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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ミセス・ハリス、パリへ行く

2023年08月12日 | 映画(ま行)

自分らしく輝くこと

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1950年代、第二次世界大戦後のロンドン。

夫を戦争で亡くした家政婦、ミセス・ハリス(レスリー・マンビル)は、
勤め先の家でディオールのドレスを目にします。
ため息が出るほどの優雅な美しさ。

その美しさに魅せられた彼女はコツコツとお金を貯めて、
フランスへドレスを買いに行くことを決意。
そしてようやく資金ができて、ミセス・ハリスはパリへ。

でも実のところディオールの店は、彼女には場違い。
威圧的な支配人コルベール(イザベル・ユペール)に、追い出されそうになりますが・・・。
店の会計士やモデル、サシャーニュ侯爵ら、彼女は出会った人々の心を動かしていきます。

ミセス・ハリスがドレス代を稼ぐくだりも色々あって楽しいのです。
何しろ家政婦で稼ぐだけでは生活するのにやっと。
そう簡単にはお金は貯まらないのですけれど・・・。
イチかバチかの大勝負に敗れてすっかり絶望してみたり、
でも幸運の女神はやっぱりいたようで。

それにしてもクリスチャン・ディオールは庶民にはあまりにも敷居が高い。
お金持ちの夫人らが集まるホールでファッションショーが繰り広げられ、
その中で気に入ったものを注文することになります。
それから採寸と何度かの仮縫い。
まさに、その人のためだけの一品に仕上がるのです。

わがままなご婦人ばかりを相手にしている店の従業員たちは、
現金を抱えてやって来たこの風変わりの客、
ミセス・ハリスを好きになっていきます。

ドレスができあがるまで、こんなに日にちを要するとは思わなかったミセス・ハリスは
宿泊費の用意もなく、あきらめて帰ろうとするのですが、
会計士の青年が自宅に招いてくれるのです。
そして、妻を亡くしているサシャーニュ侯爵も、
彼女に好意を寄せてくれているようで・・・。

さて、ここで侯爵が本気でミセス・ハリスに言い寄ったりしなかったのがよかった。
彼女はほんの少し、期待してしまったのですが。

ここで大金持ちに見出されて結婚などしたら、目も当てられない。
本作はそんなシンデレラストーリーではなく、
あくまでも自らの力で歩む一庶民の女性の物語なのですから。

そんな豪華なドレスを持っていたって、いつ、どんなときにそれを着るのか?
全くムダだろうと、人は言う。
けれど彼女に取ってこのドレスこそが自分の生き様であり矜持であるわけで。
人にはそれぞれ、このドレスのような「何か」が必要なのかも知れません。

 

 

それから、ミセス・ハリスが憧れのパリに着いてみれば、街は薄汚いゴミの山。
ちょうど労働者のストライキが行われていて、
ゴミの収集がストップしていたのです。

お金持ちのためだけのドレス、
お金持ちにばかり都合のよい支払いの慣習。

ミセス・ハリスは結局ディオールの店の営業改革にまで貢献してしまった・・・。
ちょうど時代が少しずつ変わっていく所でもあったわけですね。

 

さて念願叶って、美しく豪華なドレスを手に入れ、帰国したミセス・ハリス。
しかし、物語はそこでは終わらない。

最後のひねりがまたスバラシイ。
まさに、尻尾の先まであんこが詰まったたい焼きみたいな・・・、
おいしい一作でした。

<Amazon prime videoにて>

「ミセス・ハリス、パリへ行く」

2022年/イギリス/116分

監督:アンソニー・ファビアン

原作:ポール・ギャリコ

出演:レスリー・マンビル、イザベル・ユペール、ランベール・ウィルソン、
   アルバ・バチスタ、リュカ・ブラボー

女性自立度★★★★☆

自分らしさ度★★★★☆

満足度★★★★★


帯広ガストロノミー

2023年08月11日 | 映画(あ行)

北海道十勝の食と文化

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帯広市開拓140年市制施行90年記念長編作品として、
WOWOWプラスで配信されたものです。

