映画と本の『たんぽぽ館』

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ティル

2024年04月27日 | 映画(た行)

実在の、あってはならないこと

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1950年代、アメリカでアフリカ系アメリカ人による公民権運動を大きく前進させるきっかけとなった
実在の事件「エメット・ティル殺害事件」の映画化です。

ずっしりと重いです。

1955年、イリノイ州シカゴ。

夫を戦争で亡くしたメイミー・ティルは、空軍で唯一の黒人女性として働きながら
14歳の息子エメットと平穏に暮らしていました。

ある日エメットは初めて母と離れて、南部、ミシシッピ州マネーの親戚宅を訪れます。
エメットは家の近所の飲食雑貨店で、白人女性キャロリンに向けて口笛を吹いたことで
白人の怒りを買い、白人の集団に拉致されリンチを受け死亡してしまいます。

息子の変わり果てた姿と対面したメイミーは、
この悲惨な事件を世間に知らしめるべく、行動を起こします。

シカゴで暮らしていたメイミーとエメットは、
多少の差別を受けながらも、暮らし向きは良かったのです。
メイミーは出身地である南部の、酷い人種差別のことをよく分っていたのですが、
シカゴ生まれ育った息子は何も分っていません。
くれぐれも、あちらでは白人の前で小さくなっているように・・・と、息子に言い聞かせます。
でもエメットは従兄弟たちと会って遊べることが嬉しくて舞い上がっています。
そんな息子の様子に一抹の不安を覚えるメイミー。

しかし、彼女の不安は的中。

それにしても、こんなことがあって良いのかと思ってしまいます。
エメットは、店の女性に映画スターみたいにキレイだね、と言ったのです。
そして思わずヒュ~と口笛を吹いた。
彼女は、黒人に親しく話しかけられたこと自体にショックを受け怒りを感じたようです。
そもそも黒人を同等に話をする対象と見なしていない。
彼女の話を聞いた者たちが、夜中にエメットの所へ銃を持って押しかけてきたのです。

その時彼らは顔を隠しもしていません。
エメットを差し出さなければ家族も殺されてしまう・・・、
それは単なる脅しではなく、現実に差し迫った脅威でした。
そしてこのことは警察などなんの頼りにもならないのです。
警察もグルと言ってもいいくらい。
もどってこないエメットは後に川に浮かんだ遺体として発見されます。

南部の黒人に全く人権はない。
このことは後の裁判でも思い知らされます。
こんな社会を変えたい。
そのやむにやまれぬ思いが、メイミーを立ち上がらせたのですね。

言葉をなくすような、重い歴史上の事実です。

 

<Amazon prime videoにて>

「ティル」

2022年/アメリカ/130分

監督:シノニエ・チュクウ

出演:ダニエル・デッドワイラー、ウーピー・ゴールドバーグ、ジェイリン・ホール、
   ヘイリー・ベネット、フランキー・フェイソン

 

歴史発掘度★★★★☆

人権無視度★★★★★

満足度★★★★☆

 



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