映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

そして父になる

2013年10月01日 | 映画(さ行)
男は子どもとつながっている自信がないから、血にこだわるのでしょう?



* * * * * * * * * *

2013年第66回カンヌ国際映画祭で
長いスタンディング・オベーション。
そして審査員賞受賞ということで、随分前から話題になっていました。
実のところ是枝監督作品、それほど人は入らないのが常なのですが、
今作は違いました。
大きな劇場がほとんど満席。
う~ん、さすが福山雅治効果。
かく言う私も、ミーハー気分があるのは認めます!!



大手建設会社のエリート社員で、都心の高級マンションに暮らす野々宮(福山雅治)。
妻(尾野真千子)と6歳になる長男慶多の3人暮らし。
彼は仕事が忙しくて育児はほとんど妻任せ。
子どもと一緒に遊ぶことも殆どありません。
そんなある時突然、
息子が出生時に取り替えられた他人の子であることが判明します。
それを知った野々宮の第一声が
「やっぱり、そういうことか」。
どこか人より一歩前に出ようという意欲が感じられない慶多を、
野々宮はもどかしく感じていたようなのです。



子供を取り違えられたもう一組の夫婦は
電気店を営む斎木(リリー・フランキー、真木よう子)。
こちらはあまり裕福ではないけれど、
下に弟、妹も居て、ごく庶民的でなんとも賑やか。
特にこちらのパパは子煩悩で、
体を張って子どもと一緒にお風呂に入ったり、遊んだり。
でも、野々宮は、斎木の家族を上から目線で下品だと思っています。
まあ、ちょっとそういう嫌味な感じのオトコです。
双方戸惑いながらも、血縁を優先し、
子供を“交換”することにしますが・・・。


どうにもこうにも、切ないですね。
大人はそれで無理やり納得するにしても、子供には全く納得できません。
「どうして?」という斎木家で育った琉晴の問に、
答えられない野々宮。
家族とは血なのか。
それとも共に居て慣れ親しんだ時間なのか




私には野々宮の妻、みどりが言った言葉が正解のような気がします。
「男は子どもとつながっている自信がないから、血にこだわるのでしょう?」


生物の本能として、自分のDNAを残そうとする。
だから、血にこだわるのは当然のことなのかもしれません。
けれどもヒトは、“社会”をつくる生き物でもあります。
個よりも群れで存続を図ろうとする、
それがヒトのヒトたる所以でもある。
だから、どちらが正解ということもなく、
この二組の夫婦は悩みに悩むのですね。



「そして父になる」。
この題名が全てを物語っていますが、
この事件でようやく野々宮は子どもとまっすぐ向き合う「父」になるのです。
福山雅治、好演です。
泣かされました。



「そして父になる」
2013年/日本/120分
監督:是枝裕和
出演:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー

家族を考える度★★★★★
満足度★★★★★


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2 コメント

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 (iina)
2014-02-28 10:36:56
>男は子どもとつながっている自信がないから、血にこだわるのでしょう?
この映画の主人公が、血にこだわったに過ぎませんから、ひとつの解釈です。
こどもを取り違えるというあり得ないケースで、二者択一を迫ることは理不尽です。

こどもは、いずれ巣立っていくものであり、嘗ては意識無意識を問わずに、地域で育てたという素地が日本にあった
気もしました。考えを変えると、村八分につながるような過度のかかわりを嫌って、核家族化が進み、都心の過密化が
はじまりました。
こころを広くもち、子育ては家族間だけの問題と考えぬ社会が好ましいのでしょうが、価値観が共通でないと様ざまな
軋轢が生じます。

こどもたちが、自然に物語りにとけこんでいて頬笑ましかったです。
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地域で (たんぽぽ)
2014-03-06 20:34:12
>iinaさま

>嘗ては意識無意識を問わずに、地域で育てた
そうですよね、本当は子供の成長にとってはそういうのがいいのではないかと思います。近所のオジサンやオバサンが自分の子供のように世話を焼いたり叱ったり。今は核家族化が進んで自分の子供を囲い込むようになってしまった。自分の子供しか愛せない・・・。
そうは言ってもやはり原点回帰は難しそうです。
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