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早ずし、なれずし、柿の葉ずし/奈良新聞「明風清音」第33回

2020年02月25日 | 明風清音(奈良新聞)
木曜日の奈良新聞「明風清音」欄に、月2回程度寄稿している。先週(2020年2月20日)掲載されたのは、「大和と紀州 すし比べ」だった。奈良県民があまり知らない「早ずし」(ラップでくるんだサバずし)、十津川村を除いてあまり食べない「なれずし(熟れずし・馴れずし)」、そして吉野川・紀の川流域の郷土食(行事食)「柿の葉ずし」について考えてみた。記事を準備する期間中に、たくさんの写真を撮ったので、あわせて以下に紹介する。
※トップ写真は、弥助寿司(和歌山市本町4丁目31)から取り寄せたサバの早ずしとなれずし

NHK奈良放送局「ならナビ」の「岡本教授の大和まだある記」では、12月17日1月14日の2回、「大和の寿司」を紹介していた。興味深く視聴したが、「なれずし」のことなどを少し補足しておきたい。


こちらがサバの早ずし(サバずし)。オークワ富雄中町店の店頭に並ぶが、早々に売り切れる

▼早ずし(サバずし)
私は平成17年にブログ「どっぷり!奈良漬」をスタートさせた。アクセス状況は翌朝に判明する。毎日50件近いアクセスをいただくのが「早ずしは和歌山名物/うまい、安い、ボリュームたっぷり!」という記事だ。和歌山県生まれの私が、同県で普通に販売されている早ずし(ラップで包んだサバずし)を紹介している。




奈良県内でも、和歌山に本社のあるオークワでは、時々店頭に並ぶ。平成10年頃、和歌山ラーメンが大ブームになった。和歌山に行ったお客が「和歌山ではラーメン屋にサバずしが置いてある」と驚き、ネットなどで評判になった。この早ずし、奈良県民にはあまり知られていないようだ。



値段は柿の葉ずしの半額程度、大きさは倍ほどもあるので、リーズナブルでしかも美味しい。柿の葉の防腐作用がないので、消費期限は当日となるが。早ずしは、和歌山県民にとっては「発酵させていないすし」なのだが、奈良県民には「柿の葉の代わりにサランラップで巻いたすし」ということになろう。



『聞き書 和歌山の食事』(農山漁村文化協会)という本のカバーに、橋本市出身で「前畑ガンバレ」の兵藤(旧姓前畑)秀子さんがコメントを寄せていた。「今も母がつくつてくれた『サバずし』の味を忘れることができません。母は当時の二銭銅貨を竹筒にためておき、お祭りになると、その竹筒を割って『サバずし』をつくってくれました」。サバずしは、和歌山県民のソウルフードなのだ。


十津川村のFさんが送ってくれたサンマのなれずし「あやこさんが作ったなれ寿し」
(三重県南牟婁郡御浜町阿田和3414-1)。和歌山県田辺市の「道の駅奥熊野古道ほんぐう」
(Aコープ)で買っていただいた(2/6撮影)。三重県→和歌山県→奈良県のリレーだ!

▼な(熟・馴)れずし
「塩蔵の魚に飯を合わせ、その自然発酵によって酸味が生じた鮨」(『デジタル大辞泉』)。なれずしは琵琶湖のフナずしが有名だが、和歌山県にはサバやサンマのなれずしがあり、私も時々取り寄せている。十津川村では正月のご馳走用として作られ、今もスーパーなどでなれずしが普通に販売されている。野趣に富んだ味わいで酒肴にはもってこいなのだが、それが苦手な人もいる。



あやこさんが作ったなれ寿し(サンマのなれずし)


こちらはサバの早すし(向かって左)となれずし。トップ写真のすしだ

ならナビ(前編)では「つるべすし弥助」(下市町)の宅田彌助さんが登場。釣瓶鮨(つるべすし)はもともと5日間ほど発酵させたアユの「半なれずし」だったが、その味が好まれなくなったので、昭和63年を最後に、発酵させていない「押しずし」を提供しているそうだ。


こちらはなれずし。3週間寝かせたものを送ってもらった


こちらは早ずし。嵩は同じでも、サバの厚みが全く違う。発酵の段階で縮むのだ

▼柿の葉ずし
番組後編では、熊野灘のサバを漁師がかついで吉野に運んできた(サバ街道)という話のあと「柿の葉ずしの北限は御所市、南限は下市町のまん中あたり」という解説があった。南限と北限はその通りで、これは概ね吉野川(紀の川)流域である。



「季節料理・山菜料理 静亭」(吉野町吉野山952)の自家製柿の葉ずし

しかし「熊野からサバをかついで運んできた」とう説には、私はやや懐疑的である。和歌山県の紀の川筋(橋本市や伊都郡)にも柿の葉ずしを作る風習があるからで、漁師が川舟で紀の川を遡ってサバを運んできた可能性がある。今も柿の収穫量日本一は和歌山県だ(奈良県は2位)。

物流や保存技術が発達し、今は海のない本県でも新鮮なにぎりずしなどが味わえるが、伝統の味も忘れないようにしたい。 

乳酸発酵したなれずしは、酸味が強い。サバやサンマのなれずしは「フナずし」などに比べてずっと食べやすい。試しに14人の奈良県民にサバのなれずし(3週間寝かせたもの)を少し試食してもらったところ「美味しい」「臭味がない」「フナずしよりずっと食べやすい」とご好評いただいた。

なれずしは、東南アジアから米作の伝来とほぼ同じ時期に日本に伝わったそうだ。先人の知恵が詰まったなれずしに、ぜひいちどチャレンジしていただきたい。

(2/25追記)以前、「早ずしは和歌山名物」の話をFacebookに載せたところ、和歌山市出身の尾崎敦士さんから、こんなコメント(1/21付)をいただいた。
「早ずしは一夜漬けですから、本当に美味しいのはなれずしだと思います」「親父が有田の湯浅町なんで、秋祭りになれずしと、もくず蟹をよく食べてました。やはり南の方ですかね。最近は残念ながら食べてません。でも私も柿の葉寿司にはこだわってますね。茶がゆも毎朝食してましたが、今その味はどうして出せません。多分ですが茶葉が良すぎると思われます。今のほうじ茶では、残念ながら出ません。こう考えると和歌山と隣合わせている奈良の地域にもそういう習慣がありますね」。


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