映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アンチヴァイラル

2014年08月12日 | 映画(あ行)
不思議でおぞましい世界



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なんとも不思議でおぞましい近未来が舞台のSF。



皆さんには、アイドルやセレブに憧れ、
同化したいというほどの強い欲望はあるでしょうか? 
本作は、そんなアイドルやセレブの極度のマニアのために、
セレブが感染したウイルスをマニアに注射し、
同じ苦しみを味わうことで喜びを感じるという、
そんな屈折した心理がきちんと市民権を得ている、という前提から始まります。
マニアのための医学産業が開発されているのです。
青年注射師のシド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は
そのような注射をマニアに施すクリニックに勤務しています。
しかしその傍ら、希少価値の高いウイルスを闇マーケットに横流しする
違法行為を犯しているのです。





ある時、究極の美貌の持ち主、ハンナが原因不明の重病におさわれ、死亡。
ハンナから採取したウイルスを自らに注射していたシドも
体調の異変を感じるのですが・・・


うーむ、少なくとも私は、
いくら憧れの西島秀俊さんのウイルスでも貰いたくはないですが・・・、
まあ、なかにはそんな人もいますかねえ・・・。
というか、それを否定すると成り立たないというのが
このストーリーの最大のウイークポイントではありますが・・・。
そもそも病にかかるということが殆ど無い、
そういう極度に医療技術が発達した世界なのかもしれない。
そこまで行けば「病気願望」というのは理解できる気もします。



自らの身体をウイルスの培養体とするために、
ひどく顔色が悪く次第に病み衰えていくシド。
この破滅的・自虐的な男の雰囲気がなかなかでありました。
映像は白を基調とし、無機質的でスタイリッシュ。
しかし、実はグロテスクな作品であるわけです。
真っ白なシーツに滴る鮮血・・・。



作中シドが「自分の体がどんどん変化していくのを感じる」と言っていました。
そしてラストのシーン。
この謎のウイルスの正体と言うのは実は、
あの、死んでも甦る問題のウイルスなのではあるまいか・・・?
そんな想像をさせながら、答えは提示されておりません。
なんとも不思議な雰囲気を持った作品でした。

アンチヴァイラル [初回生産・取扱店限定] [DVD]
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ,サラ・ガトン,マルコム・マクダウェル
カルチュア・パブリッシャーズ


「アンチヴァイラル」
2012年/カナダ・アメリカ/108分
監督:ブランドン・クローネンバーグ
出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、サラ・ガドン、マルコム・マクダウェル
自虐的倒錯度★★★★★
満足度★★★☆☆

るろうに剣心 京都大火編

2014年08月11日 | 映画(ら行)
京都でさらにパワーアップ!!



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さてお待ちかね、「るろうに剣心」の続編ですが、
本作は前後編2編に別れており、その前編です。



薫の道場で、しばし平穏な日々を過ごしていた剣心ですが、
大久保利通から呼び出しを受ける。
剣心の後継者として影の人斬り役を引き受けた志々雄真実(藤原竜也)が、
明治政府の転覆を企て、
今、その組織を強大なものとしているというのです。
その志々雄を倒すため、剣心は単身京都へ向かいます。



志々雄はその身に受けた残酷な運命のために、人としての心を失っているのです。
全身に受けた大やけどのため、包帯を巻いたその異形は、
異様な迫力に満ちています。
ほとんど自身の顔が見えなくなっている藤原竜也さん、はまり役。

志々雄の手下である宗次郎(神木隆之介)の、
ものすごく身が軽く素早い動きに剣心も苦戦。
この時になんと、剣心の逆刃刀が折れてしまうのです。


そうして新しい逆刃刀を入手するためのエピソード、これがいい!! 
剣心にとってはこの刀こそがおのれの「誓い」のためのシンボル。
だからこれがなければ全く立ち行かないのですが、
こんな刀がそこらに売っているわけもなく、
刀鍛冶に頼むしかないだろうと想像はつきますが。
あの時、剣心はおのれの誓を破ってもある人を守ろうとするのです。
でも結局は誓いを破ったことにはならない。
その時の剣心の放心した表情がいい。
よいですよ~。佐藤健さん!!