ガストロノミーとは、食と文化の関係を考察する学問のこと。
つまり北海道十勝の食と風土のことをテーマとしたドラマであります。

 

はじめの舞台は東京。

独創的アイデアと秀でたプログラミング能力を持ちつつ、
極端な人見知りで口下手の天笠航平(鈴木浩介)。
彼は3年前に最愛の妻を亡くして以来、その悲しみを紛らわせるように仕事に没頭。
そのおかげで会社は急成長し、成功を収めています。
しかしその一方、息子黎生との心の距離は離れるばかり。
息子のことは、家政婦の美冴(瀧本美織)に任せっきりで、
ろくに会話を交わしたこともないのでした。

ある時、十勝でチーズを作っている天笠の元部下・都築から送られたチーズをきっかけに、
この3人が十勝へ出かけることに。

そして、黎生が夢中の料理系ユーチューバー“ガストロハイク”(長谷川京子)も十勝に来ていて対面。
そのほか、様々な人々と出会っていきます・・・。

 

北海道生まれ・育ちの私ですが、ほとんど札幌暮らしなので、
道外の方同様、広大な十勝には憧れます。
広い大地に育まれた野菜や乳製品、それだけでおいしくないはずはありません。
私としては、ちまちましたフレンチよりもバーベキューなど
シンプルな調理の方がいいなと感じるところではありますが・・・。
そんな大雑把だから北海道はダメだといわれる所以でもあります・・・。

ともあれここで、父と息子が絆を取り戻していく・・・と、
これも実はキャンプで協力して調理などしてみる方が
説得力あったような気がしないでもないのだけれど。

ITなどの情報技術も、今ではなくてはならない農業のアイテムとなっていることが分かりましたので、
十勝のPRとしてはまずまずなのでは・・・?

 

自給率が極めて低い日本の食料事情のなか、北海道は将来へ向けての生命線なのですよ。
みなさま、北海道産の農産物等、よろしくお願いいたします!!
(つい、力が入る)

 

<Amazon prime videoにて>

「帯広ガストロノミー」

2023年/日本/129分

監督・脚本:杉山嘉一

出演:鈴木浩介、長谷川京子、南出凌嘉、瀧本美織、濱田龍臣、渡辺大、佐野岳

十勝のさわやか度★★★★☆

食べたい度★★★★★

満足度★★★.5


「この本を盗む者は」深緑野分

2023年08月10日 | 本(SF・ファンタジー)

本の呪いによる冒険

 

 

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“本の街”読長町に住み、書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬。
父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めているが、深冬は本が好きではない。
ある日、御倉館から蔵書が盗まれたことで本の呪いが発動し、
町は物語の世界に姿を変えてしまう。
泥棒を捕まえない限り町が元に戻らないと知った深冬は、
不思議な少女・真白とともにさまざまな物語の世界を冒険していくのだが……。
初めて物語に没頭したときの喜びが蘇る、胸躍るファンタジー!

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敬愛する深緑野分さんの物語ですが、これは純然としたファンタジー。

本の街、読長町に住み、書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬が、
膨大な蔵書を誇る「御倉館」で、
謎の物語世界に迷い込んで冒険するストーリー。

 

私はどうも、虚構の上に虚構を積み重ねるような話は苦手なのです。

戦争など動かしがたい重い現実の上に立つ架空の出来事なら、
大いにのめり込み感動を得ることができるのですが・・・。
そして、この著者はそうした物語に非常に力を発揮できる方だと思っていたものですから・・・。

私には現実味の薄いこの物語世界にあまり没入できず、
読み進むのがやや苦痛でもありました。
残念。

ただし、こういう向きの物語が好きな方もいらっしゃると思うので
全否定というわけではありません。

 

「この本を盗む者は」深緑野分 角川文庫
満足度★★☆☆☆


ドリーム・ホース

2023年08月09日 | 映画(た行)

