goo blog サービス終了のお知らせ 

映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

フラットライナーズ

2014年06月10日 | 映画(は行)
今でこそ価値のある作品?



* * * * * * * * * *

医学生ネルソン(キーファー・サザーランド)は、
死の壁の向こう側を覗こうとして、
自ら実験台になり、臨死体験をしようとします。
女学生のレイチェル(ジュリア・ロバーツ)、
休学を申し渡されているデヴィッド(ケヴィン・ベーコン)、
女遊びのビデオマニア、ジョー(ウィリアム・ボールドウィン)らを加え、
脳死寸前に蘇生するという危険な実験をそれぞれに体験していきます。
心肺停止状態で、彼らは不思議な過去のイメージを観るのですが、
その後、彼らの上に恐怖が襲い掛かる・・・。


「暗いトンネルの向こうに明るい光があって、
そちらへ行こうとしたら引き戻されて生き返った」
・・・そんな臨死体験の謎を解こうと彼らは考えたのですね。
結局はそれぞれの見たいものを見る・・・
そういうことなのかと思いきや、
そうではなく各自の心のなかの闇が浮かび上がってくる・・・ということなのでしょう。
実際に死にゆく人は、その向こうにある「光」により浄化されるのだけれど、
無理やり途中で引き返した彼らにとっては地獄の蓋を開けたのと同じ・・・
ちょっぴり怖いストーリーです。


でも本作で注目すべきなのは、このストーリーよりもむしろ出演する俳優たちですね。
製作1990年、あの「プリティ・ウーマン」と同年。
なるほどジュリア・ロバーツが光っています。
本作での共演がきっかけと思われますが、
キーファー・ザザーランドとジュリア・ロバーツが翌91年に婚約しています。
(ただしすぐに破局)
芸能人ゴシップにはとんと疎い私、この度初めてそれを知りましたが、
もしかして常識?!
そして、ケヴィン・ベーコンのなんて若くて素敵なこと!! 
柿は熟すと甘くなるけれど、男は熟すと渋くなるのね
・・・な~んて思ったりして。
はい、まだ甘いマスクのケヴィン・ベーコンでした!
約四半世紀を経て、生き残り円熟している俳優たちのエポック的作品。
とまあ、そういう価値のある作品といえるかもしれません。

フラットライナーズ [DVD]
ジュリア・ロバーツ,ケビン・ベーコン,キーファー・サザーランド
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


「フラットライナーズ」
1990年/アメリカ
監督:ジョエル・シュマッカー
出演:キーファー・ザザーランド、ジュリア・ロバーツ、ケヴィン・ベーコン、ウィリアム・ボールドウィン、オリバー・プラット

ホラー度★★★☆☆
若き日の大スターたちのみずみずしさ★★★★★
満足度★★★★☆

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌

2014年06月09日 | 映画(あ行)
ギターとネコを抱えて彷徨う男



* * * * * * * * * *

コーエン兄弟が2013年第66回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した作品。


1960年代ニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジ。
売れないフォークシンガー、ルーウィン・デイヴィスの一週間を描いたストーリーです。
この人物は、ボブ・ディランに影響を与えたという実在のミュージシャン、
デイブ・バン・ロンクをモデルにしています。



冬。
ライブハウスで歌い、そこそこ人気はあるものの、
レコードは売れず、友人の家を泊まり歩くその日暮らしのルーウィン(オスカー・アイザック)。
寒いのにコートも買えません。
戯れに手を出した友人ジーン(キャリー・マリガン)に妊娠を告げられ、
その処置のお金が必要になる・・・。
今夜の寝床、当面のお生活費、そして将来の生活の建て方を探し求めて
ルーウィンは彷徨うのです。
なんと、おかしな二人連れと車でシカゴまでも。
ギターと何故かネコを抱えて、
行き詰まった男の悲哀に満ちた一週間。
しかしそこはコーエン兄弟なので、
そこはかとないユーモアも漂い、いい味が出ています。



