
星の金貨よ、降り注げ!
シリウス、プロキオン、ベテルギウス
星空を遮る摩天楼を透過
都会の空は汚れちまって
希望も絶望もごった煮だ

今宵はキラ星の大運動会
春を探した私は天邪鬼か
ただただ季節に弄ばれる
その心地よさで床に就く

冬がはじまる、もうすぐ
冷たい指先
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彼女の絵が完成する頃には

2018-10-28 15:37:53 | 
「彼女の絵が完成する頃には」

心地よい風に連れられて
人混みに身を預けてみる

少しずつ肌寒くなってきた
家族連れで賑わう街の風景
どの瞬間を切り出しても笑顔
まるで時が止まったようだ

薄紅色の樹々が緑に混じって
一面を塗り変えようと虎視眈々
小鳥達はチュンチュンチュン
何か嬉しいことでもあったのか?
伸びをすれば抜けるような青、青、青
静寂など無縁な日曜日の午後

彼女はおもむろにカンヴァスを取り出す

木の葉が風に吹かれて転げてる
カラカラカラと流転の人生
僕達を置いてきぼりにした
ちょっとした罪悪感も小休止
まとわりつく蝿を叩き落として
あまりにも無慈悲な自分を笑う

見知らぬ人が早足で彼女を通り越す
きっと彼も彼女のことを知らない
そして彼女は誰も知らないんだ
それでも彼女は人間を愛する
会話もない、視線も合わせない
コミュニケーションは暗黙の了解
街のエコシステムは無限の無関心
ただひたむきにカンヴァスに向かう
モチーフはきっと幸せの一断面

このまま雲の階段を登ろう
高みに登れば登るほど
堕ちたときの衝撃は強くなる
それでも彼女は高みを目指す
僕達の手が届かない遥か遠くへ

街のオアシスで息継ぎしながら
僕はもうひとりの自分を生きる
48時間の今日を駆け抜け
表情豊かな街を描写する

あの絵が完成する頃に桜が咲くかもしれない

時は人を待たずして永遠を紡ぐ
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水のカタチ

2018-10-14 03:47:29 | 
「水のカタチ」

時は廻り、陽はまた射すだろう
登り切ったその先に水があふれる
頼りない自信を煽って
限りない生命をつなぐ
それでも君は言っていた
こわがらなくていいよ
ここより暖かい場所を探そう

帰り時刻を気にせぬ少女たちが
季節外れの花火に興じて
過ぎ去った夏を懐かしむ
もう、
時は終わりに近づくけれど
それはまた再び訪れることを
ひととき忘れているだけなのだ

ふと耳を澄ませば
川の流れが絶えず響く
耳元まで水音が届いて
訳もなく安堵するのさ
まだ何も終わることはないと

大切が何かを思ったとき
ふるさとの記憶が甦る
霧深き朝の空気
真っ白く低い雲
空を分かつ山々の稜線
街灯よりも光り輝く星々

数え切れない青春の断面を切り取って
僕はひとり感傷に浸っては
もう甦らない日々に別れを告げ
まだ形を持たない明日を待ちわびる

すべてが静止したまま
時も水も止まったまま
僕は大人になった
二十年の歳月は僕という形をつくった

川の流れが好きだった
空行く雲が好きだった
透き通る水が好きだった
包み込む風が好きだった

少女たちの若さに純粋に嫉妬する
今、僕は僕で満足しているかい
老いも若きも
夜は夜で当たり前に続く

都会のこの水の一滴も
ふるさとの大河の一滴も
同じようで違うカタチをもつ
水の雫に自分を重ねて
不器用な自分を感じた
まっさらな水になりたい

水の勢いに流れ、流され
今日までふらりふらりと生きてきた
終着点はどこかにあると思っていた
水がカタチを持たないように
時もカタチを持たないのだ
まずはこの夜を越えていこう
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10月の雹

2018-10-08 19:53:10 | 
「10月の雹」

君が僕に手渡した真新しい一冊の本。その装丁は星空から舞い降りてきたような光を放っていた。君の処女作。1ページずつパラパラとめくると虹色の文字列が踊る。僕の微笑みに君の瞳が瑠璃色に染まった。

僕は茶色の鞄を小脇に抱えて、しばし足を止めて目を瞑った。そして、少し不思議そうな顔をした君のもとからダッシュして満天の夜空を360度見渡した。

実はちょっと失望したんです。
否、かなり失望したんです。

生きるとは紡ぐことだから。
生きるとは失うことだから。
君が綴った言葉には未来がなかった。
君が綴った言葉には過去がなかった。

もっと寛容でありたかった。
もっと鈍感でありたかった。
君の感性を共有したかった。
君と同じ風景を見たかった。
大人の理屈で片付けたくない。
子供の君を赦せる自分でいたかった。
いつまでもずっと弄ばれる子供のままでいたかった。

時は果てまで流れてゆく。
僕が、君が、辿ってきた軌跡を思う。君がようやく立った表舞台。僕は君を称えるでもなく単なる批評家気取り。
こんなふたりでも人生なんてどうにかなるものさ。別々の道が用意される。

10月の雹がバラバラと降る。
この指の先端から放つ閃光が君に未来を指し示す。穏やかにみえて、頑なな性格の君に送るよ。今、ふたりの心に映った道しるべ。二股に裂かれた未来。

銀杏並木の匂いが徒らに鼻腔をくすぐる。僕の千鳥足は風に揺れる樹木の音を辿る。夜の灯は傾いて、暗闇に媚びを売る。ひとり道行く僕は失望をも失くす。君を赦す術もなく、身勝手な僕は赦されず、生き続けてまた何かを失う。

未来行きの列車が僕の肩口を乗り越えていった。
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