また今回新登場したのは、もと幕府の御庭番(つまり忍者)の面々。
この当主・蒼紫(伊勢谷友介)もまた、
維新の動乱で心が傷ついた一人。

まだ剣心との関わりが深いシーンまでは辿り着かず、
今後の展開が気になるところです。
そして薫さん。
京都へ行けばこういう展開になることは目に見えているというのに、
なぜ行くかなあ・・・と、
つい思ってしまうわけですが、まあ、そうでなければ面白くありませんしね・・・。
仕方ない。



さてさて、そんなこんなで
本編のラストに登場する謎の男が福山雅治だっ!!!
私は原作を呼んでいないので非常に気になります。
後編は9月公開。
待ち遠しい!!
非常に原作を読みたくなってしまいますが、
ここはあえて読まずに待つことにしましょう。


明治10年前後の京都。
そこにはあの山本覚馬氏もいたはずで、
ちょこっと出てくれば面白かったのになあ・・・などと思ったりします。
八重さんは別に出てこなくてもいいけど・・・。


「るろうに剣心 京都大火編」
2014年/日本/139分
監督:大友啓史
出演:佐藤健、武井咲、青木崇高、蒼井優、江口洋介、伊勢谷友介、藤原竜也、神木隆之介、滝藤賢一、福山雅治

アクション度 ★★★★☆
満足度★★★★★

るろうに剣心

2014年08月10日 | 映画(ら行)
武士の世が終わった後に・・・



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本作は、現在2作目が公開されていますが、
佐藤健さんに興味が出てきて見たくなってしまいました。
そのためには、やはりまず一作目を見なければ・・・というわけです。


私は原作コミックも見逃していたので、全く初めてですが、その分非常に新鮮。
「人斬り抜刀斎」として名高い剣士・緋村剣心が、
明治維新後、殺さずの誓いを立て、
決して人を斬ることのできない「逆刃刀」を携え、流浪の旅をします。



映画の出来を語るよりも、まずこの原作の出来の良さを語るべきかもしれません。
時代設定が絶妙です。
武士の世が終わった明治維新後。
それまでの武士が、好むと好まざるとにかかわらず
おのれの生き方を変えなければならなかった。
金で買われてチンピラ用心棒に成り果てるもの、
意識だけが増大して怪物のようになるもの。

剣心はいわば、武士道をそのまま保ちつつ、生き方を180°変えたとでもいいましょうか。
激動の時代を生きるそれぞれのドラマもまた楽しめます。



さて、どんなにいい原作でも、必ずしも映画化が成功するわけではない。
ところが本作、より一層の魅力を引き出すことに成功しているようです。
一見草食系、ひょうひょうとのんきそうに見えるヒーローの隠された凄み。
この雰囲気がいいですよね~。
今どきの女子の好みですよね。
それがまた佐藤健さんがピッタリのはまり役。
カッコイイ~!!
スピーディーなアクションも小気味よく、
どんどん引きこまれます。
それはまた共演の俳優陣の魅力のおかげでもあります。
元新選組の斎藤一に江口洋介。

麻薬の売買で権力をも身につけた武田観柳に香川照之。
(これが笑っちゃうほどスゴイ!!)
武井咲さんは可愛く、
最後にやっと顔を見せた綾野剛さんもカッコイイ~。
緩急のメリハリもよく、
実に良く出来た時代劇アクションエンタテイメント。
二作目を見るのに、何のためらいもありません!!

るろうに剣心 DVDスペシャルプライス版
佐藤健
アミューズソフトエンタテインメント


「るろうに剣心」

2012年日本/134分
監督:大友啓史
原作:和月伸宏
出演:佐藤健、武井咲、吉川晃司、蒼井優、青木崇高、綾野剛、江口洋介、香川照之
時代の切り取り度★★★★★
斬新な殺陣★★★★☆
満足度★★★★☆


大雪森のガーデン<道内旅行3>

2014年08月09日 | インターバル
「北海道ガーデン街道」は最近の北海道観光の目玉の一つでもありまして、
大雪~富良野~十勝を結ぶ全長250kmラインに点在する様々なガーデンを楽しめます。
「大雪森のガーデン」はそんな中でも
今年グランドオープンしたばかりの最も新しいガーデンです。











倉本聰脚本のTVドラマ「風のガーデン」の舞台となったガーデンをデザインした
上野砂由紀さんがデザインしたものです。
(実は札幌の街のど真ん中にもこの方がデザインしたガーデンがあるのですが、
そのうちに機会がありましたら、ご紹介しますね)









