巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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だんだん

2019-09-29 18:34:12 | 
『だんだん』

行き交う人々の笑顔を数えてみたり、吹き込む風の色を感じてみたり。いま時は流れて、風は私という物体を避けるから、逆に私のほうから風に身をさらしてみよう。
ああ、やわらかな空気の流れ、連なり
そして目を凝らすと空の遥か彼方に鳥達が未来を描く。私はあんな風に自由になりたいなどと戯言を重ねては、まだ見ぬ季節の訪れを待ちわびる。足元でざわめく落葉の一枚一枚。丁寧に拾い上げてふっと息を吹きかけ空に飛ばす。数秒間の空中飛行。
ああ、ゆるやかな時の流れ、重なり
路上に映る黒影が伸びてゆく。だんだんと私が見えてきた。だんだん、だんだん。

きっといつの日か

2019-09-22 22:15:41 | 



「きっといつの日か」

はらはらと空を舞い降りる金の葉を数え上げ、世の不条理など笑い飛ばして雲の上を闊歩する自分と出会おう。パラパラと冷たい雨が降りだした。笑顔のない町人が第一走者を通せんぼしている。国境線を越えようとする子供たち、まだ親の温かな膝枕で暖を取っていなさいと諭す大人たち。意味のない調和は崩れる。DNAに刻み込まれた設計図にしたがい、一人ずつそのぬるま湯を振り切って新たな道を切り拓きはじめる。そしていつの日か100万光年の彼方に辿り着いた夢の狩人たちは誰一人いない無の空間で新たな城を、豊かな町を築くことができるだろうか。独りぼっちになって初めて気づく無力感。そんなときは隣人と手をつなごう。大自然の無常観は君に生のリズムを与え、自分自身に戸惑う君の心を解きほぐしてくれるだろう。君がいま歩き出した未来は永遠とは程遠いものかもしれない。ひどく曲がりくねり、時に陥没した道の数々。だからこそ君にしか歩めない。ラテンのリズムで独特のステップを利かせて、その道が導くであろう未来をみんなに届けてほしい。一心に空を見上げて。星が輝く。

実存主義

2019-09-22 17:15:52 | 
「実存主義」

罪と罰で濁り切った聖水を
胃の中にグイっと流し込む

鋭利な陽光に数万時間照らされ
変わり果てた



行き交う群衆は見過ごす
かの花が艶やかに揺れる姿を
街角に立つ一人の道化師は
砂漠の嵐をかき消して見せた

足るを知る
それを才能というのならば
きっと君はこの世に不可欠な人間だ
絵筆を持ちパレットから色を運ぼう

西の空一面に広がる橙色が夜を呼ぶ
無を連想させる漆黒の世界は明日への布石


水のしるし

2019-09-17 01:36:58 | 
大宇宙の端に心許なく立ち、眺める地球の姿
丸みを帯びた楕円形、その凸と凹をミクロに見つめる
薄白い光の筋は地平線の隅から隅までピンと伸びる
足取りの重い旅人は途方もないその距離に歩き疲れる

しばし足を休めよう
温泉の窓のほとりから罪なき清らかな湯が流れ溢れて
両方の手のひらに溜めきれないほどに滔々と流れる水の形
遥か遠くから飛んできたという星の使者から託された一杯の水
我らを守る神々のために銀の盃に注いで回ろう
世界中の海がすべて一滴の水から始まったのだとしたら
歩き疲れた旅人のために新たな地中海を創り出してあげよう

とはいえ空は空で厄介だ、旅人よ
北極星と南十字星の距離が広がりすぎだ
神経質な天文学者はセンサーの感度を確かめながらレンズ越しに天体を眺める
目に映ったのはただの高層ビルの窓明かりではないのか?

晴れの日に訪れたまえ
曇りの日に現れたまえ
雨降りの日には佇みたまえ

先の見えない道を行く旅人にはナビゲーションが必要だ
水を辿って行きなさい
私からのアドバイスはそれだけだ

美しい水しぶきが別れのしるしを刻む頃
その心ははるか遠くを巡り巡って遠回りして
大地が負った大いなる傷を治癒しようと大樹は我が身から樹液を垂らす

それも水
命が宿す体液を懸命に振り絞る

音が辿る、壁が遮る、心が迸る
絶え間ない大地の叫びに耳を澄ませて
君というわずか一個の存在のために懸命に生きる健気な存在を
旅人たる君は受け容れることができるのか

今日なぎ倒された大樹の根を決して見るでないぞ
あの大樹は桜、春の象徴
風よ、よくも倒してくれたものだ
私は自然を純粋に愛する気持ちの乱れを整理できずにいる

季節を追うほどに水は流れゆく
澱みも霞も何もかもかき消して、ただただ物理化学の法則に従う
人間存在が勝手に定義した大宇宙の摂理とやら
当たり前を難しく解釈した世紀の大発見が人の世の中を明るく照らす

水は滴る、岩をも砕く粘り強さで
当たり前を当たり前とすることなく

旅人よ、
そのコップの水を一杯飲み干せば君にも未来が見通せるはずだ