ワクワク感を楽しめばいい

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イギリス、ウェールズの谷間にある小さな村。

無気力な夫と暮らすジャン(トニ・コレット)は、
スーパーのパートと、ときおり訪ねる実家の両親の世話の繰り返しという
単調な生活にウンザリしていました。

ある日、クラブで競馬の馬主をしていて失敗したという男、
ハワード(ダミアン・ルイス)の話を聞き、興味を持ちます。
ジャンは非常に動物が好きで、小さい頃には父と犬を育成してコンクールに出したり、
若い頃にはハトのコンクールで入賞したりしているのです。

そこで、競走馬の飼育を決意。
貯金をはたいて血統のよい牝馬を購入。
そしてその後、村の人々に馬主組合の結成を呼びかけます。
つまりその後の飼育や種付け、調教等の莫大な資金を集め、
共同で運営しようというのです。

無事に協賛者を得て、やがて生まれた子馬はドリームアライアンス(夢の同盟)と名付けられ、
奇跡的にレースを勝ち進んでいきますが・・・。

ということで、これは実話を元にしています。
さびれた田舎町、人々も毎日に膿んで気力をなくしていました。
組合を立ち上げるときにハワードは言うのです。
「儲けようと思うな。ワクワク感を楽しめばいいんだ。」
と。

一度失敗した者の言ですね。
でも確かに、はじめから欲望丸出しでは皆の意見もまとまりそうにありません。
宝くじくらいの気持ちで、もしかしたら儲けることもあるかも
・・・くらいの「夢」でいい。
そして確かに、無気力だった村の人々が、イキイキとし始めるのです。

レース前のワクワクドキドキ感は、やはりよいものですね。
そしてまた、このドリームアライアンスがまた、奇跡の馬なのであります。
成績がよいだけではない、驚嘆すべき馬。
ステキな物語です。

<WOWOW視聴にて>

「ドリーム・ホース」

2020年/イギリス/113分

監督:ユーロス・リン

出演:トニ・コレット、ダミアン・ルイス、オーウェン・ティール、ジョアンナ・ペイジ、ニコラス・ファレル

 

動物愛護度★★★★☆

ワクワク度★★★★☆

満足度★★★★☆


双葉荘の友人

2023年08月08日 | 映画(は行)

過去と現在が同居する家

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第8回WOWOWシナリオ大賞受賞作。

 

高台のテラスハウス・双葉荘に越してきた
川村夫妻、川村正治(市原隼人)と、美江(臼田あさ美)。
正治は舞台監督の仕事を辞め、在宅でライター業を始めます。

そしてそんな頃から、正治に、26年前に同じ部屋に住んでいた
倉田誠司(中村倫也)という画家の幻影が見えるようになります。
正治と誠司は、同じ部屋を共有しながら
共にふれあったり語り合ったりはできないのですが、
紙に書いた文字で互いの意思疎通はできるのです。
どちらも現在妻の収入に頼る形で暮らしている、と言うことからか、
なんとなく気があって互いに親しみを持つように。

しかしある日、正治は過去に起こったとんでもない事件を目撃することに・・・。

 

 

言ってみればこの家には過去と現在が同居している。
それぞれの人物たちの不思議な交流の物語なのかと思えば、なんと思わぬサスペンス!!
これはつらい・・・。

 

謎めいた彼らの隣人・一人暮らしの人妻の正体は、
なんとなく見当はついたのですが、それにしてもリアルすぎるので、
騙された感が強いですね。
一緒に食事をとるなど、あとから思い返しても謎すぎる・・・。
もう少し曖昧な交流の仕方でもよかったのかも。

ともあれ、すべての謎が明かされたときの、ほわ~っとした感動、
これがなかなか心地よい。

 

過去は今とは地続きで、必ず現在に繋がってくるわけですね。

シナリオ大賞というのも納得です。

 

<Amazon prime videoにて>

「双葉荘の友人」

2016年/日本/116分

監督:平松恵美子

脚本:川崎クニハル

出演:臼田あさ美、市原隼人、中村倫也、陽月華、中嶋朋子、中原丈雄、吉行和子

 

