映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

エクレール/お菓子放浪記

2011年07月30日 | 映画(あ行)
エクレール、それは、あこがれの人であり、平和な時代への希望であり・・・



              * * * * * * * *

作家西村滋氏の自伝的作品を映画化したものです。
昭和18年、孤児院育ちの少年アキオは、盗みで少年感化院へ送られてきます。
でもその時世話になった担当刑事、遠山のことが忘れられません。
彼はアキオに菓子パンを分けてくれたのです。
そもそも空腹のために盗みを働いた。
甘いものなど滅多に食べたこともない。
そんなアキオにとっては、夢のようにおいしい食べ物だったのですね。

感化院にはサディスティックで嫌な教員もいたけれど、
唯一、やさしい陽子先生にアキオはあこがれます。
特に彼女が歌う「お菓子と娘」には、
食べたこともない「エクレール」というお菓子が出てくるけれども、
そのお菓子へのあこがれが陽子へのあこがれと同一のものになっていくわけです。

エクレールはつまり、エクレアですね。
今となってはむしろ地味なくらいのお菓子ですが、
何も甘いものがなかった戦時中、
この歌は甘いものへのあこがれをかき立てると共に、
そのような甘いものが食べられる平和な時代への希望ともなるのです。


さて、アキオはやがて感化院からある女性との養子縁組で引き取られていきます。
その一見上品そうなお婆さんは、
実はとんでもないボロ屋に住む強欲ばあさん。
アキオを働かせてお金を得ようとする魂胆が見え見えなのですが、
アキオは生まれて初めての家族に幸せいっぱい。
初めての給料を誇らしげにすべてお婆さんにさしだします。



この辺りは、ひどい話といえばひどい話だけれど、
でも本当の家族ならやはりそうするだろうと思えるのです。
フサノばあさんは、まあ、欲得づくではありますが、
きちんとアキオにご飯を食べさせていますよね。
むしろアキオが人の話に左右されてお婆さんを悪人だと思い込んでしまう方が哀しい。
やっぱりまだアキオは子供なんですね。

子供だって働いて、家族のため、自分のため、食い扶持を稼いでいた・・・。
そういう時代の話です。
でも、本当はそれがあたりまえのことなのかも。
今の「勉強すること」が子供の仕事みたいになってしまっている方が異常なのでは・・・、
と思わなくもありません。

まあともかく、そんな誤解というか現実直視?で落胆してしまったアキオは
家を飛び出し、あてのない旅を始めます。
これが「放浪記」たる所以。
それにしても、貧しく世知辛い戦時中でありながら、人々の心は温か。
映画館のおかみさんや、旅回りの一座。
人々の輪の中で、きちんとアキオの居場所がある。
そしてまたそんな中でも、
アキオの心にはエクレールと陽子先生へのあこがれが常に希望の光を放っているのです。
何ともふんわりと甘く心が温かになる作品。


主演の吉井一肇くんはミュージカルで活躍しているのですね。
どうりで、ボーイソプラノの「お菓子と娘」がすばらしい。
演技は、やはり舞台の演技を感じましたが・・・。
いしだあゆみの強欲ばあさんも、ナイスでした!!


また、この作品、東日本大震災前に宮城県石巻市でロケをしていまして、
津波前の美しい風景がフィルムに残されています。
きっとまたこの美しい光景は取り戻せますよね!


「エクレール/お菓子放浪記」
2011年/日本/107分
監督:近藤明男
原作:西村滋
出演:吉井一肇、早織、遠藤憲一、高橋惠子、林隆三、いしだあゆみ



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2 コメント

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良い映画でした (こに)
2011-08-02 22:41:52
アキオに身寄りが無いとわかっていても見送る旅の一座とか、死を待つだけの傷痍軍人と成り果てた教官とか
人が生きるってこういうことなのか、と思い知らされました
東北でロケされた映画が多いのに改めて驚きました
早い復興を願いたいです
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一皿のおかず (たんぽぽ)
2011-08-03 19:55:58
>こにさま
写真にもありますが、お婆さんとの食事シーン。ご飯とお味噌汁。おかずは一つのお皿のめざしを分け合う。このシーンが何だか気に入っています。
生まれて初めて自分のお箸やお茶碗を持った、と、アキオがいかにもうれしそうなこのシーン。生きていくのは厳しいけれど、こんなささやかなことでも幸せを感じられる。これは大事ですね。
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