巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
【連絡先】
cosgyshow@gmail.com

時に弄ばれて

2017-04-09 23:32:57 | 
今日はもう19時なのに
街はネオンで昼間のような明るさ

駆け抜けるメトロポリス
駅前に屯した少年達を追い越し
地下道に吸い込まれるように
息を切らしてメトロに乗り込む

今日は大切な約束があるんだ
僕の邪魔をしないでくれ
地下鉄の車内で僕は時計を見遣る
君はまだ僕を待ってるか

一秒が一分、一分が一時間
時が止まるほど遅いのは何故
僕の周りの空気は淀み
僕の周りの人々は静止

時よ止まるな、動け

ゆったりとした時を嘲笑うように
時計は精確に時を刻んでいく

三駅離れたその先にある
君と待ち合わせた花時計
僕は人波をかき分け約束の地に向かう

誰一人いない花時計前
逆回りし始める時計の針
ピンク色のチューリップは
やがて人型になり僕を品定めする

あなたは誰に会いに来たの

僕を訝るピンク色の妖精
どうしても会いたい人がいるんだ
邪魔立てしないで早く会わせてくれ

妖精が体躯を一回転させるとそこに君の姿が

相変わらずもったいぶるね
だって30分遅刻してるじゃない
それは僕にも責任があるけれど
時が止まったんだ、本当に

愛とは信じること?
それとも裏切りを許すこと?

君は舞い散る桜の花びらのように
僕のもとから去っていった
吐息を吹き付け耳元で囁いて

時は止まらない、私もそう

僕の時は完全に停止した

素敵な宝箱

2017-04-09 18:31:35 | 
紅の糸で結われた不思議な関係
宙空を舞い降りる雨粒を睨め付け
僕はあり得ない妄想を
崩しては積み上げる

ちょっとした後ろめたさ
外は冷たい霧雨だけど
僕の心は暖かかったりする
君にコスモスの花束を贈ろう

慣れないシチュエーション
視線は泳ぎ、全身が緊張気味

こんな日に限って何故雨天!
なんて実は案外シナリオ通り
僕はありのままの自分で
君の到着を待ち受ける

何か必然めいたものを感じる僕
悪事を働いている訳ではなく
どうにでも転がる運命なんて
脱力して精神を時に委ねよう

気恥ずかしさと照れ臭さが心に同居
良心が軽く疼く、雨がやまないね

いつか来た道、いつか通る道
僕達の不思議な人生には
幾つもの出会いと別れがあって
君とこうして出会うことは
必然であり、偶然でもある

雨雲は吹き飛ばせなかったけど
桜咲く広い野原で僕達の心は繋がった
永遠の心のラリー、どこまで続くかな
僕達が誓った15回、3度達成したから
次回もきっとある、そう誓おうよ

そう言って僕達は名残惜しく
今日という素敵な宝箱に蓋をした

10年の歳月

2017-04-09 00:05:09 | 
桜が咲き誇る樹にもたれ
僕は昂まる心を鎮め
恋文を認めている

10年の空白を埋めたい

まだ青二才、君に渡す勇気がなく
僕の手元に残していた手紙を
10年ぶりに読み返し、涙した

切ない想い、届かぬ想い

幼稚な思いは愛情とは言えず
どちらかと言えば憧れに近く
僕は君に会うたびに卑屈になり
憐憫に似た感情を抱いては
君への思いをより強くした

あれから10年
このブランクをどう埋め合わせよう
変わりきった僕は売れない作家
もはや見知らぬ女性ともいうべき君
どんな風に思いを馳せ、何を伝えればいい

僕はオトナの恋をしていい年齢だ
それだけの経験を積んできた
君がこの10年どう過ごしていようと
僕には君を受け入れる覚悟がある

桜の樹の下で
僕は君に伝えるべきキーワードを
ひとつずつ、丁寧に手繰り寄せる

10年前の出来事
この10年間に起きたこと
(死にかけたこともあったんだ)
そして今の自分、僕の生き様

夢想すればするほどに
今はただ君に会いたい

僕は君へのメールを書き終え、
友達から伝え聞いた君のアドレスに送る

見渡せば桜の花弁が舞い散る
桜の季節もこの10年と同様
あっと言う間に過ぎ去るもの
僕はひとり立ち尽くしたまま、君からの返信を待つ