映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ドッグマン

2019年10月08日 | 映画(た行)

自己保身の行動原理

* * * * * * * * * * * *

1980年代にイタリアで起こった実際の殺人事件をモチーフとした不条理ドラマです。

イタリア、寂れた海辺の町。
マルチェロ(マルチェロ・フォンチ)は「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを開いています。
妻とは別れて一人暮らしだけれど、犬がいて、時々娘と会い、
気のおけない仲間たちと一緒に食事をしたりサッカーをしたり。
決して裕福ではないけれど、満ち足りた生活でした。
ただ一つ問題なのは近所に住む友人、シモーネ(エドアルド・ペーシェ)。
いえ、友人ではなくて単に主従関係と言うべきでしょうか。
体が大きく自分勝手ですぐに暴力を振るうシモーネは、このあたりでも鼻つまみ者なのですが、
怖くて誰も文句が言えません。
小柄で小心者のマルチェロも結局彼のいいなり。
まるで従順な犬のよう・・・。

 

そんなある日、とある窃盗を思いついたシモーネが
むりやりマルチェロを協力させて、犯行を実行します。
しかしこのことでマルチェロは仲間たちの信用もサロンの顧客も失い、孤立してしまうのです。
当のシモーネにさえもつれなくされてしまったとき、
マルチェロの胸中に芽生えたのは・・・。

 

マルチェロの心の変化は、何かしらストーリーをつけて理解したくなります。
先に読んだ千野帽子さんの話のように。

 

マルチェロは結局シモーネをかばう形で、服役までするのです。
荒くれ者ばかりの刑務所でのマルチェロの立場は悲惨だったに違いない。
そこの詳しい描写はないのですが。
なぜそのときマルチェロはシモーネをかばったのか。
警官は事情をよくわかっていて、シモーネがやったと言うだけでよいのだと、
マルチェロを説得すらしたのに。
分け前がほしかった、それはあるとは思います。
娘と旅行に行きたいと言う望みはあった。
でも、それは恐ろしくてシモーネに逆らえないことの言い訳のようにも思えます。
もしシモーネが服役したとしても、出所してからどのような目にあわせられるかわからない。
人の行動原理の一番奥底にあるのは正義などではなくて、“恐怖”なのかもしれません。
つまりは、自己保身ということで、これは誰にも責められないことではあります。

 

飼い犬だって、生き残るためには牙をむく・・・。
まあ、そういうことなのでしょう。
しかしさらに言えば、このマルチェロとシモーネの従属関係は、
この世界の多くのことにも例えられそうなのですね。
ジャイアンに従属するのび太。
常にアメリカのご機嫌を伺う東洋のどこかの国・・・。
脅しの言葉に負けて、金貨を受け取ってしまったどこかの役員とか・・・。
勇気を持って自分の意見を持って行動しないと、
待ち受けているのは闇なのかもしれません。

 

ラスト、マルチェロとシモーネの対決シーンは誠に鬼気迫る者がありました・・・。

<シネマフロンティアにて>

「ドッグマン」

2018/イタリア・フランス/103

監督:マッチオ・ガローネ

出演:マルチェロ・フォンチ、エドアルド・ペーシェ。マンツィア・スキャーノ、アダモ・ディオニージ

 

暴力度★★★★☆

満足度★★★★☆



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