文明開化を通して欧米に負けない国にしようと取り組んでいた明治政府は、1872(明治5)年、日本にも学校制度を取り入れました。それから9年後の1881(明治14)、文部省は「夏季休業日」を設けて夏休み制度がスタートしました。日本の学校の夏休みは古くからあるものですね。夏に長い休みを取るのは、当時は教室にクーラーがなく、暑さのため勉強ができなかったから、あるいは欧米のvacances(バカンス:仏語) vacation(バケーション:英語)を参考にした等の説があるようです。
一方、大人にとっての夏休みは、江戸時代から昭和の初めにかけて行われていた、住み込みで働いていた奉公人が、お正月とお盆に実家に帰る「藪入(やぶい)り」の習慣がもとになっているといわれ、現在は8月13日の迎え火(盆入り)から、16日の送り火(盆明け)までを「お盆休み」としているところが多いようです。
欧米では大人も含めて、6月から8月にかけて長い夏休みをとる国がたくさんあります。vacancesには、「空(から)」という意味があり、ゆったりと過ごす「人間が元気に生きていくためには必要な時間」という思いがあり、長い期間避暑地に出かけて、のんびりとしたお休みを満喫している人も多いそうです。
日本の学校では、長い間7月21日から8月31日までが夏休みになっていました。小学校では「夏休みの友」が配られ、毎日1ページずつ進めていくはずが、夏休みの終わりになって大急ぎで残っているページに取り組んだという経験をされた方も多いのではないでしょうか。ところが、文部科学省の指導要領の改定に伴って「脱ゆとり」が図られるようになり、授業時間を確保するために、夏休みの期間を短縮する学校も増えてきました。また、夏休みの宿題も、画一的なものから、個別の課題になったり、宿題自体を無くしたりする学校もみられるようになってきました。
まとまったお休みを取ることができる夏休み期間は、故郷に帰省したり、海外を含めて旅行に出かけたりと、日々の生活から離れることができる貴重な時間です。ただ、ほとんどの人がこの短い期間にお休みを取るために、列車などは込み合い、道路は渋滞するなど、vacances「空」とは程遠いお休みとなっていますね。
モンテッソーリ教育を取り入れている天使幼稚園。その基本は「子どもには自己教育力」があるという考え方です。そのために、それぞれのお部屋には「日常」「感覚」「言語」「数」「文化」という多様な教具をそろえ、子どもたち一人ひとりが自分の思いを活かし、おしごとを選ぶ環境を整えています。でも、モンテッソーリのおしごとは、これらの教具を使うことに留まりません。子どもたちは自分がしたいことを見つけると、大人が導かなくても集中して取り組み、できるまで繰り返しチャレンジするという特性を持っています。天使幼稚園では、子どもたちの多様な興味関心を引き出すことができるよう、モンテッソーリの教具を使う場だけでなく、思い切り体を動かして遊ぶ時間も大切にしたり、最近では絵の具遊びや泥んこ遊びの場、そして音楽教室を設けたりして、子どもたちの持つ多様な可能性を伸ばす環境を整えるようにしています。
日ごろとは異なる環境で過ごすことができる夏休み。子どもたちは、いつもはできないことを体験する絶好のチャンスです。それぞれのご家庭でも、子どもたちが挑戦できる多くの環境を整えることによって、今までは気付かなかった新しい可能性を見つけ出すきっかけにすることができるもの。多くの才能を秘めた子どもたちだからこそ、一人ひとりの奥に眠っている、生涯取り組む事ができるものを見つけ出す場がとても大切です。それは生き物や自然とのふれ合いだったり、音楽であったり、ダンスやスポーツであったり、本との出会いであったり……。こうして夏休みに出会った経験が、大谷翔平選手や、藤井聡太名人のようなすばらしい活躍をする人になるきっかけになるかもしれません。
のんびりと過ごす中、多くの経験をすることができる場を準備し、楽しい夏休みをお過ごしください。
(園長 鬼木 昌之)