今年の6月、理化学研究所と富士通が共同で開発したSuper Computer(スーパーコンピューター)「富岳(ふがく)」の計算速度が世界一になりました。その速度は1秒間に41.5京回。それまで世界一だったアメリカの「サミット」の約3倍、10年前に開発された日本の「京(けい)」の約40倍にもなるそうです。この1秒分の計算を、人が電卓を使ってするとすれば135億年かかるとのこと。人の力をはるかに超えたコンピューターの能力です。
早速、「富岳」を使って、人の口から出た飛沫の広がり方を予測し、コロナウイルス感染予防対策に役立てていました。かつては装置を組み立てることが必要だったこのような実験を、今では計算を用いることで素早くできるようになりました。
さらにコンピューターの処理能力の発達により、Big Data(ビッグ データ)と呼ばれる情報を収集・分析し、先を見通したり戦略を練ったりすることもできるようになりました。ビッグ データは、大容量なだけでなく、多種性・リアルタイム性があり、今回のコロナウイルス感染予防対策でも、スマートフォンの位置情報を基に、人々の動きを把握し対策に活かされました。
またAI(エー アイ)という言葉もよく聞くようになりました。AIとはArtificial Intelligence(アーティフィシャル インテリジェンス)」の略で「人工知能」と訳されます。以前のコンピューターは人の指示に従って計算をし、結論を導き出すものでしたが、コンピューター自身が、収集した膨大なデータから規則性や特徴を繰り返し分析する「機械学習」を行うことで、“自ら学ぶ”ことができるようになりました。このような学習機能を活かして、かつては人間の方が強いとされていた将棋の世界でも、何十手も先を読むことを通して、プロの棋士を破るコンピューターが現れています。
1990年代には、長年研究が進められてきた二足歩行ロボットの技術が大きく進歩し、2017年、歩いたり走ったりするだけではなく、宙返りをすることができるロボットも開発されました。また、まだ多少ぎこちないものの、口を動かして会話をする人型ロボットも登場しています。
1952(昭和27)年に手塚治虫さんが生み出した鉄腕アトムは、当時から見ると半世紀後の2003年4月7日が誕生日とされました。それより少し遅れているものの、AI技術やロボット技術を組み合わせて、自ら考え行動する鉄腕アトムのような人間型ロボットが世に出る日が近づいています。
その一方、このような技術を正しく活用できるかを心配する声も聞かれます。先日、フランシスコ教皇様は「11月の祈りの意図」の中で
「人工知能は我々が経験している画期的な変化の中心にあります。そして、ロボット工学は公益と結び付けることで、より良い世界の実現につながります。技術の進歩が不平等を増大させるのであれば、それは真の意味での進歩とはいえません。将来的な進歩は、人と創造物の尊厳を重視するような方向に向けられるべきです。ロボット工学と人工知能の進歩が常に人類のためになることを祈りましょう」
と呼びかけられました。
かつて土木工事に役立つようにと、アルフレッド・ノーベルが発明したダイナマイトは、その後爆弾に姿を変え戦争に用いられてしまいました。また、空を飛びたいという人類の夢をかなえた飛行機も、戦争の道具として使われました。このようにそれぞれの時代の最新技術は、人々の役に立つものともなったり、害を与えるものになったりするという歴史を繰り返してきています。
いかなるものでも、自然という造物主の手から出るときは善である。
人間の手に渡って悪となる。(ジャン=ジャック・ルソー)
AIより優れた知恵を持つ人間として、自ら作り出したものを善いものとして活用すること。それが神さまから善いものとして造られた人間の使命ではないでしょうか。
(園長 鬼木 昌之)