巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
【連絡先】
cosgyshow@gmail.com

ほんの一瞬のこと

2019-12-15 23:30:56 | 
「ほんの一瞬のこと」

この広い大地にひとり立ちすくむ
何度も見たはずの青がいつしか赤に染まる
その連続性を追いきれぬまま迎えた夕闇の到来
暮れなずむ街の風景

託されたのだ
託されたのだよ
ついに、私しかいなくなった

震える冬の日に道端で天を仰ぎふと思い出す
細長く白い煙がたなびく青空を見上げたあの夏の日
一筋の陽光が私の吐息を溶かす
遠のきゆく存在に誰もが思いを馳せた
記憶であり、憧れであり、懐かしさであり、憤りであり、そして、雄姿であった
今去りゆく無数の時間の断片

主役は姿を、そして言葉を失ってしまった
数限りない満足と悔恨を残して
こみ上げる感情はどこへ持っていけばよい
たとえ拳を振り上げたとしても行き場なく地に堕ちるだけ

大切なものはかくも容易に失いゆく
私を現世へ誘ったあの太陽は草葉の陰で眠る
託されたのだ
託されたのだよ
生きること、笑うこと、語ること、すべてを

成功も失敗も
過去も未来も
栄光も衰退も
それは数万光年の一瞬のことだから
怯える必要などないというのだろう

あなたが笑みを湛えて歩み寄ってくる姿
自信に満ちあふれたその大き目の歩幅を私は忘れない
期待と現実は裏腹に、その狭間は思いのほか広く深い
思い切り走りたい、あなたの分まで

帰らぬ人
大海の向こうで、遥か頭上の雲を越えて
何の根拠もなくあなたに守られている気がする

明日も東京は晴れるらしい
一日という一瞬がまた終わった

はれのひ

2019-12-08 17:38:28 | 
「はれのひ」

見た目よりゆるやかに流れる星が天空の彼方を駆けて、もしも消え果ててしまったら誰かの覚悟さえも消し去ってしまう。

安寧と秩序を求めてさまよう星の数々。ひとつずつ数えてみよう。

らら、ららら

永遠の背中に乗っかる蝶。春の息吹はまだまだなれど、私の心はなぜか揚々。麗しい日々を思い出したなら、忌まわしい過去を遠ざけてしまおう。いち早く陽だまりだけを集めていたら、あなたの灯が消えてしまった。振り返ればもう届かない虚ろな思い出だけが改めて木陰に映る。

輝いていた私。煌めいていたあなた。誰も彼も信じられない歪んだ俗世の中で二人はいつしか出会った。この世の中で私たちをもてあそぶ荒波と、未知なる別の人生をもとめる歩み。私の視界からあなたが消えていなくてよかった。いつの日もあなたがともにいてくれてよかった。夢の切れ端を歩いたら風がそよぐ。あなたが風ならば私は木の葉。泳いで泳いで泳がされて明日がちっとも見えなくっても、晴天の訪れだけは信じていられる自分自身でいたかった。消えない憧れと幸せを願う気持ちだけが私たちの人生の充実。

蝶々は存在を消す。普遍と偏在。季節という制約は私たちに美の概念をもたらす。あゝ、蝶々のいない冬。私は白雪を身にまとう蝶々の存在を静かに期待しているのだろうか。秩序という秩序。壊されるために存在する常識、通念というもの。社会自然の秩序は乱さないのだよ。かつて天上の存在に宣誓した私。そうあれは何十年も前のこと。いまやその約束は誰かが反故にしてしまった。だがこの冬に蝶々はいない。地球はまだ死んでいない。

今日寒い戸外から日射が届く。はれのひ。いつの季節にも長雨だけは勘弁だ。子供たちのはしゃぎ声が両の耳にかすかに聞こえる。昨日という一日が美しかったから、今日もその美しさを保ちたい。その純粋自然な心があれば私たちを取り巻く自然はいつまでも私たちの味方でいてくれるはずだ。風が笑う。あなたが笑う。誰も彼も自然を愛するならば、はれのひがこの地上から消え去らないように空気を澄み渡らせていよう。

らら、ららら

あなたが鳴らす喉歌がほら、今この瞬間世界に喜びを届ける。

ららら、ららら

幸せを運ぶ。
風が笑う。私も笑う。

今日ははれのひ。




永遠旅人

2019-12-08 17:34:02 | 
「永遠旅人」

たおやかに流れる水の流れに手を差し出し、手のひらに一瞬収まっては逃げていく無数の光の粒子。遥か幾万光年の彼方からやってきたその波長の断面を捉えた一瞬に脳裏に刻み込まれた美の祭典。その裏側には途絶えることない過去と未来があると海を渡った異邦人が教えてくれた。昨日という過去を乗り越えてやってきた今日という新しい一日。

波面がゆらゆらと揺れる、夢のまにまに

睡眠と覚醒の狭間で漂う間に光り輝く星々は旅立ってしまった。消えざる過去と創りゆく未来が交錯して足元の影はゆらりと揺らぐ。覆い隠す飛行船の軌跡を避けるように旅人は東へ向かう、地平線の彼方に訪れるであろう太陽の光を浴びるために。これ以上の喜びはないと夕闇の宴で誓った衆生たち。いつまでもこの幸せは続かぬと山河を慈しみながら自然物と人工物が奏でる不協和音を鳥達の囀りでひととき忘れ去ろうとする。

