映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アド・アストラ

2019年09月27日 | 映画(あ行)

ヒーロー色を廃して

 

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ロイ(ブラッド・ピット)は、父の意志を継ぎ、エリート宇宙飛行士として活躍しています。

その父・クリフォード(トミー・リー・ジョーンズ)は
地球外生命体の探索に旅立ってから16年後、
地球から43億キロ離れた太陽系の彼方で行方不明となったままなのです。
そのときからまた長い年月が過ぎた今、軍上層部がロイを呼び出します。

ロイの父が実は生きていて、太陽系を滅ぼしかねない「リマ計画」に関わっていると言うのです。
その父を探し出し真相を突き止めるため、ロイも宇宙へ旅立つことに・・・。

 

ロイは常に沈着冷静で、自らを厳しく律しています。
ほとんど感情がないかのよう。
本作中で、宇宙船の運行中には、しつこいくらいに精神分析チェックが行われます。
つまりそれだけメンタルに影響が出やすいのでしょうね、宇宙という特異な空間では・・・。

ある事件があって、その後ロイは自己を分析します。
父が宇宙へ旅立ち行方不明になったときに、母と自分が取り残されたことに「怒り」を感じた、と。
けれどその怒りを表現することができず、自分の中に抱え込んだままになってしまった。
自分が、人とうまく付き合えないのは、このときのことが元になっているのではないか・・・。

なるほど、しかしこの旅でロイがその父親と対峙することで、
彼の中の何かが変わっていくということなのです。

ストーリーだけを追えば、ロイはタフでラッキーで、ヒーローそのものなのです。
ところが本作中の彼の描き方は、ひたすらそうしたヒーロー色を廃し、
内面描写に徹しています。
そしてまたブラッド・ピットがしっかりとその意図に沿っている。
そうでした、昨今、豪放磊落なオヤジ的役柄の多いブラピですが、
もともと繊細な内面を持つ青年役が似合う方なのでした。

なんだかドキドキするほどの宇宙の深淵と孤独がしっかり描かれていたように思います。
宇宙の深淵への旅とは、すなわち、自己の深奥への旅なのです。
これもまた一つの「行きて帰りし物語」。
帰ってきたときのロイの変容をしっかり見届けましょう。

 

<シネマフロンティアにて>

「アド・アストラ」

2019年/アメリカ/123分

監督:ジェームズ・グレイ

出演:ブラッド・ピット、トミー・リー・ジョーンズ、ルーマ・ネッガ、リブ・タイラー

宇宙の深淵度★★★★☆

満足度★★★★★

 



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