闇に響くノクターン

いっしょにノクターンを聴いてみませんか。どこまで続くかわからない暗闇のなかで…。

訂正:藤原頼通の同性愛

2009-02-13 14:46:35 | 愉しい知識
このところ『人間の精神について』の翻訳が比較的順調にすすみ、きりのいいところまできたところで、毎日、今までの訳の見直しをしている。これまで一年近い時間をかけて訳しているので、著者の言いたいことや著者独自の言い回しも、自分なりにだいぶわかるようになってきた。そんなことで、最初に訳した部分を読みかえしていると不満もでてくる。そんな不満や不備を毎日少しずつ訂正し、合わせて全体の校正を行っているというわけだ。
当初との一番大きな変更は、フランス語の「utile」(英語でいうとuseful)という単語に、これまでは「有益な」という訳語をあてがっていたのだが、いろいろ考えた結果、「役に立つ」というより具体的な表現の方がいいのではないかとおもえてきて、すべてこの表現に置き換えることにした。これがけっこう手間がかかる。
具体的には、
「個別の社会同様、民衆は、判断において単に自分の利害という動機によって決定され、実直、偉大あるいは英雄的という名称を、自分に有益な行動にしか与えず、また、しかじかの行動に対する自分の称賛を、力、勇気あるいはそれを実行するのに必要な気前のよさにはけして比例させず、この行動の重要性そのものとそこから引き出す利益に比例させる。」
といった文章を、
「個別の社会同様、民衆は、判断において単に自分の利害という動機によって決定され、実直、偉大あるいは英雄的という名称を、自分の役に立つ行動にしか与えず、また、しかじかの行動に対する自分の称賛を、力、勇気あるいはそれを実行するのに必要な気前のよさにはけして比例させず、この行動の重要性そのものとそこから引き出す利益に比例させる。」
という風に改訂している。小さな改訂のようでも、全体では同じような用例がかなり出てくるので、これによって全体の印象が変わってくる。

     ☆     ☆     ☆

さてこれにあわせて、細かい事実や人名を調べるために、図書館にもかよっているが、あいた時間に『古事談』を調べて、1月27日付けの小ブログの記事「武士の髪型とイデオロギー」のなかの誤りに気づいたので訂正しておく。

まずは『古事談』の記事の原文。
「長季は、宇治殿の若気なり。仍りて大童まで首服を加へず、と云々。久しく参らざる時は、いみじく怨ましめ給ひけり。大飲の間、酒の事に依りて御おぼえはさがりにけり。」(2-63、岩波書店「新日本古典文学大系41/古事談・続古事談」)
ここから読み取れるのは、宇治殿(藤原頼通)の同性愛(若気)の相手は長季という者であったということ(そしてそれが公然のことでこの記事の筆者ならびに多くの者が知っていたということ)、そして長季が頼通の寵童だったために、適齢期になっても元服(首服を加へる)が許されなかったということだ。相撲のことはこの記事になにも記されておらず、私の記憶違いと訂正しておく。
ちなみに、『古事談』には頼通にかぎらず同性愛の記事が多く、比較的有名な次の記事も記されている。
「隆国卿頭と為て、(後一条天皇の)御装束に奉仕す。先に主上の御玉茎を探り奉るに、主上隆国の冠を打ち落とさしめ給ふ。敢へて事と為さずして本取(もとどり)を放ちて候ふ。是れ毎度の事なり。」(1-54、同)
要するにこの記事は、源隆国が蔵人頭だったとき、後一条天皇の着替えをその職務としていて、着替えのたびに天皇の玉茎に触れていたこと、そしてそのたびに天皇が隆国の冠を打ち落とし、隆国も髪を乱していたということであろうか。これも、そうした事実関係があったということに加えて、この時代の朝廷では、それが公然のことであったということを読み取るのが重要だと思う。

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