そしてなんといっても、ネコ。
癒されますねえ。
本作にこのネコがいなければ単なるビンボー男の物語だ・・・。
車に取り残される時のネコの表情がなんともいえない。

「イヤ、ちょっとアンタ、ウソでしょ。
アタシを見捨てるつもり? 
よしてよー。ちょっと~。」

と、まさに聞こえる感じでした。
ネコが登場する作品は多々ありますが、
こんなにネコの柔らかな肌合いまでもが感じられるものは珍しい。
オスカー・アイザックの素晴らしい歌声と共に、
ネコにも惚れ惚れしてしまった、素敵な作品。

 

ラストで、ルーウィンの後ろで歌い始めたのが、ボブ・ディランという想定のようですが、
スターダムにのし上がるのはこんな風に、ほんの一握り。
多くはルーウィンのように実力はありながら、あとひと押しの「何か」が足らず、
夢を抱きながら叶わず、もがき続けるのでしょう。
今も、昔も。
そんな全ての人に、本作のネコのような癒やしがありますように。



キャリー・マリガン演じるところのジーンが良かったなあ。
思い切りハスッパで、口汚く、威勢がいい。
それでも、どこか憎めない。
ナイスです。



「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」
2013年/アメリカ/104分
監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演:オスカー・アイザック、キャリー・マリガン、ジョン・グッドマン、ギャレット・ヘドランド、ジャスティン・ティンバーレイク

音楽性★★★★★
惨め度★★★★☆
満足度★★★★★



2つ目の窓

2014年06月07日 | 映画(は行)
命と命をつなぐ性



* * * * * * * * * *

つい先日、カンヌ映画祭で10分間のスタンディングオベーションがあったと話題になった
河瀬直美監督の、そのものズバリの作品。
日本での公開は7月26日というのに
何故か先日WOWOWで放送があったのですね。
そんなことがあっていいのか?とは思いますが、
このチャンスを逃す手はなく、録画して見ました!


舞台は太古の自然がそのまま残る奄美大島。
美しくのどかな南国の島というイメージがありますが、
冒頭、荒れ狂う海の描写があります。
もちろん、通常は穏やかで美しい海。
けれど人を拒み歯をむく荒々しい有り様もまた自然の営みの一つ。
だからこそ私達は自然=神として畏敬の念を払うのですね。



16歳杏子(吉永淳)の母・イサ(松田美由紀)は、
病で余命宣告を受けていますが、
最期を自宅で迎えるために病院から帰ってきます。
「死んでも命はつながっていくから怖くない」
と言う母の言葉にも、杏子はまだ納得できません。
一方、杏子のクラスメート・界人(村上虹郎)は、夫と別れた母と暮らしていますが、
母の男関係が気になっている。
母の「女」の部分をまだ認められないのです。
この二人が島の自然の中で生々しい生と死に触れ、
そして、このふたつをつなぐ「性」について理解していきます。

大自然の中で繰り返され引き継がれてきた人々の営み。
そこから生まれた歌や踊りの伝統。
そういうものの先端にいる若い彼らですが、
過去、すなわち数多の亡くなった人々がいたからこそ、
自分たちが今ここにいるのだということ。
おぼろげながら、そんなことが意識されてきます。
山羊の死を見つめるという、ちょっとショッキングなシーンもあるのですが、
命の厳粛さを改めて感じるシーンでもあります。
昨今、私達の周りからそういうものは排除されていますよね。
ドラマやゲームではいとも簡単に人が死にますが、
本当の「死」の意味を考える機会はあまりにも少ない。
・・・とはいえ、ここでそれを見せつけられるのもちょっとつらいのです。
お母さんの「死」という場面もありますしね。