ここの花は、おそらく本州ならもっとうんと早い時期に咲くのではないでしょうか?
この日はものすごく暑い日だったのですが、
どの花もちゃんと元気でした。


ウッドデッキにおいてあった椅子に身を委ねてみたら、その心地良いこと!!
このままそよ風に吹かれながら本を読んで、お昼寝して・・・
いつまでも腰掛けていた気分にさせられました。





季節ごとに、違う花々を眺められるので、
また別の季節にも訪れてみたいものです。




おんねゆ温泉 山の水族館 <道内旅行2>

2014年08月08日 | インターバル
海辺ではない水族館



北見市留辺蘂町にある 「山の水族館」です。

つまりは、淡水魚だけを集めた水族館ですが
入ってすぐにある、滝つぼ水槽に泳ぐオショロコマが圧巻です。










淡水魚は一見地味ですが、よく見ればキラキラ光ってとても美しい。
魚がジャンプするところを見られる水槽もあって、なかなか楽しいですよ。
どれがなんという魚なのやら、既に記憶もあやふやなのが悲しい・・・


イトウが整列して、まるで鯉のぼりのよう。
この写真だと大きさがよくわかりませんが、体長1メートルほどもあります。


東南アジアやアマゾンに住むさかなや亀なども。









ピラニア!


折しも12時。カリオンの演奏が始まりました。

然別湖<道内旅行1>

2014年08月07日 | インターバル
夏の道内旅行に出ました。
然別(しかりべつ)湖は道内でも最も標高の高いところにある湖です。
メインの観光ルートとはちょっと離れていて、
静かな佇まいが魅力です。


少しモヤで霞んでいますが、この山が湖に映った姿から、クチビル山と言われています。


マーニーの家?・・・と思ってしまった。
木立が多すぎて、なかなかうまくカメラに収まりません。


ちょっとした水たまりのようなところに、大きなおたまじゃくしが。


カヌー体験をしている人々。




早朝、散歩をして遊覧船のところを通りかかったら、
時刻表も関係なしで「乗るかい? 貸し切りで出してあげるよ」
と言われ、本当に夫と二人で貸し切りで乗り込みました。








湖畔のホテルです。


弁天島


船着場のすぐ近くに、ウグイが群れています。

早起きして、ちょっと得をした気分でした。

恋するリベラーチェ

2014年08月06日 | 映画(か行)
キンキラキン



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本作は、このポスターの気色悪さで、見る気にならないでいたものなのですが・・・。
マット・デイモンが気になるので、思い切って見てみました。
そもそも内容をよくわかっていなかった。
リベラーチェは1950~70年代、
アメリカで派手な衣装とパフォーマンスで一世を風靡した実在のピアニストの名前。
そちらを演じているのがマイケル・ダグラス。
その付き人というか愛人なのがスコット・ソーソン(マット・デイモン)です。
ラスベガスで出会った2人は惹かれ合い、
リベラーチェはスコットを彼の豪邸に住まわせます。
愛人を囲う、まさにそういう感じ。

もともとゲイではありますが、ごく普通に誠実・真面目に思えたスコットですが、
次第に身を持ち崩していくさまが哀れです。
リベラーチェ好みのギラギラの服を着て常に彼に寄り添うスコット。
まるで彼自身が名声を得たように見えますが、
既にその時から、やがて捨てられてしまうのが目に見えるような・・・。
哀れな男娼。



いつぞや見た映画「ブリングリング」の題名を思い出しました。
まさにキンキラキン、ギラギラ・ピカピカの衣装に身を包むリベラーチェ。
時代は70年代か・・・、
このやけに鬱陶しく長い髪が時代を物語っています。
同性愛はまだ市民権を得ておらず、やがてエイズが同性愛者を中心に広まっていく。
つまりはそういう時代とともにあるストーリーなのでした。
ラストでやっと気がついた・・・。



リベラーチェはこれまでに愛人を何度も入れ替えており、
この屋敷に住まうのもスコットが初めてではありません。
同性愛もまあ、その人の好き好きなのでそこはいいのですが、
私が最も怖気を感じてしまったのは、
リベラーチェがスコットを自分に似た顔に整形させた所。
彼は息子が欲しかったのでそうしたようなのですが、
どうにもこれは相手のアイデンティティまでもを突き崩すことのように思えて、
耐え難く感じました。
スコットもこれにはやや不快を感じたようなのですが、
結局はリベラーチェの要求を受け入れてしまいます。
後にそのことを呪う言葉も吐きますが、
ここのところはもっと、大きな問題として取り上げても良かったのではないかと思います。



