巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
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偽善者の春

2017-04-10 18:03:31 | 
ひらひらと舞い降りる桜の花弁
昨日手に入れた小さな幸せを
ガラス細工をそっと持ち上げるように
大切に両手で掬い上げる僕

もはや人生の折り返し地点を
ターンした僕にとって
昨日という一日は
大切な一日で
貴重な一日で
あり得ない一日だった
だから、僕は嫌だと言われる覚悟で
昨日という一日を過ごした証拠を残した



過去を再現することはできない
記憶はやがて薄れゆく
記録は忘れかけた記憶を
思い出させてくれる

今までとは少し違った印象を
僕は打ち解けた証拠だと取った
君が側にいてくれたから
君が笑顔でいてくれたから
僕も心の底に宿る寂しさを
ひと時忘れることができた

僕は再現できない過去を振り返る
初めて見た君はどこか儚く
そんな君が時折見せる笑顔は
他の誰の笑顔よりも「本物」だった
僕は心からの笑顔を見たくて
君を呼び寄せたのかもしれない

その笑顔を独り占めした僕は
幸せ者で
愚か者で
臆病者で
卑怯者で
偽善者なのかもしれない

この世界で最高に罰当たりな僕は
あたかも世界中の幸せを集めたかのように
桜の樹が如く、幸せの花弁を
笑顔という形で撒き散らす

今なら僕も「本物」の笑顔になれるかな

もし、それが叶わなくとも
世の中に溢れている笑顔が
本物の幸せに紐付いてるかどうか
今の僕なら見分けられる自信がある

君はもうここにはいない
でも僕は君と過ごした時間を
こうして思い出すことがまだできる
もしも僕がすべてを忘れてしまったとき
僕はあの桜の写真を見て思い出す

この春の日に君と同じ時間を
同じ空間で過ごしたという事実を