私には、同じく「死」を扱い、そしてその「死」をことさら悲しいこととはしていないながらも、
「野のなななのか」のほうが
亡くなった人の「生」をたどるところで
納得の行くものでした。
双方、命はつながっていくというのですが
本作は「性」を介在したDNA的なつながりをいっていて、
「なななのか」の方は、輪廻のことをいっていて、
少し違うようです。
私的にはやはり「なななのか」かな。
地元びいきかも知れませんが。
本作の寡黙さと「なななのか」の饒舌さも対称的。
北と南という意味でも。


いい作品ではありますが・・・、
やはり多くの集客は難しそう・・・。



ちなみに、界人役の村上虹郎くんは
歌手UAさんと俳優村上淳さんの息子で、
本作、界人の父親は実の父、村上淳氏が演じている
というところも見どころです。
虹郎くんはちょっと「誰も知らない」のときの柳楽優弥くんの雰囲気にも似ていて、
ステキです。

「2つ目の窓」
2014年/日本・フランス・スペイン/120分
監督:河直美
出演:村上虹郎、吉永淳、杉本哲太、松田美由紀、渡辺真起子、村上淳
美しくも荒々しい自然度★★★☆☆
みずみずしさ★★★★☆
満足度★★★☆☆

「空襲警報」コニー・ウィリス

2014年06月06日 | 本(SF・ファンタジー)
「タイムトラベル」と「死への旅」と

空襲警報 (ザ・ベスト・オブ・コニー・ウィリス)
松尾たいこ,大森 望
早川書房


* * * * * * * * * *

オックスフォード大学史学部の大学院生は、
時間遡行技術を使って研究する時代に赴き、各々観察実習を行っていた。
第二次大戦の大空襲下のセント・ポール大聖堂で、
火災監視をすることになったぼくは…
史学部シリーズ開幕篇の表題作を、新訳で収録。
短篇集初収録作「ナイルに死す」、
終末SFの傑作「最後のウィネベーゴ」ほか、
ウィリスのシリアス系短篇から、ヒューゴー賞/ネビュラ賞受賞作のみ全5篇を収録した傑作選。


* * * * * * * * * *

久々にコニー・ウィリスを読みました。
タイムトラベルものの「ドゥームズデイ・ブック」・「犬は勘定に入れません」、
臨死体験を探る「航路」。
どれも非常に好きだったのですが、ブログ記事にはなっていない。
・・・ということはもう随分前に読んだわけです。
久しぶりなわけですね。
さて、本巻はコニー・ウィリス傑作選ということで、期待が高まります。


表題の「空襲警報」は、タイムトラベルもの。
先に上げた2作の続き?と思ったら
実は本作が一番初めの物語でした。
第二次大戦、夜毎大空襲の繰り広げられるロンドンへと旅した「僕」は、
セント・ポール大聖堂を焼夷弾から護るため奮闘。
コンビを組んだラングビーがナチスのスパイではないかと疑い、
寝るまもなく、空襲とラングビーから大聖堂を守ろうとします。
"史学部シリーズ"で時を遡る学生たちは、
誰もみなその時代に溶け込み『生活』しながら何かしらの使命を果たそうと奮闘します。
その時代のディティールもリアルで興味深いですし、
彼らの身を挺した懸命さにも心打たれます。
そういう、第一作としてふさわしい作品。


「マーブル・アーチの風」は、「空襲警報」に繋がるところがあります。
同じくロンドンの大空襲で被害を受けた地下鉄駅の話が出てくるのです。
防空壕代わりに地下鉄駅に避難し、生活していた人々が大勢いたのですが、
そこへ爆弾が直撃し大きな被害があった。
現代のストーリーなのですが、
主人公は地下鉄駅で、ふと火薬や恐怖の臭いがする強い風邪を感じる。
滅び行くものの苦さ、切なさを歌う、
ちょっと不思議なストーリー。


さらに「ナイルに死す」はまた、いっそうミステリアスです。
ひどく揺れる飛行機で、エジプト、カイロの空港に降り立った3組の夫婦。
しかし、周りの様子がなにかおかしい。
これは現実なのだろうか、それとも・・・。
まさかと思いながら、次第に暗黒へと踏み入れていくような・・・
まるで夢をみているような感覚に陥ります。
「航路」にも似た、不思議な死への旅。