男女の愛と同様に、蜜月のようなときは儚くも過ぎ去り、
リベラーチェは浮気、
二人の間の溝が深まっていきます。
やがて別れた時にスコットは鏡を見る度におのれの愚かさを呪うでしょう。
残酷な話です。
・・・また手術すればいいのですが、お金なさそう・・・。


始めマット・デイモンがやけに太っているなと感じたのですが、
後ほど痩せるシーンがあり、
そのためにわざとウエイトを増やしていたようです。
まあ、いろいろな意味で体当たりの演技のマット・デイモンでありました。

恋するリベラーチェ [DVD]
マイケル・ダグラス,マット・デイモン,ダン・エイクロイド,スコット・バクラ,ロブ・ロウ
TCエンタテインメント



「恋するリベラーチェ」

2013年/アメリカ/118分
監督:スティーブン・ソダーバーグ
出演:マイケル・ダグラス、マット・デイモン、ダン・エイクロイド、スコット・バクラ、ロブ・ロウ
時代性★★★★☆

「和菓子のアンソロジー」坂木司他

2014年08月05日 | 本(その他)
取合せの妙、ミスマッチの妙

和菓子のアンソロジー (光文社文庫)
坂木 司
光文社


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「和菓子」をモチーフに、短編を一作書いていただけませんか?
読書家としても知られる『和菓子のアン』の著者・坂木司が、
今いちばん読みたい人気作家たちに執筆を依頼。
日常の謎を描くミステリーから、
壮大な世界観を展開するSF、
心温まる優しい怪談まで、
さまざまな読み味の作品が揃いました。
疲れたときに読みたくなる、宝箱のような一冊。


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あの「和菓子のアンの著者坂木司氏のリクエストにより、
人気作家10人が「和菓子」をモチーフにストーリーを展開。
いやはや、「和菓子」からどうしてこんな発想ができるのかと、驚かされ、感動されられ・・・
非常に読み応えのある一冊となりました。
和菓子が好きな方も、そうでない方も、ぜひどうぞ。


まずは坂木司さん自らの「アン」ちゃんのシリーズで「空の春告鳥」。
アンちゃんがふと耳にした「飴細工の鳥」ということばの謎を
解き明かしていくというストーリー。
おなじみの流れで安心感があります。
アンちゃんは和菓子屋に勤めているからこそ和菓子の話になるのは当たり前。
さてしかし、和菓子屋店員ではない者を主人公に据えると一体どうなるのか?


近藤史恵「迷宮の松露」
ふと思い立ってモロッコにやって来て滞在しているわたし。
モロッコの土の壁の迷宮はいつも自分を迷わせる。
そんな彼女が思い出すのはおばあちゃんのこと。
そしておばあちゃんとの思い出のお菓子・・・。
モロッコと和菓子。
この意外な取り合わせに唸らせられます。


柴田よしき「融雪」
私は本作の雰囲気がこの本の中では一番好きかもしれません。
田舎町に自力でカフェを開いた女性が、
地元の有機栽培野菜などを用いて店に出す料理を工夫します。
この店を訪れた男女のストーリーがまた心惹かれまして・・・。
まあ、今どきの女性のトレンド的ストーリーではありますが、やはり好きだな・・・。


小川一水「時じくの実の宮古へ」
地球温暖化で文明が崩壊、
廃墟は砂糖きびと葛とキャッサバに覆われている・・・
という未来の日本。
思い切り壮大なSFとなりましたが、ここになぜ和菓子が登場するのか???
多少無理矢理な気もしますが、面白いですよ~。


恒川光太郎「古入道来たりて」
こちらはなんとも幻想的。
談でもありファンタジーでもありますね。
る山奥の電気も通じていないような小屋で、深夜男が目撃した光景とは・・・!
それが戦争体験とも結びついているというのがいっそうの深みを増すのです。
この光景、私はぜひ宮崎アニメでみてみたい。
絶対いいと思うなあ・・・。

「和菓子のアンソロジー」坂木司他 光文社文庫
満足度★★★★★


思い出のマーニー

2014年08月04日 | 映画(あ行)
ラストでやっと納得



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ジブリアニメですが、実は本作見ないつもりでした。
予告編などを見る限りどうにも少女趣味っぽいようで、
食指が動かなかった・・・。
でも、この日、他にタイミングよく見たい作品がなかったので・・・
という消極的理由で拝見。