今日というときが消えてしまう。そして明日というときが現れ、やがて消え果てる。その繰り返し。

稜線がくっきりと照らし出される、朝の訪れ

ゆるやかに、ゆるやかに傾きつつある日付変更線。その中心点を手繰り寄せながら未来の航海図をデッサンしてはその筆を一瞬止め、黙考する。考えてはならぬ。考えてはならぬ。ただ感じよ。そして念じるのだ。祈るのだ。かつてアステカの王国が滅んだように我らの世界も遠い過去と一体化しようとしている。今日を愛する人がいう。きっと明日はあると。それがただの強がりだと時の旅人は見抜いている。

色のない世界に押しつぶされ、これまでの赦しを請うために旅人はすべてを捨てた。それが未来への絶望であったとしても意に介さず。己がこの世に生を受けた理由。解のない問いの前に立ちすくむ。ただただ今ここにある、その単純な論理を解明することすらできず、足元に群がる一群の蟻を見つめる。そして、ただ一心に己の感情を支配する畏怖と戦う。

今日の風が爽やかに吹いた
明日の風が軽やかに吹いた

どこまでも澄み渡る蒼が永遠の静けさと冷たさを演出する。旅人は身震いしながら北の大地を目指す。先に導く遥か長き道をその目に焼き付け、半身が既に消えてしまった己の行く末を案じながら、もはや己ではない己が存在する明日を未来をどう生きるべきか葛藤する。未来とはより永き時を経験した存在が過去の己を更新していくこと。その解釈に辿り着くまで半世紀を要した。旅人は永遠に自問自答を繰り返す。

この寒空の下、北の大地を越えて旅人は大海に出帆する。時間と空間の乱れのない希望の大地へ向けて航海を進める。己という存在を貶め、消し去る恐怖はもうここにはない。モノクロームの過去を塗り替えるのは白銀が彩る永遠の大地であろう。己が旅人でよかった。

吹き付ける白い風を冷たく感じる夜
その風は旅人の背を押すことだろう

旅人よ、歩け、進め。それが己の存在を意味づけるだろう。
国を造る者、国を率いる者、それは旅人なり。皆、彼に続くのだ。

寒空へ祈る、誰もがみな時代を創る旅人でありますようにたおやかに流れる水の流れに手を差し出し、手のひらに一瞬収まっては逃げていく無数の光の粒子。遥か幾万光年の彼方からやってきたその波長の断面を捉えた一瞬に脳裏に刻み込まれた美の祭典。その裏側には途絶えることない過去と未来があると海を渡った異邦人が教えてくれた。昨日という過去を乗り越えてやってきた今日という新しい一日。

波面がゆらゆらと揺れる、夢のまにまに

睡眠と覚醒の狭間で漂う間に光り輝く星々は旅立ってしまった。消えざる過去と創りゆく未来が交錯して足元の影はゆらりと揺らぐ。覆い隠す飛行船の軌跡を避けるように旅人は東へ向かう、地平線の彼方に訪れるであろう太陽の光を浴びるために。これ以上の喜びはないと夕闇の宴で誓った衆生たち。いつまでもこの幸せは続かぬと山河を慈しみながら自然物と人工物が奏でる不協和音を鳥達の囀りでひととき忘れ去ろうとする。

今日というときが消えてしまう。そして明日というときが現れ、やがて消え果てる。その繰り返し。

稜線がくっきりと照らし出される、朝の訪れ

ゆるやかに、ゆるやかに傾きつつある日付変更線。その中心点を手繰り寄せながら未来の航海図をデッサンしてはその筆を一瞬止め、黙考する。考えてはならぬ。考えてはならぬ。ただ感じよ。そして念じるのだ。祈るのだ。かつてアステカの王国が滅んだように我らの世界も遠い過去と一体化しようとしている。今日を愛する人がいう。きっと明日はあると。それがただの強がりだと時の旅人は見抜いている。

色のない世界に押しつぶされ、これまでの赦しを請うために旅人はすべてを捨てた。それが未来への絶望であったとしても意に介さず。己がこの世に生を受けた理由。解のない問いの前に立ちすくむ。ただただ今ここにある、その単純な論理を解明することすらできず、足元に群がる一群の蟻を見つめる。そして、ただ一心に己の感情を支配する畏怖と戦う。

今日の風が爽やかに吹いた
明日の風が軽やかに吹いた

どこまでも澄み渡る蒼が永遠の静けさと冷たさを演出する。旅人は身震いしながら北の大地を目指す。己を先に導く遥か長き道をその目に焼き付け、半身が既に消えてしまった我が行く末を案じながら、もはや己ではない己が存在する明日を未来をどう処すべきか葛藤する。未来とは、より永き時を経験した己が過去の己を更新していくこと。その解釈に辿り着くまで半世紀を要した。旅人は永遠に自問自答を繰り返す。

寒空の下、北の大地を越えて旅人は大海に出帆する。時間と空間の乱れのない希望の大地へ向けて航海を進める。己という存在を貶め、消し去る恐怖はもうここにはない。モノクロームの過去を塗り替えるのは白銀が彩る永遠の大地であろう。旅人は、己が真の旅人たることを切に願う。

吹き付ける白い風を冷たく感じる夜
その風は旅人の背を押すことだろう

旅人よ、歩け、進め。それが己の存在を意味づけるだろう。
国を造る者、国を率いる者、それは旅人なり。皆、彼に続くのだ。

天空へ祈る、誰もがみな時代を創る旅人でありますように。