猿人から原人、そしてホモ・サピエンスと進化した人類は、アフリカから世界中に広がっていきました。その進化の中で、火を操り、石器を用い、更には土器を作って食物を蓄えることを覚えました。こうして人類は狩猟生活から農耕生活へと移行し、繁栄の基礎を築いていきました。
触れるとやけどをし、森を焼き尽くす火は、太古の人類にとっては恐ろしいものでした。しかし、その火を上手に利用することによって、調理をしたり、暗い夜、辺りを照らしてくれたりする便利なものとなりました。石を割ってできる鋭い割れ目を利用すると、物を切る包丁になったり、狩りをするときの槍先になったり、木を切る斧になったりと、さらに暮らしを豊かにする道具となりました。やがて農耕を覚えると、移動しながら獲物を追う生活から、同じところに定住して暮らしを安定させることができるようになりました。そこには採集した物を蓄えたり煮炊きしたりする土器が欠かせないものとなりました。
現代に生きる私たちからみると、まだまだ使いにくいと思えるものだけれど、その時代その時代、当時としては斬新な「文明の利器」を利用することによって文明が発達してきました。
さらに、青銅器や鉄を作り出した人類は、近代に入ると蒸気機関を発明したり、電気の力で物を動かしたりと「文明の利器」も大掛かり、あるいは込み入ったものになってきました。
そして現代の「文明の利器」はというと、スマートフォンを含むデジタル機器が挙げられます。未来の技術とされていたテレビ電話(会議)も、普通の家庭でもできるようになりました。スマートフォンを利用すれば現金を持っていなくても支払いをすることができ、さらにその位置情報を利用すれば迷子になった子どもがどこにいるかも探すことが可能です。また心拍数や血糖値を測り、健康管理に役立てる技術も開発されています。太古の時代に比べると、はるかに複雑で高度化してきた「文明の利器」。これをさらに発展させるためには、現代そして未来を生きる人々の知恵と技術の向上が欠かせないものとなっています。
新しい時代に向けて、2020年度から小学校でも「プログラミング教育」が始まりました。プログラミングというと、プログラミング言語を用いてプログラムを作成するというイメージですが、実際は、それだけではなく、プログラミングの考え方に触れ「プログラミング的思考」を育成することが核となっています。
「プログラミング的思考」というのは、試行錯誤を繰り返しながら課題を解決する論理的な思考力です。具体的な学習例として、正三角形を書くときの操作を「①一本の直線を5cm引く ②左端から120度右上に5cmの線を引く ③新しく引いた線の上から右下120度に5cmの線を引く」このように分析することや、都道府県の特徴を表したいくつかのブロック(「九州地方」「さつまいも」「隣り合う県の数は2」など)を組み合わせてその県はどこかを探すことなどが取り上げられています。この他の取り組みも「順序立てて考え、試行錯誤し、ものごとを解決する力」を育てることができるように、教科を超えて取り組むことになっています。
このような学びが、いかに多くのことを覚えているかという「知識の量」から、いかに学んだことを活用できるかという「知識の質」への転換にもつながっているのです。
新しい「文明の利器」は、だれかが発明してくれてその恩恵に与ろうという受け身の姿勢でいるのではなく、ぼくが! わたしが! 自ら創り出していく。その力を結集して新たな「文明の利器」を生み出し、人類の進歩に役立ていこうという思いを、こらから育ちゆく子どもたち一人ひとりが持ち、すばらしい未来を拓いてほしいと願っています。
(園長 鬼木 昌之)