私はもともとアイルランドという国に惹かれるところがある。ケルト系の音楽も好きだし、アイリッシュ・ウィスキーもギネス・ビールもこよなく愛す。そもそも、アイルランドは紀元前よりケルト人が独自の文化を継承してきた国であるが、12世紀以降800年近く英国に支配されてきた。特に17世紀、清教徒革命の指導者クロムウェルによる侵略は、カトリック教会の破壊など残虐極まりないもので、アイルランド人は東部の肥沃な土地を収奪され、大西洋側の岩と泥炭むき出しの荒涼とした地に移住させられた。多くの人々は小作人としての奴隷的生活を余儀なくされ、痩せた土地にも生息するジャガイモを主食として辛うじて生きてきた。しかも、19世紀半ば、このジャガイモに疫病が蔓延するいわゆる“ジャガイモ大飢饉”が起きて百万人が死亡、多くのアイルランド人がアメリカに移住して行ったのである。後に米国の大統領になるジョン・F・ケネディの祖先もジャガイモ農家であったが、この時期、アメリカに移住したアイルランド移民である。こうした移民の結果、現在アメリカに在住するアイルランド系の数は、本国の人口の何倍にもなるという。しかし、建国以来の民族であるアングロサクソンはアイルランド人を軽く見て、米国における地位は低いままである。
司馬遼太郎は、その著書『街道を行く・愛蘭土紀行』の中で、「アイルランド人は、客観的には百敗の民である。が、主観的には不敗だと思っている。」と書いている。そのくらい、アイルランドの歴史にはいいところがない。しかし、“負け続けていながら、そう思ってはいない”という、この表現がおもしろい。司馬遼太郎は、これはケルトの時代から受け継がれてきた“アイルランド人の自己に対するしたたかな崇拝心”によるものであろうと書いている。(山下)
司馬遼太郎は、その著書『街道を行く・愛蘭土紀行』の中で、「アイルランド人は、客観的には百敗の民である。が、主観的には不敗だと思っている。」と書いている。そのくらい、アイルランドの歴史にはいいところがない。しかし、“負け続けていながら、そう思ってはいない”という、この表現がおもしろい。司馬遼太郎は、これはケルトの時代から受け継がれてきた“アイルランド人の自己に対するしたたかな崇拝心”によるものであろうと書いている。(山下)