ジブリアニメ、特に宮駿監督作なら、
たいていの少女は正義感が強くてまっすぐなんですが、
本作は違います。
少女杏奈は周囲に溶け込めず孤立。
育ての親をお母さんと呼べずに「おばちゃん」と呼ぶ。
「私は私が嫌い」と宣言する彼女は
かなり屈折しています。



そんな彼女が、喘息の療養のため
夏休みを海辺の町の親戚の家で過ごすことになります。
そこでも彼女は地元の子と溶け込めず、一人ぽっち。
ところが、「湿っ地屋敷」と呼ばれる古い洋風の屋敷で、
金髪の美しい少女マーニーと出逢い、心を通わすようになっていくのです。
「あたしたちのことは秘密よ、永久に」
そう囁くマーニーの秘密とは・・・?


うーん、やっぱりなんだかピンと来ない。
その美しい小さな町の光景は堪能しましたが、
ストーリーには深く入り込めないでいた私。
しかし最後の最後に「ああ!」と思いました。
なるほど、驚きつつ納得の行く結末がそこに隠されていたのでした。
そこで泣いていた方も多いようでしたが、
私はちょっとハマりそびれた・・・。


杏奈が自分と世界との折り合いがつかず、殻に閉じこもっている。
思春期に差し掛かるそんな時期、
あまりにもリアルで私は見るのが辛かったのかもしれません。


それにしてもマーニーが「この世」の存在でないことは割と早くに想像がつきますが、
最後に「秘密」を明かす手腕が鮮やかでした。



私はこのストーリーはアニメで見るのではなく
原作の本で出会いたかったと思うのです。
きっと本で読めば、ラストには大満足で、
本をずっと抱きしめていたくなるような満足感・幸福感のあるものだったに違いありません。
アニメはイメージがきちんとありすぎで、想像の余地がありません。
いい話ならなんでもアニメ化がアリなのかというと、
そうとも限らないということか。


イヤそれにしてもこの育てのお母さんは地味すぎて魅力なく、気の毒なくらい。
伯母さん夫妻はさすが子育て経験ありという貫禄を見せ、
杏奈に対しても鷹揚。
これくらいの太っ腹で子育てをしたいものです。
・・・とは思いつつ、杏奈の帰りがかなり遅くなっても心配もしないこの人達の感覚はどうなのよ・・・
と、思わずツッコミを入れたくなってしまう。
いくら田舎町とはいってもねえ・・・。
こんな風に感じてしまうのは、昨今の日本の治安の悪さ故、
ということになりましょうか・・・。


「思い出のマーニー」
2014年/日本/103分
監督:米林宏昌
原作:ジョーン・G・ロビンソン
出演(声):高月彩良、有村架純、松嶋菜々子、寺島進
風光明媚度★★★★★
ラストの心地よさ★★★★★
満足度★★★☆☆


ブライト・スター 一番美しい恋の歌

2014年08月02日 | 映画(は行)
汚れなくあるからこそ、にじみ出る艶かしさ



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夭折した英国ロマン派詩人ジョン・キーツと
その若き恋人ファニー・ブローンのロマンスを描きます。


1818年ロンドン郊外ハムステッド。
駆け出しの詩人キーツ(ベン・ウィショー)は
親友の編集者ブラウンの家に居候していましたが、
隣人ブローン家の長女ファニー(アビー・コーニッシュ)と恋に落ちます。
しかし、キーツは結核を患い・・・。


1800年前後、イギリスの片田舎という背景が私は好きなのです。
ジェイン・オースティンの描く小説の時代でもある。
イギリスの田園風景。
イングリッシュ・ガーデンとして、今もそんな風景に癒やしを覚える方も多いですね。
現代と同じく恋に憧れる女性たちは、
けれども今とは比べ物にならない不自由さに縛られている。



ファニーは、フリルをたっぷり使った洋服を作るのが大好き。
しかし思ったことは遠慮無く言う。
ちょっと生意気で鼻っ柱が強い感じの女性として描かれています。
詩などほとんど解しなかった彼女が、
キーツの詩の冒頭に惹かれ彼に興味を持ちます。
二人は気が合いよく一緒に散歩をしたりしますが、
まるでお目付け役のようにいつも彼女の弟と妹が一緒。

男女の自由な恋愛など考えられない。
女性にとっては結婚こそが初めての体験でなければならない。
(まあ、あくまでも表向きは・・・ということですが)。
いえ、ほんのちょっと前までは日本もそうだったと思うのですが、
いつからこんなに自由になってしまったのか・・・? 
謎。