「空襲警報」コニー・ウィリス ハヤカワ文庫

満足度★★★★☆

ぼくたちの家族

2014年06月05日 | 映画(は行)
絶望のどん底から



* * * * * * * * * *

本作、母親が癌で余命宣告を受ける家族のストーリー、
と聞いて、実のところ「なーんだ」と思いました。
そもそも「病気の女の子」の話は見ないことにしている私。
これも似たようなもので、家族が一団となって病気の母を支えるお涙ちょうだいストーリー、
しかも使い古された題材・・・に思えたわけで・・・。
でも石井裕也監督・脚本というのにはちょっと引っかかる。
ということで、見てみました。



当初の予想はハズレです。
一家の母玲子(原田美枝子)は最近物忘れがひどくなり、
病院で検査を受けるのですが、いきなり末期の脳腫瘍で余命一週間と宣告されてしまいます。
そんなまさか、こんなに元気なのに!!
私達も唖然としますが、
そう言われた家族もそれは驚きますよね。



夫(長塚京三)はオロオロするばかりで何もできない。
結婚し家を出ていた長男浩介(妻夫木聡)、
まだ学生の次男俊平(池松壮亮)、男3人が集結。
そんな時、病のため母は思考の歯止めもなく、
それぞれの家族についての本音をあっけらかんと暴露。
男たちは呆然とし、傷つき、あるいはこんな状況に置かれことに怒るばかり。
どうすればよいのかなど考えもつかない。
いみじくも俊平は言う。
「もともとバラバラな家族だったじゃないか。」
確かに・・・。
というか、たいていの家族ってこんなものなんじゃないかなあという気がします。
しかし、事態はそれだけではなく、
父の会社経営が危うく、家のローンも含め、
この家が多額の借金を抱え込んでいることが明るみになる。
とりあえず母の入院費の工面さえも危うい。

 

「病気もの」でも、ここまで絶体絶命のドラマは、あまりなかったですねえ・・・。
父親は全く頼りにならず、
長男浩介が責任を背負い込むのですが、彼は中学時代“引き籠もり”だったこともあり、
この重圧に立ち向かえるのかという危うさを感じさせる。
唯一ノーテンキっぽい次男の存在が救いです。
そして、どん底で開き直ったか、浩介はある決意を・・・。


もうどうにもならない絶望の淵に立った時、どうするのか。
これはそういうドラマであるのかもしれません。
くよくよあれもこれも考えこまずに、まずできることからする。
それこそはみなで意識を一つにして。
当たり前のことのようで、簡単ではないと思います。
この時のリーダーシップは重要ですね。
これは家族のドラマだけれども、家族でなくても同じことが言えると思います。


本作のテーマというわけではないのですが、今どきの医療事情も伺えます。
医師は余命宣告をしてそれっきり。
その後の本人や家族の気持ちなどお構いなし。
こういうことは多いのだろうなあ・・・。
そして良い医師との巡り合いはほとんど奇跡。
俊平が星占いのラッキーカラーとラッキーナンバーに頼らなければならなかったほどに。


ぎこちない家族が、「家族」を取り戻していくさまが
自然です。
そしてそれは周りをも引き込んでいく。
やるときゃやるんだ!
あきらめるな!



「ぼくたちの家族」
2014年/日本/117分
監督・脚本:石井裕也
原作:早見和真
出演:妻夫木聡、池松壮亮、原田美枝子、長塚京三、黒川芽以

どん底度★★★★★
立ち上がり度★★★★☆
満足度★★★★☆

少年H

2014年06月03日 | 映画(さ行)
貴重な物語



* * * * * * * * * *

作家妹尾河童の自伝的小説の映画化です。
ちょうど太平洋戦争の前後、激動の日本の世情を背景としています。
いえ、背景ではなくてその頃の世情そのものといったほうがいいでしょう。
神戸に住むある家族が、どのようにしてその時期を乗り切ったのか、
そのことが描かれています。