伏線度★★★★☆

満足度★★★★☆


バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版

2023年08月06日 | 映画(は行)

金田一じゃなくて、やっぱりホームズ

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犯罪捜査コンサルタント・誉獅子雄(ディーン・フジオカ)と、
精神科医・若宮潤一(岩田剛典)のコンビが事件解決に挑む、
テレビドラマ「シャーロック」の劇場版です。

瀬戸内海の離島で、日本有数の資産家・蓮壁(はすかべ)(西村まさ彦)が莫大な遺産を残して変死。
彼は死の直前に、娘・紅(新木優子)の誘拐未遂事件の
犯人捜索を若宮に依頼していたのでした。

蓮壁の死と合わせてそのことも探るため、2人は島に渡ります。
そして、蓮壁の屋敷に向かってみれば、
待っていたのは、異様なたたずまいの洋館と、そこに住む怪しげな人々・・・。

そして、島に古くから伝わる不気味な魔犬の呪いがささやかれる中、
また新たな死が・・・。

この家では長男(紅の弟)・千里(村上虹郎)ばかりが
優遇されているように見受けられます。
そのためか、千里はわがままで性格が悪そう。
一方紅は特に誰にも期待されているようではない。
昔ながらの男尊女卑の考えの大きい家なのかと思いつつ・・・。
実はその辺りが本作の謎の大きなヒントなのであります。

日本版ホームズとワトソンは、瀬戸内海の離島で、
魔犬の呪いのささやかれる古い洋館に住む一族の陰惨な事件に挑む、と。
どちらかと言うと金田一耕助向きの舞台立てではあります。
だからまあ、いっそそういう風なおどろおどろしい雰囲気に持って行けば
もっと面白かったかも、なんて思います。

ディーン・フジオカ&岩田剛典の活躍が見られればそれで結構、という向きもありますが。

 

「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」

2022年/日本/119分

監督:西谷弘

原案:アーサー・コナンドイル

脚本:東山狭

出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、新木優子、広末涼子、
   村上虹郎、渋川清彦、西村まさ彦、椎名桔平

 

サスペンス度★★★☆☆

満足度★★★☆☆


「艮(うしとら)」山岸凉子

2023年08月05日 | コミックス

科学では説明のつかないもの

 

 

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出版社に勤める樋口晶子は霊能者・由布由良の取材をすることに。
半信半疑ながら、気になることを言われて……。
表題作『艮(うしとら)』のほか
『死神』『時計草』『ドラゴンメイド』の怪異・恐怖ストーリー3作品を収録。

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山岸涼子さんのちょっと恐い話。

 

一番印象深いのはやはり、表題作「艮(うしとら)」。
「うしとら」というのは、北東の方角を指します。

出版社に勤める樋口晶子は夫と娘、3人家族。
最近家を新築し、育児休業を終えて職場復帰したばかり。

しかし夫は単身赴任になってしまい、娘は病気がちで保育園を休みがち。
つまりは晶子自身も仕事を休まねばならず、非常に心苦しい。
そしてまた、彼女自身も体調が最悪で・・・。

こんな切羽詰まった状況にあるとき、
晶子は仕事でとある霊媒師の所に取材に行きます。

自称・インチキ霊媒師というくらいの怪しげな人物なのですが、
ほんの少しの「みる力」はあるらしく、晶子をみて、こう言う。
「あんたの家、勝手口が“うしとら”の方角にあって、鬼門が開いている」と。

今までそんなことを気にしたこともない晶子ですが、
家に帰って調べてみれば本当に勝手口が北東の方角にある。
まさにこの家に入ってから、イヤなことばかりが起こると思い当たるのです・・・。

 

 

作中の晶子は、風水等に闇雲にのめり込むようなタイプではなく、
むしろ合理的な考え方ができる人物。
だけれども、科学的根拠は何もない話であっても、
自らが体験する、この悪いことばかりの連鎖との関係を想像せずにはいられない。

