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「かたづの!」中島京子

2017年08月22日 | 本(その他)
もう一つの“女城主”物語

かたづの! (集英社文庫)
中島 京子
集英社


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遠野の羚羊の片角には霊妙な伝説がある。
慶長五年、根城南部氏当主直政の妻・祢々は片角の羚羊と出会う。
直政と幼い嫡男・久松が立て続けに不審な死を遂げた直後から、
叔父の三戸南部氏・利直の謀略が見え隠れしはじめた。
次次とやってくる困難に祢々は機転と知恵だけで立ち向かう。
「戦でいちばんたいせつなことは、やらないこと」を信条に
波瀾万丈の一生を送った江戸時代唯一の女大名の一代記。
河合隼雄物語賞(第三回)、歴史時代作家クラブ賞作品賞(第四回)、
柴田錬三郎賞(第二十八回)、王様のブランチブックアワード2014大賞受賞作!!

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女大名一代記といえば、ちょうど今年やっている大河ドラマ「女城主直虎」。
そんな歴史物語かと思えば、本作、全く違ったアプローチの仕方をしています。
というのも、語り手が羚羊(カモシカ)で、しかもその角(つの)! 
なにやら初めからおとぎ話かファンタジーめいていますが、
それもそのはず、本作の舞台は遠野でありました。
だからといって、物語がファンタジックかというと決してそうではありません。
史実に基づいた熾烈な女の一代記です。


始まりは八戸。
根城南部氏当主直政の妻・祢々は
夫と幼い嫡男を立て続けに亡くしてしまいます。
それというのも、ここの宗主の三戸南部氏・利直で、
祢々にとっては叔父に当たる人物ですが、
彼は何とかして根城南部氏の家を取り潰して
己の支配するところにしようと躍起になっているのです。
それで、この度の当主と嫡男の死は、利直の陰謀によるものではないかと噂されます。
根城南部氏唯一の男子を亡くし、
祢々は次の後継者ができるまでの間、ツナギに自らが当主を務めることにします。
髪を落とし尼となって・・・。


うーん、この展開、まさに大河ドラマと同じ。
女は自らの意にそまない結婚を拒むためには、
死ぬか尼になるかしか道がないということですね。
さもなくば、宗主の手中の人物を婿に押し付けられるだけなのです。
この本は2014年に刊行されたもので、決してNHK大河ドラマに影響されたわけではありません。
作中に女が当主を務めた例として、井伊直虎の名が挙げられているくらいです。


祢々は尼僧となって「清心さま」と呼ばれるようになりますが、
その後も利直の執拗な根城南部いじめは続きます。
そしてその最大だったのが、なんと八戸から遠野への移封。
すなわち、先祖代々受け継いできた豊穣な八戸の地を捨てて、
新たに遠野を治めよ・・・ということなんですね。
海もない山の中の、未開の人心荒れ果てた地へ行くくらいなら、
三戸に討ち入って死んだほうがマシ・・・と、はやる家臣たちを説得し、
自ら泣く泣く新たな地へと旅立つ清心・・・。
その道のりも大変に困難なものでしたが・・・。


そしてまたそこは思いの外美しく豊かな土地ではあったのですが、
土着の武士たちと八戸から移住した武士たちとの相克や、
伊達との境界にある金山での揉め事など、
困難なできごとは果てしなくつづくのです。
運命に翻弄されながらも自分らしい生き方を貫いた女性。
素晴らしい物語でした。
そして遠野にふさわしい、片角や河童たち、
絵から抜け出したぺりかんなどの登場が、
重苦しさを和らげています。
まだ人と自然界のなりわいが一つであった昔・・・、
そういう雰囲気がまたひなびた味わいを醸し出し、魅力を発揮しています。


「かたづの!」中島京子 集英社文庫
満足度★★★★★



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