映画と本の『たんぽぽ館』

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夜明けの祈り

2017年08月21日 | 映画(や行)
忌まわしいできごとの末に・・・



* * * * * * * * * *

1945年12月、ポーランド。
赤十字で医療活動に従事するフランス人女性医師マチルド(ルー・ドゥ・ラージュ)のもとに、
一人の修道女が助けを求めてやってきます。
修道院へ行ってみると、ソ連兵の暴行により妊娠した修道女が7名もいて、
すでに臨月に達しているのです。
信仰と現実の間で揺れる修道女たち。
激務の合間を縫って秘密裏に修道院に通い、
診察を続け、お産の手助けをするマチルド。
修道女たちは次第に彼女を信頼し頼るようになってきます・・・。



本作、実話に基づいているというところが凄いです。
予告編で、ソ連兵が尼僧を蹂躙したことを知ったときには、
憤りにかられて止みませんでした。
ポーランドの歴史は蹂躙の歴史。
この頃ポーランドは一度ソ連に占領され、後にドイツが乗り込んでくる。
二次大戦のドイツ敗退により再びソ連の占領下となる・・・
この時のことなんですね。
少なくともドイツの占領時にはそのようなことは起こらなかったということで、
なんとも皮肉です。
しかしよりにもよって尼僧を襲うとはなんという破廉恥な・・・。
言葉もありません。
そしてその上、妊娠までしてしまうということで、
彼女たちには何の罪もないのに、罪悪感にかられてしまう。
また、このことが外に知られれば、修道院は閉鎖されてしまうだろうし、
自分たちの行き場もなくなる・・・。
だからひたすら隠し通すしかない、ということで、
ポーランド人の医師を呼ぶこともできなかったわけです。



しかし本作のテーマはそのような非道な行いの問題ではなく、
「命」の問題なのです。
このように忌まわしいできごとの末に生まれてきた赤子でありながら、
それはなんと汚れなく無心に生きようとしていることか。
この小さな命こそを貴重と思い、
守ろうと必死の努力をするマチルドの姿が、光ります。



「以前のように祈っても心が休まらなくなってしまった」と語る尼僧。
まさに、妊娠を免れた者にとっても大変な心の傷を残すできごとです。
このようなときにでもやはり神を信じることができるのかどうか・・・。
これこそが神の試練と言うのは簡単ですが、
難しいですね・・・。


でもこの重くつらいストーリーの末の結末が、実にいい。
このラストに救われた思いがします。
やはり子供たちは未来を感じさせてくれるからいいですね。


静謐な修道院の中の映像がステキです。
薄く積もった雪の森を行く修道女の映像がなんとも言えず美しい。

「夜明けの祈り」
2016年/フランス・ポーランド/115分
監督:アンヌ・フォンテーヌ
原作:フィリップ・メニヤル
出演:ルー・ドゥ・ラージュ、アガタ・ブゼク、アガタ・クレシャ、ザンサン・マケーニュ
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★★


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