巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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らら、ららら

2020-05-10 16:41:10 | 



昼下がりの少し眠気が襲う頃
そろそろ届く、母さんの好きな花かご
あなたの趣味を思いながら子どもの頃を思い出したよ
ワガママだった僕はずいぶん手がかかる子どもだったろう

母さん、あるときはとても気弱で寝込むこともあったね
姉さんと二人で、布団に横になっているあなたを案じた
家族を養うプレッシャーがどれほどかなんて知ることなく
愛情をいつも求めていたその重さに気づかない子供の特権

あのひ、僕はちっぽけな我が家の庭で椅子にすわって
あなたがさばくハサミの奏でる音に聴き入っていた
なんの不安も抱かず、なんの苦労もせずに
このままいつか大人になるのだろうと無神経に思ってた

リズミカルに、ラララ、時計は幸せを差して止まってた

今遠い異国にいる僕はふるさとの大地を踏めないけれど
スイッチひとつであなたの声や表情を知ることができる
それは味気ないコミュニケーションかもしれない、でも
ゼロコンマ数秒の遅れならその絆に影響なんかないよね

あのさ、ありふれた言葉だけど「げんきかい?」
あのころよりも少ししわがれたあなたの声が聞きたい
いま僕はあの頃のあなたの年齢を大きくこえて
あなたの年齢の半分をとっくに割ったんだ

近づいてるようで、決して追いつくことはない、それが親子

母さん、いま僕は子供を持って、いわゆる親になって
あのころのあなたの気持ちが少しだけわかるようになったかな
大切なものを懸命に守ってきた気苦労を理解してるかな?
少しずつ、少しずつ、あなたの大きさに気づいてきたかなあ?

思い出アルバムは二階の物置部屋に散らかしたままだよね
記憶という思い出を胸の中にフルカラーですべて持ってます

らら、ららら、らら、ららら
るる、るるる、るる、るるる

あこがれ(改稿版)

2020-05-10 00:46:46 | 



灰色の雲の切れ目から
すべてを照らそうとする光の筋
分厚い雲に行く手をはばまれて
夕空はすっかり雨雲に覆われる

もうすぐ雨降りの季節
あじさいの花びらのうえ
一匹、二匹
懸命にはいつくばっている

もしも真っ暗な夜空が晴れならば
あなたは一番星の名乗りをあげて
わたしの視界にぽっと灯るだろう

うすのろだってゆるされますか

星がいつ消えたのかさえ知らず
わたしは懸命に緑葉の上を這う


あこがれ

2020-05-09 23:32:16 | 


太陽
灰色の雲の切れ目から
降り注ぐ光はすべてを照らすけれど
分厚い雲にはばまれては手出し無用
気づけばすっかり雨雲に覆われた夕空

季節
もうすぐ雨降りの日々がふえて
あじさいにかたつむりが現れる
はいつくばっていきてきた半生
うすのろだってゆるされますか
ねばりづよく、あなたのように

回想
もしも真っ暗な夜空が晴れたなら
あなたは一番星の名乗りをあげて
わたしの視界にぽっと灯るだろう
やり直すことなどできないけれど
あの頃と同じ夢をみていたいのだ
夢みる若者を応援していたいのだ

あなたはいつまでもあなた

やすらかな笑顔を
たやさなかったあなたの勝ち
やせほそった身体を
みせなかったあなたの勝ち

かなしみは海よりも深く
そして
おもいでだけが記憶を彩る

星が消えたのはいつ?
子どもたちは行き場を失った
あなたは今どこを泳ぐのですか
わたしは葉の上を這うかたつむり

熟した果実

2020-05-09 15:18:05 | 
大切なものは目に見えません

こころ

この世にうまれ出たときから
常に脈動し続ける胸の臓物が
目の前三十センチ四方の空気を
ぶるぶるとゆらす

脳内に搭載した顕微鏡を使って
その複雑な動きを分析する
入り乱れる感情が生むのは
滝のように雪崩落ちる罵詈雑言

幼い頃にはピンク色していた心のひだが
自分でも気づかぬうちに
怒りや苛立ちや焦りで
能面のようにツルンとしてきた今日この頃
誰かの感情のつぶてがすりぬけてゆく

かつてより美しくなくなった世の中にあらがい
わたしは自分史を再構築しようとする

老眼鏡が手放せなくなったわたし
歩くために杖が必要になったわたし

今よりほんの少し優しくなった社会を
先の未来に期待するけれども
わたしはわたし

庭先で熟した無花果の収穫時がわからない
縁側で座ってひとり考え込むわたし
もいで持ってきたのは隣家に住む少年だった
ありがとう
とどめを刺してくれて



ゆめうつつ

2020-05-09 00:37:12 | 
ゆめうつつ

はらはらと
細い指のあいだを
すりぬけてゆく
音がおどる
そして流れゆく時
先端が響くのか
カラカラと揺れる
かすかな気配をたどっては
朝の光のしぶきに目をそらし
そして
夕風はなきごえのように
ひゅるひゅると鳴いて
誰もたどりつかなかった夢世界へ
すべてをいざなう
答えはただひとつではないと
誰かが信じたのかもしれない
朝は空を見上げた
そして
夜は床に就こう
何気なく目に映った天井の歪んだ木目が
未来への入口だと子どもたちは知っている
気づいている
小さな寝音を立てながら眠りに落ちる母よ
あなたはどこへゆく
ゆらりゆらり
心地よく
そして私も
こくりこくり
ゆめうつつ