なんだか分かる気がするのです。
私も普段は無宗教、無信心ではあるものの、
縁起やら霊魂やらを全く否定しているわけではない。

ましてや窮地に陥っているときには、
ほんのわずかな光にもすがりたくなるものですしね。

本作ではこれが単に晶子の思い込みではなくて、
実際に「悪しき」ものが家に入り込んでいた、
と言う設定になっているわけですが・・・。

 

思い込みなのか。
それとも今の科学では説明のつかない何かなのか。

そういうはざまにある本作は、やはり山岸涼子さんの得意とするところ。
好きな一作です。

 

「艮(うしとら)」山岸凉子 モーニングKC

満足度★★★★☆

 


アイスクリームフィーバー

2023年08月04日 | 映画(あ行)

さらりと乗り越える

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川上未映子さんの短編小説「アイスクリーム熱」を原案とした作品。

常田菜摘(吉岡里帆)は、美大卒業後デザイン会社に就職するもうまくいかず、
現在はアイスクリーム店でアルバイト。
まだその先のことは考えていません。

そんなところへふらりとやって来た客が橋本佐保(モトーラ世理奈)。
菜摘はなぜか彼女に運命的なものを感じます。
後に分かるのですが、佐保は、若くして文学賞を受賞したものの、今はスランプ中。

菜摘のバイト仲間・桑島貴子(詩羽)は、
佐保を気にする菜摘に、複雑な思いを抱いているようです。

さて、そのアイスクリーム店の近所に暮らす高嶋優(松本まりか)の元に、
疎遠だった姉の娘・美和(南琴奈)が急に訪ねてきます。
数年前に出ていった父を探すために来たという美和と優は
しばらく共同生活を送ることに・・・。

地味目な作品でありながら、なにげに出演者が豪華。
私この頃、松本まりかさんがお気に入り。
モトーラ世理奈さんもよい映画作品の出演が目立ちます。

本作に登場する女性たちは、皆それぞれに鬱屈を抱えているのですが、
なんだかそれがずっしりと重くなったりしない。
ほんの少し立ち止まって、そして案外あっさり軽々と障壁を乗り越えていくような気がします。
そんなところが、気に入りました。

 

この、主に二つのストーリーには時間軸の仕掛けが施されているというのもまた、ミソです。

 

<サツゲキにて>

「アイスクリームフィーバー」

2023年/日本/103分

監督:千原徹也

原案:川上未映子

脚本:清水匡

出演:吉岡里帆、モトーラ世理奈、詩羽、安達祐実、片桐はいり、松本まりか、南琴奈

 

女性の生き方度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


ぜんぶ、ボクのせい

2023年08月03日 | 映画(さ行)

母を求めるものたち

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児童養護施設で母の迎えを待ちながら暮らす優太(白鳥晴都)。
事務所に忍び込み母の居場所を探った優太は、母に会うために施設を抜け出します。

母の元にたどり着いてみれば、母(松本まりか)は同居する男(若葉竜也)に依存し、
自堕落な生活を送っていて、母の連絡を受けた施設の職員が迎えに来たのでした。
その場を逃げ出した優太は、絶望しあてもなく海岸を歩いていましたが、
そこで、軽トラックで暮らすホームレスの男・坂本(オダギリジョー)と出会います。
2人は日銭を稼ぎながら寝食を共にするようになっていきます。

そしてまた、たまに訪れる孤独な少女・詩織(川島鈴遙)とも知り合い、
3人はときおり寄り添って穏やかな時を過ごしていたのですが・・・。
勝手に住み着いたホームレスに、よくない感情を持つ者もいて・・・。

救いのない感じのストーリーなんですが、本作を読み解く鍵は「母」でしょうか。

優太は5歳くらいの時に母にこの施設に預けられ、
当初は母もよく面会に来たそうなのですが、まもなくほとんど現れなくなる。
優太が中学生となった今は、もう気にかけてもいないようだ・・・。
同じ施設の皆ともなじめない優太はいつもひとりぼっち。
ここは自分の居場所ではないと感じているのです。
だからこそ、母の迎えを心待ちにしているのだけれど・・・。
ついに待ちきれず自分から会いに行きますが、
それは全く自分が想像した「母」の姿とは違う。