少年“H”は主人公肇の呼び名。
彼のイニシャルですね。
母がセーターにそのイニシャルを刺繍してくれたのです。

肇の父(水谷豊)は洋服屋。
神戸に住む外人たちの服を仕立てたりもするので、外国人とも交流があり、
そんなところから通常よりも“世界”をよく知っているリベラルな精神の持ち主。
しかし昭和16年。
アメリカとの開戦で、どんどん庶民の生活もおかしな方向へ流れ始めます。
キリスト教を信仰している一家は、
たまたま米国からの絵葉書を持っていただけでスパイ呼ばわり。
父は日本の状況を俯瞰しているかのようにしっかり見極めていますが、
決してそれについて声高に反対したりはしません。
それは家族の生活がかかっているからです。
こんな時代は長くは続かない。
とにかく耐え忍ぼう。
父は肇に日本の状況をしっかりと話しますが、
そのことを他言しないようにと教えることも忘れません。



このように流されることは、弱いことかもしれませんが、
まずは生きていくことを第一としたのは当然のこと。
本作は少年の目を通すことで、
この時代の理解し難い状況を描き出すことに成功していると思います。
赤狩りのこと、嫌がらせのような徴兵のこと・・・、
そんなことに口をつぐんだり、喝采したりする大人たちへの疑問。
また前後のそうした大人たちの呆れるような変節。
このような大人たちの社会に巻き込まれるしかなかった“子ども”の視点が、
現在の私達の視点に重なります。



大変貴重な物語でした。
ナチス・ドイツから逃れ、神戸までたどり着いたユダヤ人たちのエピソードには泣かされました。
ドイツと同盟を結んでいる日本には長くいられず、
更にまた旅をしてパレスチナまで行くのだという・・・



単なるフィクションではなく、現実が下敷きとなっているところを
しっかりと受け止めたいと思います。

少年H DVD(2枚組)
水谷豊,伊藤 蘭,吉岡竜輝,花田優里音,小栗 旬
東宝


「少年H」

2013年/日本/122分
監督:降旗康男
出演:水谷豊、伊藤蘭、吉岡竜輝、花田優里音、小栗旬
歴史再現度★★★★★
満足度★★★★☆

「きことわ」朝吹真理子

2014年06月02日 | 本(その他)
二人が融け合って行く意味

きことわ (新潮文庫)
朝吹 真理子
新潮社


* * * * * * * * * *

貴子(きこ)と永遠子(とわこ)。
葉山の別荘で、同じ時間を過ごしたふたりの少女。
最後に会ったのは、夏だった……。
25年後、別荘の解体をきっかけに、ふたりは再会する。
ときにかみ合い、ときに食い違う、思い出。
境がゆらぐ現在、過去、夢。
記憶は縺れ、時間は混ざり、言葉は解けていく――。
やわらかな文章で紡がれる、曖昧で、しかし強かな世界のかたち。
小説の愉悦に満ちた、芥川賞受賞作。


* * * * * * * * * *

芥川賞受賞作。
本のボリュームはさほどなく、特に難解な言葉が使われているわけでもない。
むしろかな文字が多用されている。
・・・されど、さすが芥川賞作品。
文学ですね、これ。
私には歯が立ち難い・・・。
本の帯にもあるのですが「読むことの愉悦に満ちた、小説の奇蹟」
・・・うーん、そんな心境に達することはできませんでした。


25年の時を経て再開した二人。
現在と25年前の『記憶』が交互に語られていきますが、
ここで語られる過去は、あくまでも二人の心の中から呼び起こしたもの。
確かにその時「現実」はあった。
けれども人にとっての「過去」は、
その過ぎ去った現実の事象ではなくて、
あくまでも現在の「思い」であるのでしょう。
そういう意味で、「過去」は夢にも似ている。
過去も夢も混ざり合い混沌としてゆく
・・・その辺りはまあなんとなく納得できます。


