巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
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掌の中の迷走

2018-06-23 17:31:29 | 
「掌の中の迷走」

あゝ、この聖なる地は
広く、美しくあると信じている
長い年月を経て見出した偶然の地

この偶然を願い、
誰もが此処を求めてやってくる

風見鶏が無責任に見つめる方向を
群衆は無心に突き進む

歩いては立ち止まり
立ち止まっては歩き始め
気付けばあさっての方向を眺める風見鶏

慌てて方向転換し、方角を見定めるも
行き場を失い胸の鼓動が高まるばかり

《どう歩むべき?》

天に語りかける弱々しい言葉は迷いの象徴
無意識に造物主の掌の中を駆け回る

此処に辿り着く、着かないも必然
そして、
辿り着く者達には究極の選択が迫られる

還る、去るは自由
賽は投げられたのだ

未来を少しだけ覗き見したいと願う心
答えは先達が持つことに気付かぬまま

歴史は繰り返す、偶然を重ねるから


星の金貨

2018-06-23 14:11:43 | 
「星の金貨」

誰かが貯め込んだ
無数の金貨が噴き出して
宙空に華々しく舞い散った

欲しいものなら何もかも
手に入ると思っていた
そして、
手に入れた瞬間に不要物に変わる

あゝ、夢とはなんだろう
あゝ、情熱はどこへ消えた

星が綺麗だからと
それだけの理由で
飛び出した無謀さ

無数の鳥達が群れをつくる
私が去ったあと、続けざまに
一羽抜け出し
五羽抜け出し
十羽抜け出し
誰もそんなことには気づかず
群れは永遠に安泰だ

夢を追ったはずの
甲斐のない離脱を
嘆いても仕方ない

居場所を失った今
私に残されたのは不自由な翼
夜空を駆けて別の群れを探る
受け容れられようのない別の群れを

星の金貨が一枚、夜空から舞い降りた

少年よ

2018-06-17 16:59:31 | 
「少年よ」

覚えているか、少年よ
苦し紛れに乗り込んだ船を
私が操舵し、方向を誤り、
二度と浮かび上がることのなかった

覚えているか、少年よ
這いつくばった地面の砂を
私の叫喚の中、君は消えた
立ち上がることすらできなかった

覚えているか、少年よ
冷えて硬直した命の残骸を
お前の涙は私の頬に落ちた
泣きわめく悲鳴だけが周囲を包んだ

あゝ、青春のひとコマを切り取って
お互いの手を取り、重ね合わせよう
救いや赦しとは無縁な世界から
ちょっと離れてみたかったのだ

船は沈み、君と別れた



時代

2018-06-10 19:15:37 | 
「時代」

時は過ぎ、季節は移ろい、
人の心にさざ波を立てる

《あの頃とは違うのだよ》

そう諭す心の言葉が
グサリと胸に刺さる

美しい瞬間だけを切り取り
毎日を生きながらえてきた
始まりが十年前だとしたら
もう既に時代は様変わりし、
言葉は重く、響かなくなる

動きをなくした石ころは
踏まれてもまれて蹴散らされ
やがては粉々になってしまう

一瞬の輝きを今こそ発し、
もう一度、生の証を得たい

路上に立ち止まり、小雨降る空を見上げた
哀しい灰色を打ち消す虹すら架からず
はらりはらりと涙を落とす空が不憫で
僕はちっぽけな石ころを蹴飛ばした

瞼に涙を浮かべながら……

決心

2018-06-09 23:43:54 | 
「決心」

箱詰めにされた
酸い蜜柑のように
詰め込まれ
押し潰され
果汁がジュワッと
滲んだような淀んだ世界
こんな日常でも
これがいいと思う人もいる

田舎(いえ)に帰れば
澄み渡る空気
取り巻く山々
清水を湛える川
延々と広がる大地

何を躊躇しているのか

人間の選択は常軌を逸する

今日もまた廃人になって
吐き出されては並べられ
忙しい、忙しいと
忙しいふりをして
目先の三文のために
歯を食いしばる

あゝ、
これも人生
あれも人生

なんて、分かったフリをして
何も知り得ない愚かな存在

落ち込んだ隣人を
少し勇気づけたり
柄にもなくそんなことをして
いささか人間らしさを取り戻し
まやかしの毎日を送る

自らの魂を解放するのはいつの日か

今日の苦行を勤め上げ
あゝ、また一時間の荒行だ
そう思った瞬間に
あの蜜柑箱から
飛び出した
飛び出せた

田舎に帰るぞ

肩の荷がすーっと下りた