また、坂本も子どもの頃から母にはまともに扱われず、以来孤独な時を過ごしている。
そして、詩織も幼い頃に母が亡くなっていて、
横暴で娘のことをまともに知ろうともしない父と共に暮らしてはいるけれど、やはり孤独。

母親、つまり子供のことを我が身と同じか、
もしくは我が身以上に大切に思い愛してくれる存在の不在。
それが彼らの共通点です。

がしかし、実は「母」がそうしたものであるというのは単に幻想に過ぎないわけで・・・。
優太はその幻想に気づいてしまったわけですね。

坂本は、亡き母は認知症であり、「母」への願望がすでに叶うわけもないことを気づいていた。

そして詩織も、母が自殺だったことを知り、
たとえ今生きていたとしても、自分が望む「母」ではないことに気づいている。

自分が望む「母」はどこにもいない。
そうした気づきが絶望へと変わり、悲劇的なラストへと繋がっていくのでしょうか。

3人が「母」ではない安らぎを、
この3人の友愛の中に見出しかけたように思えたのですが・・・。

<WOWOW視聴にて>

「ぜんぶ、ボクのせい」

2022年/日本/121分

監督・脚本:松本優作

出演:白鳥晴都、川島鈴遙、松本まりか、若葉竜也、仲野太賀、木竜麻生、オダギリジョー

 

生きにくさ度★★★★★

満足度★★★.5

 


ホリック ×××HOLiC

2023年08月02日 | 映画(は行)

永遠の4月1日

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コミック「×××HOLiC」の実写映画化。
蜷川実花監督作品はいつもながら色鮮やかです。

本作は、松村北斗さんが出演していて、日本アカデミー賞で新人俳優賞を受賞した作品なので、
いつか見たいと思っていたのです。
でも、主演は北斗くんではなくて神木隆之介さん!

人の心の闇に寄りつく“アヤカシ”が見えてしまう、
高校生・四月一日君尋(わたぬききみひろ)(神木隆之介)。
そのため彼はこれまで人と打ち解けられず、孤独な人生を歩んできました。
こんな能力など消し去って、普通の生活を送りたいと願っているのです。

ある時、妖しく美しい一匹の蝶に導かれ、不思議な“ミセ”にたどり着きます。
そこで君尋は、謎めいて美しい女主人・侑子(柴崎コウ)に出会います。
侑子はどんな願いもかなえてくれるけれど、
その対価として、“一番大切なもの”を差し出すように、と言います。

自分の一番大切な物は何なのか・・・? 
君尋はその答えを探しながら、侑子の元でミセの手伝いをすることとなります。
しかし、思わぬ事件に巻き込まれ・・・。

 

四月一日の級友であり、アヤカシを狩る力のある百目鬼(どめき)を演じるのが松村北斗さん。
いやー、さすがにカッコイイです。
百目鬼と四月一日の友情がなんともステキ。

四月一日や侑子と対立するのが、美魔女・女郎蜘蛛(吉岡里帆)と
その女郎蜘蛛に心酔するアカグモ(磯村勇斗)。
この2人のビジュアルがまたシビれます。
コスプレ大会みたいですが、イカすから許す。

彼らのたくらみによって、四月一日は「永遠の4月1日」に閉じ込められてしまいます。

繰り返されるその日は、毎日がそここそ楽しく平穏無事。
そこに安住するのはアリなのか?
この迷宮から抜け出すには・・・?

近頃、毎朝拝見する神木隆之介さん。
それとは全く違う雰囲気をまとう四月一日も、やはりカッコイイです。

 

<Amazon prime videoにて>

「ホリック ×××HOLiC」

2022年/日本/110分

監督:蜷川実花

原作:CLAMP

脚本:吉田恵里香

出演:神木隆之介、柴崎コウ、松村北斗、玉城ティナ、趣里、磯村勇斗、吉岡里帆

 

コスプレ度★★★★☆

怪しさ度★★★★☆

満足度★★★☆☆