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映画「ハドソン川の奇跡」・・イーストウッド監督の映画作りと機長の勇気に感服

2016年11月02日 | 我が愛する映画たち
クリント・イーストウッド監督作品のファンなのに、なかなか時間がとれず、この映画、やっと観てきた。さすがである。
映画評論家の芝山幹郎が「短い。無駄がなく、力強くて優雅だ」と評していたが、まったく同感である。
イーストウッドが今回新作に選んだ題材は、全世界が奇跡と称賛したハドソン川に不時着した航空機事故だ。映画タイトルは機長サレンバーガーの愛称「サリー」、機長を演じるのはトム・ハンクスである。副操縦士を演じるアーロン・アッカートの演技も、とてもいい。



2009年1月15日、厳寒のニューヨーク。ラガーディア空港を旅だったUSエアウェイズ1549便は離陸2分後に鳥の群れと衝突、左右のエンジンが停止状態に陥り、この儘では墜落するしかない。こんな時、如何なる判断を下すべきなのか。機長は管制塔も驚くハドソン川への緊急着陸を試みる。しかも、無事な不時着、乗客・乗員155人全員の救出に成功させたのであった。

この航空機事故のニュースはその日のうちに世界中を駆け巡り、機長は英雄として称賛された。私も翌日の新聞を読んで、機長の冷静な対応やこういうことに遭遇した時のアメリカ人のタフネスに感動、早速ブログに感想を記したものだ。


機長を演じるトム・ハンクスと副操縦士を演じるアーロン・エッカート

しかし、この映画は機長の英雄物語ではない。その裏に隠された真実を描いている。映画は国家運輸安全委員会(NTSB)の調査官による追及シーンから始まる。まるで、法廷劇のようだ。我々は知らなかったが、155人を救ったはずの英雄は容疑者とされていたのである。本当に両エンジンとも推力を失っていたのか、何故ニュージャージーの空港に向かわなかったのかなど18カ月に及ぶ調査が続いていたらしい。そして映画では、繰り返し行ったシミレーションからすると、この飛行には問題があると調査官は機長を追い詰める。コンッピュータデータをもとに、飛行機は近距離にある空港に着陸可能だったと主張する調査官と機長・副操縦士の闘いが繰り広げられる。こういう視点からの映画作りがイーストウッド監督の凄いところだ。その他、この航空機不時着を知った民間の船舶が数隻が脱出した乗客救出に向かったというのも素晴らしい話で、これら勇敢な船長たちを映画に出演させていた。心憎い演出である。

クリント・イーストウッドの作品のテーマは常に人間である。「許されざる者」は引退して久しい賞金稼ぎが再び立ち上がる物語、「グラントリノ」は朝鮮戦争で心に傷を負った偏屈で孤独な老人の人生最後の賭け、「ミリオンダラーベイビー」は実の娘と疎遠になったトレーナーが貧しい女性ボクサーを育てながら心を通わせる話だ。さらっとした映画作りなのに、どれも見る者に考えさせる。

 中央がサレンバーガー機長

この作品、来年のアカデミー賞の候補にノミネートされるに違いない。楽しみだ。


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