彼女の母も二人の気持ちは知っていながら、
お金のないキーツとの結婚は考えられないと思っているのです。
しかしそれでも二人の一途さに負けて、婚約をしますが
既にキーツは病で弱り切っていて、プラトニックのまま。


そうであるからこそ、キーツの詩と同じく
美しくロマンティックで在り続ける。
プラトニックで清廉であるからこそ、にじみ出る艶かしさというものもあるんだなあ・・・
と思う次第。



うーん、しかし世俗にまみれたオバサンとしては
キーツの詩も二人の関係も、やや感傷的にすぎるかな・・・?
とも思ったりして。



ファニーが裁縫を愛しただけあって、
作、布がとても美しく描写されています。
ファニーの衣装も決して派手過ぎず質素でありながらとてもオシャレだったり、
光に透けたカーテンが風に揺れたりするさまもステキ。
またファニーの弟役の子(トーマス・サングスター)が、なかなかステキなんですよ。
でもこの子、絶対以前に見たことある、と思ったのですが、
「ラブ・アクチュアリー」に子役で出演していた。
・・・うーん、でもそれを見たのはものすごく前だし。
さらには「ノーウェア・ボーイ」のポールマッカートニー役だったそうで。
どうやら、その記憶でしょうか。
ぜひまた別の作品で見たいです。



ブライト・スター いちばん美しい恋の詩うた DVD
アビー・コーニッシュ,ベン・ウィショー,ポール・シュナイダー,ケリー・フォックス
東宝


「ブライト・スター 一番美しい恋の歌」
2009年/イギリス・オーストラリア/119分
監督・脚本:ジェーン・カンピオン
出演:アビー・コーニッシュ、ベン・ウィショー、ポール・シュナイダー、ケリー・フォックス、トーマス・サングスター
映像美★★★★☆
ロナンチック度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「サヴァイブ」近藤史恵

2014年08月01日 | 本(その他)
自転車ロードレースの魅力

サヴァイヴ (新潮文庫)
近藤 史恵
新潮社


* * * * * * * * * *

団体戦略が勝敗を決する自転車ロードレースにおいて、
協調性ゼロの天才ルーキー石尾。
ベテラン赤城は彼の才能に嫉妬しながらも、
一度は諦めたヨーロッパ進出の夢を彼に託した。
その時、石尾が漕ぎ出した前代未聞の戦略とは―(「プロトンの中の孤独」)。
エースの孤独、アシストの犠牲、ドーピングと故障への恐怖。
『サクリファイス』シリーズに秘められた感涙必至の全六編。


* * * * * * * * * *

「サクリファイス」、「エデン」でおなじみ、
近藤史恵さんの自転車ロードレースシリーズ。
本巻は6編の短編からなっています。
紹介文のとおり、協調性ゼロの天才ルーキー石尾と、
「石尾係」と呼ばれてしまうベテラン赤城のほか、
スペイン、フランス、ポルトガルとヨーローッパチームを渡り歩く白石誓も登場。
いつも思うのですが、
そもそも自転車ロードレースのことなど何もしらない私でも、
その苛酷さやチーム内の人々の緊張をはらんだ関係性に
ついつい引きこまれ、読まされてしまう本なのです。


こう言ってはなんですが、
そう多くは読んでいませんが近藤史恵さんは
ミステリ作品より、やはりこの「サクリファイス」シリーズの方が光っていると思います。


石尾は、協調性ゼロとは言え、決して不快感を呼ぶものではなく、
むしろ孤高ともいうべきで、私は魅力を感じます。

決して好きで関わっているのではないけれど、
立場上ついそんな石尾の面倒を見るハメになる赤城には、
さすがベテラン、大人としての魅力が。

でも私が一番気に入っているのが白石で、
彼はレースでは「アシスト」的位置なのでも分かる通り、
決して自己主張も強くなく地道に頑張るタイプ。
・・・まあだから確かに日本人としては親しみを持ちやすい。
本巻の最終話で白石は思わぬ体調の崩れを起こすのですが、
単身ヨーロッパを渡り歩く悲哀を折り込み、印象に残ります。

こんな風に、自転車にかける男たちの生き様が
それぞれに個性的で感動的。


自転車ロードレースの雰囲気をわかりやすく楽しみたい方には、
アニメ「茄子 アンダルシアの夏」がオススメです。

「サヴァイブ」近藤史恵 新潮文庫
満足度★★★★★