TAOコンサル『市民派・リベラルアーツ』

「エッセイ夏炉冬扇独り言」
「歴史に学ぶ人間学」
「僕流ニュースの見方」
「我が愛する映画たち」

「プレイス・イン・ザハート」・・しみじみ心に残る映画

2017年09月12日 | 我が愛する映画たち

久しぶりにテレビの映画を見た。「クレイマー・クレイマー」のロバート・ベントン監督・脚本作品、地味だが感動的な映画である。アカデミー主演女優賞に輝いたサリー・フィールドの自然な演技が素晴らしい。脇役は「二十日鼠と人間」などのジョン・マルコヴィッチ、しみじみとした演技がとてもいい。綿畑作りを指導する「ダニー・グローバーは、メル・ギブソンの「リーサル・ウェポン」でいい脇役を演じていたが、この作品での暖かいキャラクターも心に残る。
夫である保安官の葬儀風景
   (私事になるが、ここで流れたのが妻が好きだった讃美歌488番であった)

舞台は1930年代のテキサス。主人公は保安官の夫と二人の子供と幸せに暮らす平凡な主婦エドナ。ある朝酔っ払いの黒人に夫を射殺され、途方に暮れる。貯金もなく家を売るしかない。そんな絶望の中で、仕事を探していた黒人を雇って綿畑作りを始めることを思い付くのだが・・・。
 
血みどろの綿畑作りに挑戦するエドナ

エドナの人に媚びることも厳しくもない真っ直ぐな性格と、そのひたむきな生き方が感動を誘う。物語の背景に流れるのは人種差別問題。綿畑作りでエドナを助けた黒人も白人からの暴力により街を出て行くことになるなどハッピーエンドではないが、ラストシーンが実にいい。死んだ夫も夫を射殺した黒人も、旅立って行ったダニー・クローバーも微笑みながらエドナの家族と共に礼拝を守るシーンだ。
 息子とダンスするエドナ

 ジョン・マルコヴィッチとダニー・グローバー


マーティン・スコセッシが28年かけて制作して来た遠藤周作の「沈黙」、いよいよ完成

2017年01月18日 | 我が愛する映画たち
マーティン・スコセッシ監督が原作に出会って心を動かされ、28年かけて制作してきた映画「沈黙」が完成、近日中に上映とのこと。
私も遠藤周作が好きで、若い頃から幾つかの作品に触れ、いずれ長崎の記念館も訪ねたいと思っている。だから、ここに「沈黙」のことや遠藤周作のことを何か書きたいと思ったが、重い題材なので何も書けない。やむなく、小説「沈黙」の遠藤周作の言葉のさわりを書き記すこととする。

画像はNHK特集番組より
「その時、踏むがいいと銅版のあの人は司祭にむかって言った。
踏むがいい。お前の足の痛さをこの私が一番知って入る。

 画像はNHK特集番組より
踏むがいい。私はお前たちに踏まれるため、この世に生まれ、
お前たちの痛さを分かつため、十字架を背負ったのだ。
こうして司祭が踏絵に足をかけた時、朝が来た。
鶏が遠くで鳴いた。」

大事にしていた沈黙の単行本が見つからない、やむなく文庫本を購入

映画・・雨降りなり、小栗康平の「泥の河」を見る、何度観てもいい

2016年11月11日 | 我が愛する映画たち
今日は雨降りだ、植木の剪定も草取りもできない。こんな日は我が草庵での読書か映画に限る。
先日、恵比寿の写真美術館へ行ったら、イベント企画に小栗康平の名があり、気になっていた。そうだ、今日は「泥の河」を見よう。
小説「泥の河」は宮本輝の太宰治賞を受賞した作品であるが、1981年に小栗康平が映画化した。監督デビュー作品である。しかも自主制作映画というのに、この年のキネマ旬報ベストテンの第1位に選ばれ、日本アカデミー賞の優秀作品賞や監督賞なども受賞した。

水汲みをする少年喜一
舞台は日本が高度成長時代を迎えようとしている昭和31年頃の大阪。安治川の河口近くに住む少年と対岸に繋がれた小舟で暮らす姉弟との出会いと別れ、社会の底辺で生きる人々の姿をきめ細かく描いている。悲しい物語だ。しかし、子役たちの演技が素晴らしい。