でも私の中でうまく咀嚼できないのは、この2人の一体化のようなところ。
25年前貴子は8歳、永遠子は15歳、
と、結構年が離れています。
じゃれあうには離れすぎ?のような気がしますが、
15歳ならまだ無邪気なところもありますかね。
この二人は仲が良くて、よくくっつき合うので髪や手足がこんぐらかって、
どちらがどちらのものか分からなくなってしまうほど。
でもそれは全く性愛のイメージはありません。
そもそも本作の題名も「きことわ」と、二人の合体ですし。


でもこの一体化の意味するところがよくわかりません。
まさか「かことわ(過去永遠)」のもじりじゃないですよね?


それから作品中、二人がそれぞれに突然
"髪を掴んでぎゅっと後ろに惹かれるような"感覚を味わいます。
これの意味するところも分からない。
後ろ髪を引かれる・・・ということなのでしょうか。
25年前、貴子の母親がまだ生きていて、二人はまだ子どもで、
「守られる」存在だった。
そんな温かな過去の名残を留めるこその家を処分することに、
後ろ髪を引かれている二人・・・
そういうことなのかなあ・・・。


読書に答えなんか必要ない。
確かにその通り。
でもやっぱりストンと納得してみたかった。
そういう本であります。


「きことわ」朝吹真理子 新潮文庫
満足度★★★☆☆


青天の霹靂

2014年06月01日 | 映画(さ行)
なんで俺なんか生きてんだよ!



* * * * * * * * * *

劇団ひとりによる描きおろし小説を元に、
本人が監督と出演もしているという話題作。


売れないマジシャン轟晴夫(大泉洋)が40年前の浅草にタイムスリップ。
そこで、若き日の父母と出会います。


現在の晴夫は、何をやってもぱっとせず、
彼女もいないし、ボロアパートでその日暮らし。
母は彼が生まれてすぐ男を作って出て行ってしまった。
父親とは絶縁状態で、どこにいるかもわからないし、
もう20年近く会ってもいない。
こんな親の子どもだから自分はうだつがあがらないのだ・・・と、
親を、惨めな自分の言い訳にしています。
そしてその日・・・
ボロアパートの水道管が破れ、部屋は水浸し。
さらにそこに届いたのは、父の死の連絡・・・。
あんまりな出来事の連続に、
「なんで俺なんか生きてんだよ!」
と彼は大声を上げる。
その時・・・!
タイムスリップが起きます。



目覚めたところは40年前、昭和48年の浅草。
SF作品ではないので、特に理屈はいらない。
彼は自分の人生の原点を見るために時をさかのぼったわけです。
意外にも美人でいきいきしている母(柴咲コウ)がまぶしい。
そして父(劇団ひとり)は、
やはりちゃらんぽらんに見えるけれども、
なんと晴夫はその若き父とコンビを組んでマジックをすることになるのです。

そんな時に、母が妊娠。
お腹の中の子どもこそが、晴夫だ。
そして晴夫は意外な事実を知るのです。



親に望まれて生まれたのではない、
・・・では、なんのために生まれてきたのか?、
そんなアイデンティティの喪失から、蘇っていくさまが、
爽やかに描かれています。
大泉洋と劇団ひとりの掛け合いが楽しい!
ラストがまた心憎くて・・・やられました。



大泉洋さんは本作のために必死で手品の練習を積んで、
手品シーンは吹き替えなしだったそうで
・・・どうもご苦労様でした!! 
ちょっと人を煙にまく感じで、手品師は似合っていますよねえ。
また、浅草のセットは長野県上田市に作られたそうで、
これもまた、上田市のウリの一つになりそうですね。
上田市、また行きたくなってきました。



「青天の霹靂」
2014年/日本/96分
監督・脚本:劇団ひとり
出演:大泉洋、劇団ひとり、柴咲コウ、笹野高史、風間杜夫

お笑いとペーソス★★★★★
満足度★★★★☆