天使幼稚園

カトリックの精神に基づいて未来を生きる子どもたちを育てます

<園長だより「風」6月号>匂いの記憶・匂いの力

2024年05月23日 08時00分00秒 | 園長だより
 先々週は母の日の集い、先週は親子遠足、そして今週は保育参観に足をお運びくださり、ありがとうございました。お家の方と一緒に過ごす子どもたちの嬉しそうな笑顔。コロナが5類に移行されてから2回目の春。こうしたふれあいの時間を普通に持つことができることの恵みを、改めて感じているところです。

 ♪ おか~さん な~に おかあさんって いいにおい
     せんたくしていた においでしょう しゃぼんのあわの においでしょう♪
       (作詞:田中ナナ / 作曲:中田喜直)

 母の日の集いで子どもたちがプレゼントした「おかあさん」の歌。1954(昭和29)年に発表され、今でも歌い継がれているこの曲の作詞者田中ナナさんが、この詩を作るきっかけを次のように語っておられます。

 田中さんの妹さんが、ご主人の仕事の関係で、幼い娘ルビーちゃんをおばあちゃんに預けてフランスに渡りました。1年後に帰国したお母さんに会ったルビーちゃん。でも、お母さんの顔を忘れていて、おばあちゃんにしがみついてしまいました。その時、おばあちゃんが優しく「ほらママよー。いいにおいがするでしょう。」と声をかけると、ほのかなママの香りをかいだルビーちゃんが「ママ!」と笑顔になってママに飛びついたそうです。「においが結ぶ親子の絆。そのすごさを、歌で伝えたかったんです」と。<朝日新聞2010(平成22)年1月1日号より>

 生き物にとって、匂いは生死がかかった大切な情報です。花は香りを漂わせ、昆虫たちを引きつけて花粉を運んでもらいます。世界で一番大きい花として知られ、神代植物公園にもあるショクダイオオコンニャクは、腐った肉のような強烈な悪臭を出して虫を呼んでいます。芳香であれ悪臭であれ、それぞれの植物に必要な虫を、その匂いで誘っています。動物も、くだものやエサになる生き物の匂いを嗅ぎつけて、食べ物を得たり獲物を探したり、反対に敵から逃れることができたりしています。私たち人間も、今は食品の安全性が厳格に管理され、賞味期限や消費期限が定められていますが、かつては食べ物の匂いを嗅いで、腐った臭い、酸っぱい臭いがするものは食べられないけれど、そうでなければ食べられると判断していました。

 最近では匂いによる癒しの効果が、大きく認識されるようになりました。私たちは日ごろ視覚や聴覚から得られる情報を、大脳新皮質を使って考えたり判断したりしています。しかし、嗅覚の情報は、感情や直感に関わる大脳辺縁系にダイレクトに届きます。さらにその情報は脳の視床下部に伝わり、人間の生理的な活動をコントロールする自律神経系・ホルモン系・免疫系に影響を与えます。その効果に目を付けたのが、エッシェンシャルオイル(精油)を活用したアロマセラピー(英)<アロマテラピー(仏)>で、リラクゼーションを与えたり、病気の治療や症状の緩和に利用されたりしています。

 目で見ることができる視覚情報は、写真やビデオで記録し、繰り返し見ることができ、耳で聞く聴覚情報も、同じビデオや録音機器によって残すことが可能です。でも、嗅覚情報である匂いや香り、触った時に感じる触覚情報、そして舌で味わう味覚情報は、現在のところ、記録しいつでも確かめることはできないものです。

 再現が難しい嗅覚情報だけに、意識していないとつい忘れがちになってしまいます。さらに、人は同じ匂いを嗅ぎ続けると、だんだん慣れて、匂いを感じにくくなるという傾向があります。でも、わたしたちの身の回りにはたくさんの匂いがあふれています。花の香り、雨が降り始めた時の独特の香り、登降園時に通る街の匂い、お料理しているときのお家の匂い、さらには毎日通っている幼稚園の匂い、等々。時々嗅覚を研ぎ澄まし、身の回りの匂いを感じてみませんか。何か懐かしさを感じたり、感情が動かされたりする体験ができるのではないでしょうか。
         (園長 鬼木 昌之)


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