 信雄と姉弟

安治川の河口付近で安食堂を営む板倉晋平(田村高廣)と妻(藤田弓子)の小学3年生の息子信雄はある日、対岸に繋がれたみすぼらしい小舟の姉弟と知り合い友達になる。母(加賀まりこ)はこの舟で売春しながらひっそり暮らしている。いわゆる廓舟だ。暫らくして11才の姉銀子と信雄と同い年の弟喜一は食堂に遊びにやって来る。喜一は用意された夕食をこんな旨いもの食べたことないと喜び、笑うことの無かった銀子は風呂に入らせて貰ってはじめて笑顔を見せる。喜一がお礼に歌う軍歌「ここはお国の何百里・・」を晋平はしみじみ聞いている。彼はシベリアからの引揚者だったのだ。

手品でせいいっぱい歓迎する晋平 

悲しい話がいくつか挿入されている。銀子は晋平の妻が用意してくれたワンピースが似合って嬉しそうにするが、受け取るのを断って帰っていく。自分は幸せになってはいけないと言い聞かせているのであろうか。はかなげな少女が悲しい。天神祭りの日、喜一と信雄は小遣いを貰って出かけるのだが、喜一のズボンのポケットに穴が空いていて落としてしまう。・・以下、物語は省略するが、・・ある日、突然の別れがやって来る。別れの言葉もなく、姉弟の乗った舟が急に岸を離れ、動き出す。信雄は慌てて舟を追いかけ、川岸や橋の上を走り続けるのだが、姉弟は最後まで姿を見せることはない。信雄が涙を流しながら「きっちゃん、きっちゃん」と呟くように喜一を呼ぶ声には、人生で初めて出会った悲しみ・切なさが滲んでいる。しみじみいい映画だ。
 去って行く小舟と見送る信雄

映画「ハドソン川の奇跡」・・イーストウッド監督の映画作りと機長の勇気に感服

2016年11月02日 | 我が愛する映画たち
クリント・イーストウッド監督作品のファンなのに、なかなか時間がとれず、この映画、やっと観てきた。さすがである。
映画評論家の芝山幹郎が「短い。無駄がなく、力強くて優雅だ」と評していたが、まったく同感である。
イーストウッドが今回新作に選んだ題材は、全世界が奇跡と称賛したハドソン川に不時着した航空機事故だ。映画タイトルは機長サレンバーガーの愛称「サリー」、機長を演じるのはトム・ハンクスである。副操縦士を演じるアーロン・アッカートの演技も、とてもいい。



2009年1月15日、厳寒のニューヨーク。ラガーディア空港を旅だったUSエアウェイズ1549便は離陸2分後に鳥の群れと衝突、左右のエンジンが停止状態に陥り、この儘では墜落するしかない。こんな時、如何なる判断を下すべきなのか。機長は管制塔も驚くハドソン川への緊急着陸を試みる。しかも、無事な不時着、乗客・乗員155人全員の救出に成功させたのであった。

この航空機事故のニュースはその日のうちに世界中を駆け巡り、機長は英雄として称賛された。私も翌日の新聞を読んで、機長の冷静な対応やこういうことに遭遇した時のアメリカ人のタフネスに感動、早速ブログに感想を記したものだ。


機長を演じるトム・ハンクスと副操縦士を演じるアーロン・エッカート

しかし、この映画は機長の英雄物語ではない。その裏に隠された真実を描いている。映画は国家運輸安全委員会(NTSB)の調査官による追及シーンから始まる。まるで、法廷劇のようだ。我々は知らなかったが、155人を救ったはずの英雄は容疑者とされていたのである。本当に両エンジンとも推力を失っていたのか、何故ニュージャージーの空港に向かわなかったのかなど18カ月に及ぶ調査が続いていたらしい。そして映画では、繰り返し行ったシミレーションからすると、この飛行には問題があると調査官は機長を追い詰める。コンッピュータデータをもとに、飛行機は近距離にある空港に着陸可能だったと主張する調査官と機長・副操縦士の闘いが繰り広げられる。こういう視点からの映画作りがイーストウッド監督の凄いところだ。その他、この航空機不時着を知った民間の船舶が数隻が脱出した乗客救出に向かったというのも素晴らしい話で、これら勇敢な船長たちを映画に出演させていた。心憎い演出である。

