映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ともしび

2019年03月31日 | 映画(た行)

人生の根幹を見つめ直す

* * * * * * * * * *

う~む、終始キビシイ話でした。



ベルギーの地方都市。
アンナ(シャーロット・ランプリング)は夫(アンドレ・ウィルム)と共に慎ましく暮らしてきましたが、
なんとここに至って、夫が刑務所に入ることになってしまったのです。
一人取り残された彼女は、必死にこれまで同様の日々の生活を守ろうとしますが・・・。

 

暗い表情のアンナをカメラが執拗に追い続けます。
夫の罪というのは明確にはされませんが、どうも性犯罪らしいのです。
本人は否定していますけれど。
アンナは、夫を信じたいとは思うけれど、
裁判の結果がすべてを物語っているような気もする。
そんなわけで、夫が刑務所に赴く前夜のシーンから始まるのですが、
とてつもなく寒々しい食事風景なのでした。

彼女はある家の清掃を請け負っていて、
趣味として演劇教室に通い、時にはプールで運動したりもする。
そんな日常を頑なに続けているのですが、当然それを楽しんではいない。
信じていたというより疑ったこともなかった夫。
けれどそれが根幹から崩れてしまった。
年齢から見ても、彼女の結婚生活イコール彼女の人生であったことでしょう。
特別に仲は良くなかったかもしれないけれど、このまま穏やかに人生を終わるはずだった。
いったい自分のこれまでの人生は何だったのだろう・・・、
そう問わずにいられない気持ちがよくわかります。
彼女の気持ちを表すセリフも解説も何もないのですが、
地下鉄の中で、裏切られた恋人を罵倒する女性の言葉が、彼女の本心を代弁しているのです。



そしてある時、アンナはニュースで浜辺にクジラの死骸が打ち上げられていることを知り、
つい足が向いて見に行ってしまいます。
そこで彼女が何を思ったのか。
作中ではそれも語られませんが、
おそらく、彼女はこのクジラと自分を重ね合わせたことでしょう。
ここで為すすべもなく腐臭を放ち横たわる死体・・・。



ラストの地下鉄ホームに佇むアンナの姿には実にハラハラさせられましたが・・・。
シャーロット・ランプリングの深く悲しみに満ちた眼差しは実に印象的です。


それにしても、こんな形で人生の意味を突きつけられるのはキツイ・・・!
せめてぐちを聞いてくれる女友達の一人くらいいなかったのか
・・・と私など思ってしまうわけですが。
そんな人がいるのならこの作品は成り立たない・・・。
でも、女の強かさをもって、開き直って生きていくことだってアリなわけですよね。
そう期待します。
すぐに別の犬を飼って!

<シアターキノにて>
「ともしび」
2017年/フランス・ベルギー・イタリア/93分
監督:アンドレ・パラオロ
出演:シャーロット・ランプリング、アンドレ・ウィルム、ステファニー・バン・ビーブ、シモン・ビショップ、ファトゥ・トラオレ

やりきれなさ★★★★☆
満足度★★★.5