クリント・イーストウッドの作品のテーマは常に人間である。「許されざる者」は引退して久しい賞金稼ぎが再び立ち上がる物語、「グラントリノ」は朝鮮戦争で心に傷を負った偏屈で孤独な老人の人生最後の賭け、「ミリオンダラーベイビー」は実の娘と疎遠になったトレーナーが貧しい女性ボクサーを育てながら心を通わせる話だ。さらっとした映画作りなのに、どれも見る者に考えさせる。

 中央がサレンバーガー機長

この作品、来年のアカデミー賞の候補にノミネートされるに違いない。楽しみだ。

笛吹川を散策しながら、深沢七郎の作品「笛吹川」や「楢山節考」に思いを馳せる

2016年07月06日 | 我が愛する映画たち
特にここ数年は、高校時代の友人たちとの付き合いが深まり、郷里での旧交を温めている。この4月も武田神社から舞鶴公園・小瀬公園を経て石和温泉へと皆でドライブ。宿泊した石和温泉常盤ホテルから直ぐのところを笛吹川が流れており、朝早く目覚めたので、一人で笛吹川の土手を散策。旅館の前を流れる疎水沿いは桜が満開、少し歩くと桃の花も咲いている。いい気分だ。笛吹川というと、この地出身の深沢七郎のことを思い出す。長野の姥捨伝説を描いた小説「楢山節考」で世に出たが、「笛吹川」も有名である。

笛吹川のもの悲しい枯れススキやヨシの風景

笛吹川は甲武信岳(こぶしだけ)と国師ケ岳(こくしがだけ)に源を発し釜無川に合流、富士川にいたる河川である。笛吹川とは美しい名である。その由来は、かつて鎌倉幕府に追放された日野一族の武将藤原氏の嫡男権三郎が洪水で流された母を偲んで吹いた笛に因んで付けられたらしい。土手から見渡すと冬枯れのヨシやススキが風にそよいで何処か寂しげな風景である。

小説「笛吹川」は、信玄から勝頼に至る武田家の盛衰と共に生きた笛吹川沿いの農民一家の何代かにわたる物語である。生まれては殺されて行く農民たちの無慈悲な運命を土俗的な語りで描いた問題作で、1960年木下恵介監督によって映画化された。出演は高峰秀子・田村高廣。「楢山節考」は今村昌平により映画化されカンヌ映画祭でパルムドール賞を受賞、年老いた母を背負い真冬の山に捨てに行く悲しい物語だ。
WEB画像より・・木下恵介映画笛吹川

初めての地を訪ね、こうしてその歴史や小説に思いを馳せる、これぞ旅の醍醐味である。






映画「NYの眺めのいい部屋売ります」・・大人の男と女の物語

2016年02月08日 | 我が愛する映画たち
この映画、舞台がブルックリンと聞いて嬉しくなって観に行って来た。NYでも特に好きな街だ。しかも主演が「許されざる者」「インビクタス・負けざる者たち」のモーガン・フリーマンとウッディ・アレン映画で活躍して来たダイアン・キートン。地味そうな映画だが、見逃したくないではないか。



主人公は黒人と白人の結婚に偏見があったであろう時代に一緒になり、40年間苦楽を共にして来た画家アレックスと妻ルース。その住まいはブルックリンの余り豪華ともいえないアパートメントだが、部屋は美しい景色を一望できる最上階にある。屋上の家庭菜園でトマトを作り、愛犬と三人で暮らしている。二人にとっては最高の住まいだ。しかしアレックスも愛犬も相当高齢となり5階までの階段が辛い。そんな姿に心を痛めるルースはアパートを売って転居しようと提案する。そんな夫婦の物語である。



二人のさりげない演技が実にいい。アパートの売却交渉が一気に進展しそうになった物語の後半、アレックスは橋の上のテロ騒ぎに大騒ぎする人々の喧噪を見て、ふと不動産ブームに振り回される自らの姿に虚しさを感じる。そして「とんだ空騒ぎだったな」と我に帰り、妻に「ここに住み続けようじゃないか」と語るシーンは心を打つ。監督は「人生の価値は所有する資産では測れない」ことを言いたかったのであろうか。

ラストシーンに流れるヴァン・モリソンの曲「Have I Told You Lately」が実にいい。
・・歌詞は「Have I Told You Lately that I Love You 」、「最近、僕は君に愛してると言ったかな・・」、ジーンと来る。 



映画「クリード」・・あのロッキーが帰って来た

2016年02月03日 | 我が愛する映画たち
老境に入り、自分が既に過去の人間であることを受け入れて静かに生きるロッキー。そこに現れるのはかつてのライバルであり親友であった元チャンピョン、アポロの息子アドニス・クリードだ。偉大な父を持ったが故のコンプレックスと葛藤しながらも、進行性難聴の恋人ビアンカに支えられて生きている。こうして、自らのアイデンティティを見出すための闘いに挑もうとする若者アドニスと、これを受け入れ自らの病とも闘いながら生きるロッキーの物語が始まる。





ロッキーシリーズの流れを継承しながらのきめ細かいした物語作りはファンを感動させる。お人好しで純粋なロッキーが健在はあり、お馴染みのテーマ曲が随所に散りばめられた音楽作り、フィラデルフィア美術館でのシーンなどファンにはたまらない。しかし、貧しさとは違う現代社会の悩みに葛藤する若者の姿、老いて成長し全てを受け入れる優しいロッキー、そして重い病を持ちながらアドニスを支えるビアンカなど、斬新な物語が描かれている。単なるリバイバルではない。そして何より素晴らしいのは、物語の根底を流れる人間と人間の絆であり、自らの限界に挑戦しようとする若者の生き方への賛歌であろう。


映画「日本のいちばん長い日」・・戦後70年、日本人が忘れてはならない歴史

2015年08月12日 | 我が愛する映画たち
歴史小説作家半藤一利は「昭和史」で毎日出版文化賞を受賞するなど、ジャーナリストの視点に立った意欲的作品を発表して来た。特に「日本のいちばん長い日」は1945年(昭和20年)8月14日正午から翌15日正午までの出来事を描いた作品であるが、証言者一人一人に取材するなど中身の濃い内容となっており、若い頃夢中で読んだ記憶がある。この映画はそのノンフィクションドラマの映像化である。監督は「金融腐蝕列島」「クライマーズ・ハイ」「我が母の記」など社会派の原田真人、俳優人は私の好きな役所広司、本木雅弘、山崎努など錚々たる実力派俳優が顔を揃えている。


この映画は「日本の一番長い日・決定版」と「聖断・昭和天皇と鈴木貫太郎」の2冊を中心に脚本が構築されており、昭和天皇と鈴木貫太郎首相、そして阿南惟幾陸軍大臣を中心としたドラマになっている。太平洋戦争の戦況が絶望的となった1945年4月、鈴木貫太郎内閣が発足するが、既にアメリカ軍は東京大空襲に引き続き、全国主要都市へのB29爆撃機による空襲を着々と進めていた。その上ソ連が日ソ不可侵条約を破棄して日本に侵攻し兼ねない一触即発の緊迫した状況にあった。6月には沖縄戦が終結、日本の敗色が濃厚となるなかで、7月26日には連合国は日本にポツダム宣言を発令し受諾を迫っていた。降伏か決戦か、連日連夜閣議が開かれるが、陸軍大臣と海軍大臣の対立など議論は紛糾する。こういう状況下、アメリカは8月6日広島、9日には長崎に原子爆弾を投下する。こうして8月14日に緊急御前会議が開かれ、昭和天皇のご聖断により降伏を決定したのであった。
阿南陸軍大臣を演じる役所広司

この映画は、ポツダム宣言受諾に至る二転三転の激しい議論が行われる閣議の様子や御前会議での❝国を残すために軍を滅ぼすしかない❞とする昭和天皇のご聖断、或いは本土徹底抗戦を主張する血気盛んな陸軍若手将校たちのクーデター決起など、歴史教科書には出て来ないシーンなど見応え十分である。特に天皇を演じた本木雅弘の凛とした立ち姿、戦争終結に向けて力を尽くす山崎努演じる鈴木貫太郎の豪快な姿、そしてご聖断の後静かに自決する役所広司演じる阿南惟幾陸軍大臣の毅然とした姿など、どれも美しく見応え十分であった。
昭和天皇を演じる本木雅弘

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とはドイツの名宰相ビスマルクの言葉と言われているが、この作品には、戦後70年、戦争の記憶が薄れていくなかで、日本人が忘れてはならない歴史が描かれている。是非多くの日本人に見て欲しい。

首相鈴木貫太郎を演じる山崎努